プログラマー舐めんじゃねぇぞ   作:紅乃 晴@小説アカ

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・認知された力

 

 

呪術規定。

それは呪術廻戦における非術師を庇護すべく制定された、遵守すべき呪術界の法律である。

 

1条(使命)

呪術師は呪術の脅威を排除しなければならない。

 

2条(呪術総監部)

日本国政府内に呪術総監部を設置。

 

3条(呪術高専)

高専の役割は呪術師の教育及び監督の機関。

学長は全ての呪術師に対して指揮できる。

学長は呪術総監部が任命する。

呪術総監部は学長を指揮する権利がある。

 

4条(呪術師の等級)

【特級】【一級】【準一級】【二級】【準ニ級】【三級】【四級】があり、上級の呪術師は下級の呪術師を指導する。等級を認定、及び変更する権利などは呪術総監部にある。等級に応じて手当が変動する。

 

5条(懲罰)

呪術総監部は呪術師に懲罰を科す権利がある。

 

6条(引退)

呪術師は呪術総監部の承認を得て引退することができ、引退後の呪術師は無等級になる。

引退後の呪術師は呪術を行使してはならない。

ただ脅威を排除する場合はよし。

 

7条(脅威への対応)

【呪霊】【呪物】【呪詛師】などを脅威とし、それを発見した場合、学長に報告しなければならない。

緊急のときはその場で制圧してもよし。

 

8条(秘密)

非術師に呪術の存在を明かしてはならない、ただ脅威が迫ってる場合はよし。

 

9条(非術師の保護)

非術師に呪術を用いて危害を加えてはならない、ただ他の人の命を守る場合はよし。

 

だが、条文は解釈次第で如何様にも捻じ曲げられる。事実、規定を執行する呪術総監部は長い年月の中で腐敗を極め、保守と私利私欲の温床と化した。

 

黒でも総監部が白といえば白。

その逆も日常茶飯事。

 

任務に疑義を呈すだけで呪詛師認定。等級は政治に左右され、引退すら許されない術師もいる。庇護の名のもとに、術師は総監部に管理される資源となった。

 

その腐敗を嫌い、中央から退く者は少なくない。

 

かくいう乾家もまた、東北の地に引っ込み、総監部との関係に距離を置く存在であった。

 

乾家。

 

対外的にみて、御三家である五条家、禪院家、加茂家という、歴史と血統と才能が揃ったレジェンドには劣るが、それでも連綿と続いてきた一族。

 

血族によって受け継がれた強力な呪術といったものはなかったものの、呪霊との長きにわたる戦いとの中で生き延び、血を絶やすことなく続く「歴史」の強さを、そのときの俺は知る由もなかった。

 

 

 

 

特級呪霊を倒した後、俺は二人を連れて、ひとまず親父が待っている家に帰ってきた。住宅地の一角にある我が家は、そこまで大きな屋敷とかではなく、それをみた途端に片割れは「ちっさ、何この小屋」とぼやいていた。

 

これが一般家庭の大きさなんだってば!この二人って何者……?そう思いながら玄関を開ける。

 

「東京から客人が来るっていうからね。駅でちゃんと待ってたんだよ? それなのに、当の本人たちが……ほら」

 

そう言いながら、玄関で待っていたのは、休日のパパの典型みたいなポロシャツにストレッチパンツという実家感満載の姿の、父……乾 勇治である。

 

父は二つ折り携帯をぱかりと開いた。

 

液晶には、呪霊とプロレスしている俺の姿。そして、その様子を興味津々で眺めている五条と夏油まで、しっかりと映っていた。

 

「どういうことかな、琢己」

 

穏やかな声なのに、言い訳を許す気配はゼロだ。

 

「……えーと……そのですね……」

 

「取り繕った言い訳なんて求めてないからね?」

 

「へぐぅ……」

 

言い訳を見つけられない俺はそう情けない声を上げることしかできない。そんな俺をみて、父は深くため息をつき、携帯を閉じた。

 

 

 

 

息子である琢己が部屋にこもって延々何か作っていた時期、家族で「まあ、成長過程だよね」と静観していた。

 

が、突如「ハーピーバースディィイイ!!」と叫びながらベルト片手に踊り狂い、外に飛び出したあの日、「ついに気が触れたか」と本気で心配したのは、家族全員の記憶に残っている。

 

琢己が創造した術式「ライダーギア」。

 

呪力を電気と捉え、脳内で回路として構築し、システムとして制御する。初めて説明された時、父の理解は二言で尽きた。

 

『お前は何を言っているんだ?』

 

わからないなら体験が一番と、琢己の口車に乗せられ、実験に巻き込まれた時点で未来は確定していたのだろう。

 

ライダーギアという術式の汎用性は尋常ではない。

 

“術者の負担をほぼゼロにして”

