窓際の魔法   作:凪絆りぃ

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3日目です!


#3窓際の関係

 

放課後の教室は、少しだけ時間が止まったような静けさに包まれていた。

廊下を行き交っていたはずの生徒たちの気配はすでになく、窓の外から聞こえるのは、遠くの運動部の声と、風に揺れる木の葉の音だけだ。

 

窓際の一番後ろの席。

深見優と黒瀬夏夜音は、隣同士で座っていた。

 

今日、二人は課題を提出し忘れた。優は昨日の夜、配信を見ているうちに寝落ちしてしまったのだ。

案の定、帰りのホームルームで名前を呼ばれ、担任に淡々と言われた。

 

「終わるまで帰れないからな。静かにやれよ」

 

それだけのことだった。

特別ではない、よくある出来事。

日常の延長だと思えばなんてことは無い。

 

机の上には、未提出の課題と教科書。

ほかに余計なものは何も置いていない。今日は消しゴムも落とさないように机の真ん中、目の前に置いてある。

 

 

チラと横を見ると黒瀬夏夜音は背筋を伸ばし、視線を落とし、ペンを走らせていた。

表情は穏やかで、言葉数が少ない彼女らしい静けさをまとっている。

 

休んでいるわけでも、ぼんやりしているわけでもない。やるべきことを、淡々とこなしているだけだった。

 

優もまた、黙って自分の課題に向かう。教室に二人きりだという事実を、あえて意識しないようにする。

 

 

——それでも、頭のどこかでは、過去二日の出来事が重なっていた。

 

二日前、消しゴムを落としたあの日。

 

床に落ちるはずだったそれを、無意識のうちに引き寄せてしまった。ほんの一瞬。自分でもはっきりと自覚できないほど、浅い魔法。

 

誰にも見られていないと思った。

だが、黒瀬夏夜音は、それを見ていた。

 

 

そして昨日の放課後、彼女は静かに言った。

 

「今日は、何もなかったね。」

 

問い詰めるわけでもない。興味を示すわけでもない。ただ、確認するような声音。

 

なかったことにする。それが二人にとって、一番自然な選択だった。または、黒瀬夏夜音は本当に寝ぼけていたとでも思っているのかもしれない。そう思っていてくれた方が優には都合がいい。

 

 

 

今日ももちろん優は意識的に魔法を使うつもりはなかった。学校で、人のそばで、そんなことをする理由はない。

 

けれど、集中しているとき。

 

余計な思考が静まり、手を動かす感覚だけが残る瞬間。集中して一つに意識が向いている時。無意識に世界の輪郭が、ほんのわずかにずれることがある。そのずれにとっくに慣れてしまっている優はすぐには気がつけない。

 

これこそ優が作り出せる幻の一端。

 

 

 

 

——その瞬間。

 

 

 

 

夏夜音は、視界の端に奇妙な感覚を覚えた。机の角。教科書の端。

 

見慣れているはずの教室の一部が、ほんの一瞬だけ違う位置にあるように感じられた。実際に形が変わったわけではない。けれど、確かに「何か」が重なった感覚。

 

 

「……」

 

 

思わず、かすかな息が漏れる。

声にはならない。

 

驚きよりも先に、納得が来た。

 

 

 

2日前に彼と二人きりの教室で見た違和感。消しゴムが床に落ちる勝手に寸前で止まるという非科学的な現象。しかし瞬きをしたあとには消しゴムは深見優の手の中にあり、私は寝ぼけてしまったのかと思ったのだが...あの時は思わず声にも出てしまった。家に帰ったあともあれが夢の続きだったのではないかとか、彼が消しゴムに紐を結んでいて落ちなかっただけではないかとか色々考えたが、全くそんな感覚はしなかった。昨日は少し聞いてみようとも思ったが。何も無かったから上手く切り出せなくて微妙な反応をされてしまったから、幻というありえない事で誤魔化した。

だが今、この感覚。

 

それらは、すべて同じ感覚の線の上にあった。そしてこの教室、窓際、放課後、深見優と2人きり。条件は全くおなじ。

 

