始まりは中国の地方で発光する赤子が生まれたというニュースだった。
今では、報告事例が最初というだけであって、これより前から、個性の発現者自体はいたと言われている。
以降、各地で超常は発見され、今でも原因は判然としない。
いつしか超常は日常に、架空は現実に、
世界の総人口の八割が特異体質者となった超人社会、ある職業が脚光を浴びていた。
それはヒーロー活動だ。
ある世界において緑谷出久と呼ばれる無個性がいた。彼はオールマイトからワン・フォー・オールという受け継ぎ、世界を救った。
しかし、数多ある並行世界の一つ結果だ。
緑谷出久が世界を救う世界は多いだろう。しかし、その道は多くの分岐が存在する。
これはその多くの分岐の物語だ。
一瞬だった。
最初に仕掛けてきたのは、巨大な斧を振りかざした大柄な男。風を切るような勢いで迫る刃に対し、出久は眉一つ動かさなかった。
「――そこだね」
パンッ!
乾いた銃声と共に放たれたゴム弾が、斧の柄の根元を見事に捉えた。男の握力では抗えぬ衝撃に、斧は呆気なく彼方へ飛んでいく。
「なっ……!? 奴の動きが見えただと……!?」
動揺するヴィラン達を前に、出久は既に次の獲物へ狙いを定めていた。
次の標的は、巨漢のヴィラン。全身に肉をまとったような男が「ブッ潰す!」と雄叫びを上げながら突進してくる。
「……甘いよ」
出久は最小限のステップでそれを回避すると同時に、ゴム弾を男の足元へ数発叩き込んだ。パニックになった巨漢は「うわぁああ! 足がぁ!」と叫びながら自ら地面に転がり、自重で悶絶している。
休む間もなく、筋骨隆々とした男が凄まじいスピードで背後から掴みかかろうとする。
「もらったァッ!!」
しかし出久はその殺気を完璧に察知していた。振り向きざまに男の脛を蹴りつけ、怯んだ隙に懐へ飛び込むと、渾身の力を込めた掌底を腹部に叩き込む。
「ぐふぉっ!?」
吹き飛ばされたムキムキ男は壁に激突し、沈黙した。
最後に残ったのは毒ガスマスクの男だ。
「クソッ……全員やられたのか……!? こうなったら……皆殺しだァ!」
取り出した小型のボンベを地面に叩きつけようとする。だが――。
パンッ! パンッ!
出久の放った二発の弾丸は正確無比にボンベを打ち抜き、中身のガスを空虚に撒き散らすだけに終わった。
「……まだやるの?」
出久がゆっくりと銃口を向ける。その静かな威圧感に、ガスマスクの男は完全に戦意を喪失したように膝をついた。
わずか十数秒の出来事。
五人のヴィランは一人残らず地面に伏せていた。誰一人として死んではいない。だがそのダメージは深刻であり、当分まともに動ける者はいなさそうだ。
出久は軽く息をつくと、慣れた手つきで銃をホルスターへ滑り込ませた。その表情には疲労の色もない。ただ純粋な作業が終了したかのような平静さがある。
「さて。そろそろ警察の人が来てくれる頃かな。それまで君たちは大人しく待っててね」
返事を待たず踵を返す出久の後ろ姿を見て、瓦礫の中で呻いていた斧男がかすれた声で呟いた。
「……なんだあのガキ……人間じゃねえ……」
その言葉には、圧倒的な恐怖と畏怖の感情が滲んでいた。
出久は何も答えず、現場を後にする。胸中で今日もまた一つ、「任務完了」と小さく呟いた。
個性「動体視力」
元ネタ「リコリス・リコイル」「錦木千束」