呪装術式「Rider Gear(ライダーギア)」
呪力を電子回路のように流すと認識した「呪導回路」と定義することで、術者自身が脳内で組み上げた論理式に沿って制御されるこの術式の特性は、なんと言っても汎用性に重きを置いている。
無下限や呪霊操術などなど、簡易領域などは除く一般的に認知される強大な術式というのは、その大半が血統依存だ。
対してこの術式は、完全に術者の認知と論理思考依存で成立している。
なので、生成された呪力をどうするかは、あらかじめ組まれたシステムと呪導回路にて定義され、呪力に対する解釈を「固定化」したのだ。
裏を返せば、術者の思想がそのまま術式に反映される仕様となっているので、ものすごく汎用性が高い。
何ができるかとすごく簡単に言えば、システムと呪導回路さえ組めば、理論上はあらゆるライダーシステムを再現可能となっているということだ。
また、俺の肉体を覆っているものについても開示しよう。
仮面ライダー555を模したこの装甲は、呪装外殻と言い、増幅器(アンプ)で増幅された呪力を高密度で圧縮しつつ、術者の四肢に沿うように外殻として形成されている。
これは「簡易領域」の一種の応用だ。術者自身を覆う極小の領域を装甲として固定化している。
ここでいう簡易領域とは、領域展開と同じ呪術における結界術の一種だ。
自身の生得領域を具現化して展開、術式を付与する「領域展開」と異なり、自身の周囲に小規模の「簡易的な領域」を展開する技。
この「領域」という考え方が非常に利便性がいい。
簡易領域の良いところは、「敵の術式を軽減しつつ、自分の呪力を強化できる」こと。
術式を明確に定義し、呪力の在り方を固定化できれば、その領域内部にいるだけで敵の術式の威力は軽減され、術者の呪力出力は向上するなどの利点がある。
ただし弱点がひとつ。
領域の押し合いに滅茶苦茶弱い。
呪術界の格ゲーで言うなら、防御力はあるが投げには弱いみたいなやつだ。
でも安心してほしい。
俺はその弱点、ちゃんと潰してある。
これも呪術を明確にシステム化しているから得られた効果だが、考え方を理屈で殴る方向に振り切った結果、変なところだけ強固になった。
よく考えて欲しい。
仮面ライダーがかっこいいと思うポイントを。
それは、仮面ライダーが「変身」とポーズをとり、ヒーローに姿を変える瞬間である。
術式開示「変身」。
いわゆる概念押し付けだ。
つまり、相手の前で変身した瞬間、それが術式開示扱いとなり、相手の生得領域が具現化されようが俺の姿形を上書きできなくなる。
ようするに、「俺はこういう見た目だ!今後ともよろしく!」というごり押し。
それに、領域内でも巻き込まれた人は自分の姿形を保っていられるだろ?あれって領域展開側が対象の姿形をそういうものだと認識しているからだ。
事実、領域展開を受けたことはあるが、術者は俺の姿をそういうものとして認識しているため、姿形が崩れない。
呪術って案外、思い込みゲー。
呪力に対して「これができる」と魂から信じ切れたやつが強い。はっきりわかんだね。
ただし、変身後に知らない敵が追加参戦してきた場合は、そいつの領域で上書きされる可能性がある。
世知辛い。
だから用意したのが術式の二重開示「ライダーアイテム使用」である。
ライダーシステムといえばアイテム。
どのアイテムがどういう特性を持っていて、どういう機能を有しているのかを目視で視認させることで、否応なくその存在を認識させ、現実に固定化させるのだ。
これを視覚的に見せつけることで、「ほら!あるだろ!現実だぞ!認識しろ!」という無言の圧をかけ、相手の概念上書きを阻止する。
要は、呪術的、物理的、認識的あらゆる面からライダーを押し通すという力ずくの理論武装である。
ちなみにこの理論、領域展開が使えない、それ以前に生得術式すら持ってない術師でも習得できることは判明している。
ライダーギアは術者の呪力特性によってアンプ(増幅器)の設計が変わるし、術式の解釈具合に依存してるところもあるので性能はマチマチになるが、システムさえ組んでしまえば俺以外の術師でも使用可能になるのだ!
