始まりは中国の地方で発光する赤子が生まれたというニュースだった。
今では、報告事例が最初というだけであって、これより前から、個性の発現者自体はいたと言われている。
以降、各地で超常は発見され、今でも原因は判然としない。
いつしか超常は日常に、架空は現実に、
世界の総人口の八割が特異体質者となった超人社会、ある職業が脚光を浴びていた。
それはヒーロー活動だ。
ある世界において轟家という家族が存在する。
その家族はあらゆる面で失敗した。
父が家族を蔑ろにしなければ…。
母が心を強く持ち続ければ…。
長男がもう少し家族を見ていれば…。
長女が家族崩壊を恐れずに強い言葉を発していれば…。
次男が家族から目を背けていなければ…。
三男が生まれていなければ…。
今から見るのは、数多ある並行世界の一つだ。
もしも、轟家にもう一人、家族がいれば…。
これはその多くの分岐の物語だ。
ヤマトは全身から蒸気のような汗を噴き出しながら歯を食いしばる。「くっ……!まだ終わらねぇぞ!」炎を吸い込む相手の動きが鈍った瞬間を見逃さなかった。
ガルバディンが嗤う。「フハハ!限界か?この『熱喰らい』に抗うなど無駄だ!」
「……ふん! まだまだこれからよ!!」ヤマトが突如両掌を合わせた。「焦凍兄ちゃんが教えてくれたこと……炎には"質"があるって!」
「なにぃ?」
「俺の技は一つじゃない! 双火拳!」
掌を離すと、青白い炎と赤黒い炎が同時に渦巻き始めた。ワンピース世界の「悪魔の実」能力者が二人分合体したような異形の炎だ!
ガルバディンが怯む。「二つの性質を持つ炎だと……!?」
「喰らえ──『氷炎螺旋掌・極(ひょうえんらせんしょう・ごく)』ッ!」
ヤマトの両手から放たれた螺旋状の炎は急激に温度変化を繰り返す。外側は猛火だが中心部では絶対零度まで下がっている。この乱高下こそが狙いだった!
「グオッ!?」初めてガルバディンの表情が歪んだ。「体内で……炎が凍り……!?」
そのとき背後から鋭い声。「氷壁形成(コールドウォール・フォーム)!」
振り向けば──
「焦凍兄ちゃん!」
「遅くなったヤマト!そのまま押さえ込め!」
焦凍が両腕を広げると巨大な氷の壁が出現。ガルバディンを取り囲む!
「馬鹿め!炎は永遠に……」言いかけたヴィランの言葉が詰まる。
「違うぜ」ヤマトがニヤリと笑う。「永久機関じゃないって気づいたろ? 吸収した熱を放出できない限り……」
ゴオォォォ!! 内部から膨れ上がる水蒸気爆発が起こる!
「ぐああぁぁ!」
焦凍が叫ぶ。「今だヤマト!決めてこい!」
「おうっ! 最後の力を借りるぞ……母さんの!」
彼の右腕が紅蓮に輝き始める。左腕は蒼く染まり──
「双炎斬!」
飛び上がったヤマトがクロスさせた腕を十字に振るう。赤と青の斬撃が同時にガルバディンを捉えた!
ズバァンッ!!
真っ二つに裂かれたヴィランが崩れ落ちる。黒煙と共に塵となって消滅していく……
「……終わった……」ヤマトが膝をつく。「はぁ……はぁ……」全身が燃えたように熱い。皮膚がひび割れるほど乾燥している。
駆け寄る焦凍。「大丈夫かヤマト!? すごい技だったが代償が……!」
「平気……ちょっとだけ火事場の馬鹿力使っただけさ」苦笑いするヤマト。「それより……見てくれた焦凍兄ちゃん?」
彼はポケットから取り出した小さな折り紙を見せた。ヒーロー姿を模した精巧な炎司型の千羽鶴だった。
「父さんにプレゼントしようと思って練習してたんだ」
焦凍は深く頷いた。「……最高の勝利だな」
遠くで待機していたホークス隊員たちが拍手喝采を送る。そして空からは……轟音を立てて降り立つ大きな影。
「お前ら無事か!」
「父さん……!?」「エンデヴァー様!?」
炎司が着地すると同時に周囲の残骸が吹き飛ぶ。「焦凍からの緊急信号があったんだ!間に合ってよかった……!」
「父さん見てよコレ!」ヤマトが満面の笑みで千羽鶴を掲げる。
炎司の顔が驚きから笑顔へと変わる。それは家族写真と同じ温かい笑顔だった。
「……そうか」大きな手が優しくヤマトの頭を撫でる。「よくやった」
三人の影が夕日に伸びていく