夏夜音は視線を戻し、何事もなかったかのようにペンを動かし続ける。深見優を見つめることもしない。だが、この違和感の正体をどうしても確かめたくなり、あの時と同じように声を振り絞った。

 

 

「.....深見優くん」

 

「.....え?」

 

「......」

 

教室には、再び静寂が訪れる。けれどその沈黙は、昨日までとは違っていた。

 

夏夜音は沈黙を嫌うかのように声に出した。

 

 

「あのさ...!」

 

 

 

 

 

「.......深見優くん。あなたは何者?」

 

 

 

 

一瞬何を聞くべきか戸惑い、全ての要因は深見優にあるのではと考え、探りを入れてみた。

だが優は一瞬目を見開き、すぐに普通の顔に戻ってしまった。

 

「何者っていうか、普通の男子高校生、だと思う。」

 

「そ、そうだよね......」

 

自分で言っておいて、少しだけ肩の力が抜けた。納得したかったのか、納得していないのか、自分でもよく分からない。

 

けれど——。

 

夏夜音は、課題用紙からふと顔を上げ、深見優を見た。

 

「でも」

 

 声は低く、静かだった。

 

「今もこの前も、ここで、同じ"感じ"がした」

 

責めるような口調ではない。断定もしない。ただ、事実を並べているだけ。

 

優はペンを止めた。ほんの一瞬だけ。

 

「……黒瀬さんってさ」

 

 少しだけ言葉を選んでいる間。

 視線は机の上に落とされたまま。

 

「気のせい、って言われても納得しない?」

 

「……しない」

 

即答だった。

だから優は、ため息をつく代わりに、小さく肩をすくめる。

 

「じゃあさ」

 

声のトーンは変わらない。軽くも、重くもない。

それでも視線はこちらを見ずに、泳いでるようにも見えた。

 

「たとえば、だけど」

 

そこで一拍、間を置く。

 

 

「世界ってさ。たまに、ほんの一瞬だけズレることがあるって思わない?」

 

 

夏夜音は、何も言わなかった。否定もしない。

感じたことがまだ確かでは無いから。

 

「目の錯覚とか、集中しすぎたときとか、疲れてるときとかさ。そういうときに、ありえないものを見た気がする、って」

 

どこまでが本当で、どこまでが逃げなのか。その境界線が、わざと曖昧だった。見えそうで見えない感じ。

 

「……それは、深見優くんが?」

 

夏夜音の声は、少しだけ低くなる。

 

「うん、まあ」

 

優は曖昧に笑う。

 

「俺のせい、って言われると困るけど。でも、黒瀬さんのその“感じ”そのものを否定するつもりもない」

 

夏夜音は、しばらく黙っていた。

追及すれば、もう一歩踏み込める。

でも、踏み込みすぎれば、何かが壊れる気もした。

 

 

「……誰にも言わない」

 

ぽつりと、そう言った。

優は少し驚いた顔をしたあと、苦笑する。

 

「ありがとう。でも」

 

そこでようやく、ちらりとこちらを見る。

 

「言わなくていいよ。今のは、たぶん“何もなかった”ってやつだから」

 

昨日と同じ言葉。けれど意味は、まるで違っていた。

夏夜音は、それ以上何も言わなかった。ただ、確信だけが胸の中に残る。

 

 

——この人には、何かがある。

 

 

けれど、それは今、暴くべきものじゃない。

 

2人はほぼ同時に課題を終えた。

教室を出る前、夏夜音は一度だけ振り返り、静かに言った。

 

 

「……また明日。」

 

「....!また、明日....」

 

それだけで十分だった。

この日から二人は、“何もなかった”を共有できる関係になったのだ。

 

 




優の魔法
・少しだけ透かして見える
・ものを引き寄せる
・自分の影の形を変えられる(影を薄くすることも出来る)
・幻を見せる

キャラ紹介
深見 優(ふかみゆう)15歳♂︎ 魔法が使える
黒瀬 夏夜音(くろせかやね)15歳♀ 眠り姫
高橋(たかはし)15♂ 優の友達

夏夜音視点から見る魔法や優の謎さと、優視点から見る夏夜音の神秘的な雰囲気、交わりだす2人.....高橋!お前はなんも無いのか!?って思いました笑

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