え?なんでそんなこともう知ってるかって?
だって父と一緒に色々試したもの。
父は俺の作り出した術式「ライダーギア」を見て最初は訝しんできた。制限と開示多すぎじゃね?破られたら詰むだろと。だが、仮面ライダーはその程度では挫けない。術式の汎用性と利便性を知った父と一緒に、ライダーギアのブラッシュアップを敢行。その過程でこの地に蔓延っていた呪霊が鏖殺されることになったが、それが大事になったと知るのは後のことである。
ちなみに父の使うライダーシステムは仮面ライダースーパー1である。スーパーハンドを駆使し術式開示しまくって、乾流体術を織り込んだ攻撃を繰り出すのだ。
俺の英才教育も相まって術式への解釈を深めた父は、こないだ特級呪霊を「スーパーライダー梅花二段蹴り」で沈めていた。うーん、強い!
乾流体術は一見ラフに戦っているように見えるが、その実は相手の攻撃を避け即攻撃を叩き込む実戦向けの体術。父ほど極めれば、白刃どりした刀を折ったり、蹴りで低級呪霊を真っ二つにしたりとかできるのだが、そこまで極めることは俺にはできていない。
しかし体術としての完成度は圧倒的だ。
「縺薙?髮鷹ュ壹′?」
「何言ってんのかわかんねぇよ、日本語喋れ」
巨大な腕を振るった一撃を最低限のスウェーバックで躱し、懐に潜り込んで拳を叩き込む。メキメキと骨と肉を断つ一撃に呪霊はのたうち回る。
相手が怯めば追撃を繰り返して反撃する暇を与えない。
俺の拳は人間的な性能を完全に逸脱しているが、これは俺の身体能力が突然バグったわけではない。
すべて術式で固定化されたファイズギアの出力だ。
ご存じの通り、ファイズのスペックは、
パンチ力:2.5トン
キック力:5トン
ジャンプ力:35メートル
と公式に明記されている。
数字で定義されている以上、呪導回路はその基準に合わせて、腕部、脚部へ呪力を一気に集中させる。「数値があるなら呪力で再現できるだろ」という発想である。
呪術界の学者に見せたら卒倒するレベルで雑だが、結果は出ているから問題ない。
その結果、低級術師が必死に張る防壁を、俺は「ちょっと硬い段ボール」くらいのノリでぶち抜く。
ぶっちゃけ、俺はこんな制御できない(断言)
こんな高度な呪力制御、当然ながら俺個人では絶対に無理だ。
人間が自力で2.5トンを殴れるなら、とっくに呪術界は筋肉で支配されている。俺はただ、あらかじめ固定化しておいたライダーギアの仕様に呪力を流しているだけ。
努力と才能ではなく、完全にシステム頼り。
でもいいんだ。
システムも呪術も結果がすべてだから。
動けば正義。それは世界の真理である。
「さて、こいつで止めだ」
敵対している呪霊に拳を叩き込み悶えているのを眺めながら、俺は腰に備わる「SB-555L ファイズポインター」を取り出す。
「SB-555P ファイズフォン」からファイズギアの起動メモリーである「ミッションメモリー」を引き抜き、ポインターに装填する。
《Ready》
電子音声と共にエクステンションシリンダーが伸長したポインターを右足首のエナジーホルスターに装着して、ベルトに備わるファイズフォンの「Enter」ボタンを押した。
《Exceed charge》
その一連の「術式開示」を目撃した五条の六眼には、これまでの比じゃない呪力がベルトから生成されているのが見えてしまった。
(呪力出力で言えば俺の使う術式順展【蒼】……いや、それ以上だ)