“誰でも定められた操作で術式を叩き出せる”。

 

これは呪力の解釈における革命。

百年単位で誰も到達しなかった領域に、うちの息子は軽率に足を踏み入れてしまった。

 

現に、勇治の金庫に大事にしまってあるベルト「サイクロード」も破格の性能だ。

 

「変身」のプロセスを踏めば術式が展開するが、術者が自分以外ならエラーで弾く。

 

しかも琢己いわく、設定を弄れば「全身から青い炎を噴き出して灰になる」なんて最悪なトラップを付与することも可能らしい。

 

(……俺はとんでもない息子を育ててしまったのかもしれない)

 

勇治がそんなことを思ったのは、一度や二度ではない。

 

変身という術式開示による事象の押し付け。

ライダーアイテムによる追加開示の重複。

 

「スーパー1」へ変身した時の多幸感と世界を掌握したような感覚は父でさえ危うさを感じた。もし自分が骨の髄まで呪術師だったなら、その力に呑まれていたかもしれない。

 

だが、最悪だったのは、その実験中に低級どころか一級、果ては特級の呪霊まで屠ってしまったことだ。

 

それ以来、東北の地には窓や調査員が頻繁に来るようになった。総監部や上層部に伝わるのは時間の問題……そこまでは覚悟していた。

 

いざとなれば門外不出の術式として囲い込み、条件をつけて封じる手もある。

 

ある程度の逃げ道は見えていた。

 

ただし。

 

よりにもよって、最も面倒で、最も呪術界に影響を持ち、そして人格的にも破天荒で、菅原道真の子孫で、六眼と無下限というチートを搭載した現代最強の呪術師の血筋。

 

五条家の人間に真っ先にバレるとは、誰が予想しただろう。

 

考えていたよりも最悪な状況となった現状に、勇治はこめかみを押さえた。

 

「……高専に伝わるのは構わないよ。もう仕方ない。でもね、よりにもよって五条家の子らに見られるなんて……はぁ……ほんと、運がないねぇ、琢己」

 

「お、俺のせいじゃ……」

 

「いや、実験とか言ってやたらライダーギアを使った琢己のせいだよ?」

 

「へぐぅぅ……」

 

情けない声を上げて縮こまる琢己。

これが呪術史に残るかもしれない術式を生み出した張本人とは、とても思えない。

 

どこからどう見ても、可愛い我が息子だった。

 

 

 

 

 

「悟坊ちゃんも高専に通うほどの年齢になったのですね」

 

俺の親父の声には、昔を思い出すような懐かしさが混じっていた。

 

悟坊ちゃん……え、この五条って……あ、御三家?え、まじかよ、うっそだろおい。

 

その言葉を受けた五条は、まるで嫌味でも言われたみたいに眉を寄せた。

 

「アンタと面識あったっけ」

 

素で聞き返すその態度。うわーないわー……年齢に似合わない威圧感というか……完全に王様のそれである。俺でも分かる。あれは敵に回したら絶対に面倒なタイプだ。

 

ただ、父はそんなもの気にせず、いつも通り丁寧に頭を下げる。

 

「まだ幼い頃、五条家のお屋敷で。私は招集された術師家系の一人でしかありませんでしたが」

 

「あっそ」

 

いや短っ……!ほんと、びっくりするほど態度が悪い。絵に描いたような金持ちのわがまま坊ちゃって、ああいうのを言うんだろう。

 

「悟、そういう態度は良くないと思うよ」

 

隣にいる付き添い……?そうな男の言葉は完全にスルーされていた。

 

「かんけーねーよ」

 

本気で気にしてない顔。

うわ、これが御三家かよ……なんかイメージ崩れるわ。もっとこう、優雅な……語尾に「どす」とかつけてるイメージ持っていたわ。

 

「すいません、態度悪くて」

 

そんな五条の代わりに隣にいた人物が頭を下げる。この人、真面目さが滲み出すタイプらしい。

 

親父が夏油に問い返す。

 

「そういう君は?」

 

「夏油 傑です。五条とは同じ歳で、同じく高専から派遣されました」

 

柔らかい笑みで名乗った夏油が説明を始めようとした、その瞬間だった。

 

「そういえばさー、調査員とか窓の人間が行方不明って聞いたけどさ。そっち、何人か消した?」

 

五条の軽い声が、部屋の空気を真っ二つに裂いた。

空気が変わるって、こういうことなんだな……五条は笑ってるのに全く笑えない。呼吸が浅くなるのが自分でも分かる。

 

「消したって……どういう……」

 

俺の声は震えていた。だって、いきなりこっちが犯人扱いだぞ。夏油がため息をつく。

 

「悟、順番を考えろよ……まずは説明とか……」

 

「なんで?」

 

そう返されて夏油は顔を顰めた。理不尽というかなんというか……五条ってやつは説明とか、そういう概念ごと存在してないのか?前置きなしに話をされたら全くついていけん。

 

しかし父は落ち着いていて、静かに目を細める。

 

「……なるほど。それが理由でしたか」

 

どうやら、何かを察しているらしい。

そのまま父は東北地方への調査員の出入り、呪霊災害の減少について説明を始めた。

 

ひとつは呪霊災害についてレスポンス早く東北の呪術師が対応し始め、ふたつめはその減少した呪霊災害の原因を調べるために調査員が派遣されたことにあった。

 

そこに隠し事は一切ない。

付け加えるように父はいう。

 

「また特級相当や一級などに襲われていた者は保護し、書状を添えて総監部へ送り届けています」

 

五条が眉を寄せた。

 

「それ、信用できんの?」

 

いや言い方ァ!

普通なら怒り出してもおかしくないのに、親父は平然と答える。

 

「書状の写しと、帰りの新幹線の領収書はすぐにお見せできますが?」

 

五条と夏油がお互いを見て、同時にため息をついた。

その反応で分かる。

乾家が嘘をついてないって、逆に確定したんだ。

 

「……つまり総監部は全部知ってたんだね」

 

「おげぇー、やっぱアイツら腐った蜜柑だ」

 

五条の呆れ混じりの皮肉が、嫌なほどハマっていた。親父は視線を落としながら静かに言う。

 

「戻ってきた調査員の情報を封殺した上で、御三家の悟坊ちゃんと夏油君を動かした……そういうことでしょうね」

 

五条が軽く笑う。

 

「俺たちを巻き込めば正当性が出るからね。で、アンタの息子のトンチキ術式を奪うか、場合によっては剥奪するか」

 

「トンチキ言うな!」

 

俺が言うより早く、五条が続ける。

 

「で、お前のそのトンチキ術式、何?」

 

「また言いやがったな!……全部言うわけないだろ」

 

本当にこいつ、調子狂うわ。

 

「普通は術式って血統依存だろ。御三家とかさ、生まれた瞬間にレガシーコードが魂に刻まれてるじゃん?」

 

五条が首を傾げた。

 

「レガシーコードって何」

 

「昔からあるルールってことだよ」

 

多分伝わってないけど……もういい。

 

「俺のは、解釈の違い。説明しても理解されないと思うけど」

 

親父でさえ最初は理解できなかったくらいだからな。これは術式じゃなくて、システムだ。

 

夏油が問いかける。

 

「ちなみに、そのベルト……君にしか扱えないものなのかい?」

 

「ベルトは装着者の呪力特性に合わせて設計してるから、実質俺専用。でも、呪力特性を解析してシステムとハードウェアを組めば他の人でも使えるよ?」

 

言った瞬間、五条と夏油が同時に固まった。

父はため息をついてこめかみに手を当てる。

おい、なんでそんなに重い顔すんだよ。

 

「……つまり、理論が残れば複製可能、ということだね」

 

「なにそれやば」

 

(やばじゃないんだよ……!!)

 

夏油の低い声と、五条のドン引きする声が響く。

 

「問題は奪われたときだ」

 

父も重く言う。

 

「生得術式と違って、術師を潰しても終わらない。最悪、呪詛師の量産兵器になる」

 

「でも解析と設計が……」

 

「それごと奪われたらアウトなんだよ馬鹿か」

 

俺の言い分に五条が即答。なんて言い方が酷い。

夏油も追い討ちをかける。

 

「仮に君が拉致されて、拷問されて製作を強要されたら?」

 

「ぶっちゃけ総監部でもやりかねないのが怖い」

 

(こわっ……!!ほんとこわい!!)

 

うわぁぁ……俺、余計なことしかしてなくない?

 

「気づけただけ成長だよ」

 

親父が優しい顔で言うが、なんの慰めにもなりはしなかった。

 

そこで二人は本題を切り出す。

 

「で、報告しないわけにはいかないよね。調査員の報告も封殺されてるし、総監部が出す答えなんて、決まりきっている」

 

『危険。術式没収。術師は監視下。場合によっては秘匿死刑』

 

「あの、俺の意思は……?」

 

「総監部にそんなもの関係ないな」

 

終わった……まさに地獄じゃん……。

項垂れる俺に、五条が軽く提案してきた。

 

「というわけで、お前は高専の協力者として同行な。術式が誰でも使えるって部分は絶対にしゃべるなよ」

 

続いて親父も言う。

 

「琢己、ライダーギアの設計図や資料は全部破棄しろ。見つかったら庇いようがない」

 

「しゃ、写真に撮るのもだめ……?」

 

「ダメに決まってんだろ」

 

「俺の成果がぁ~~~~!」

 

こうして俺は、気づけば……呪術高専に同行することが、既定路線になっていた。

 

 

 

 

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