そのとんでもない呪力が脚部に集中した瞬間、その対象は飛び上がり、パーツを装着した足を前に蹴り出すと、赤い光と共に赤い呪力の光が円錐状に形成される。
「はぁああ……でやぁあああーーー!!」
その円錐状に形成された呪力へ飛び込むような飛び蹴りをしたそれは、気がつくと呪霊の遥か背後へと着地していた。
クリムゾンスマッシュ。
右脚のエナジーホルスターに装着したファイズポインターから円錐状のポインティングマーカーを放って目標を捕捉し、跳び蹴りを叩き込む。
ちなみに破壊力は17トンだ。
『繝ャ繝 蜈郁シゥ縲√お繝ォ蜈郁シゥ!!』
呪霊の断末魔とともに、その体表から蒸気のように浮かび上がる紋章。
それは《Φ》──ファイズギア特有の“刻印”を象っていた。
青い炎が噴き上がり、呪霊は形を保てないまま砂のように崩れ落ちる。
その瞬間。
俺の背後から呪力の塊が飛んでくる。
「今の避けるのかよ。」
咄嗟に宙返りを打って後ろからの攻撃をかわすと、呆れ声とともに、手を構える白髪の男。
隣では黒髪で前髪がピロンと下ろした特徴的な髪型の男が肩を竦めている。
「悟。いきなり攻撃は可哀想だよ。初対面だよ?」
「いやぁ〜あれ絶対当たると思ったんだけどねぇ。
てかお前、なにその……トンチキな術式」
五条悟は楽しげに目を細め、夏油傑は微笑を浮かべつつも、微妙に警戒していた。
「なんだよ、あんたら二人呪術師かよ……なに?悪さをしようっての?」
「どちらかというと悪さをしてるのはそっちじゃないかな?」
夏油が穏やかに言うが、言っている内容は全然穏やかではない。呪霊操術を扱う夏油の背後に呪霊がワラワラ生まれる。
すると、その二人の背後から銀色の巨大な物が飛び抜けていった。
「今度はなんだよ……!」
轟音を立てて頭上を通過した存在を見て五条は目を見張る。
飛来したのは人型に変形したオートバジンだ。
仮面ライダー555では、スマートブレイン・モータースが、仮面ライダーファイズの支援用に開発した、可変型バリアブルビークル
次世代高速CPU、スマートPCIVが搭載されているため自律行動が可能。
ファイズやプログラムされた対象者の危機には、自力で駆けつける性能を持っている。
作った当初は、俺ごと呪霊を倒そうとして攻撃を仕掛けられたりしたが、今は息の合った連携を取ることができる。
着地したオートバジンは人型からバイクの形へ変形し、俺はバイクに歩み寄る。
「こいつはオートバジン。俺の相棒だよ。」
その名を告げると同時に、左ハンドルグリップとなっている「SB-555H ファイズエッジ」にミッションメモリーを装填し、引き抜く。するとソル・クリスタル製の刀身フォトンブレードが展開される。
空気は一気に緊張へ傾く。
三者の睨み合いが続く──その時だった。
ピロロロロ……!
場違いなほど軽い着信音が、戦場に響く。
「……出てどうぞ。」
五条が遠慮ゼロで言う。
仕方なく応答すると、父の声が聞こえてきた。
『あ、琢己?今日な、急遽東京から呪術師のお客さんが来るって話になってだな。駅に迎えに行ったんだが、約束時間になっても来なくて……何か知ってるか?』
そう言われて、俺は目の前で対峙している白髪+黒髪コンビを見る。
「……それって二人組の高校生くらいの?」
『そうそう。二人組で、一人が“五条家の当主”らしくて……琢己?聞いてるか?お前?』
俺は片手で顔を覆い、晴れ渡った青空を見上げた。
……うん、どう考えてもやらかしてるわ。これ。