キヴォトス・マジック・オーケストラ   作:小奈ほまれ

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本論
コンピューターゲーム


 最近話す生徒に、面白い子がいる。名前は総乃(ふさの)アキ、トリニティの3年だ

 社交的で校外の友人も多いが、3年になってから元気がない(あるいは落ち着いた)、という話をよく聞く

 昨日みたいにふらふらと外を歩いては、そのまま公園で寝る、という奇行を繰り返しているという噂もあった

 先生としてはなんとかしてあげたいけど、話した感じではあんまり問題もなさそうだった……

 いや、楽しいことがないっていうのは問題かな?

 

 今日は彼女がシャーレの当番。部室の前には……

 

「先生?おはようございます?」

"あ、ああ おはよう 早いね?"

「よく言われます」

"昨日ぶりだね"

 


 

 彼女は仕事ができる。ずいぶん慣れているようで、昼になる前に必要な書類は大方終わってしまった

 

"お昼ご飯いかない?"

「いいですね!」

 

 誘いに乗せて私が向かったのは、ラーメン屋……我ながら平時は不摂生だ

 

「おいしそうですねえ」

"普段は何食べてるの?"

「うーん 野菜?」

(野菜……?)

「安かったら何でも食べるよ!」

 

 それってもやし生活ってことなんじゃ……?

 

"昔からそうなの?"

「ちょっとお金がなくて……ミレニアムの研究室に居させてもらったときは多少マシだったんです」

 

 トリニティなのに貧乏、いやそれより、ミレニアムの研究室にいた?かなり初耳だ……

 

「まあいいじゃないですか 昔のことって

食べて仕事を再開しましょーよ」

"そうだね"

 

ラーメンはふつうにおいしかった。

 

 

「ゲーム開発部ですか……?」

"うん、テストプレイしてほしいって呼ばれちゃって"

「へー いそがしそう」

 

すっごい他人事!

 

"一緒に来るんだよ"

「わあ……」

 

 絶句。

 その説明をし終えた頃にはもうミレニアムの前だった

 

 今日はどうも時間の過ぎるのが早い

 気付いたらゲーム開発部にいた、という感じだ

 

「先生!いらっしゃーい!」

"こんにちは"

 

 モモイとミドリによる歓迎はもはや恒例と言ってもいい

 ミドリのほうは私の横の彼女に気付いたようだった

 

「あれ、先生、その人は?」

「えっと 私は……」

 

 彼女は自らの素性を並べ立てる。普段と比べ非常によく回る口だ

 

「……というわけなの」

「そうなんだ……アキさんもゲーム、しますか?」

「え いいの!?」

 

 すごい食いつくな……

 

「私たちの次のゲームは、これ!」

 


 

"こ、これは"

「これが、ゲーム???」

 

 死屍累々とした部室のモニターに映るのは彼女らの新作ゲーム。開始30分で陰惨たる空気が漂い始めている

 

 回想しよう

 開始から3分、私はスタート地点を十字キーで練り歩いていた。見下ろし型のアクションゲームのようで、背景やマップチップのドットが綺麗だったし、かなり期待した面持ちで遊んでいた(何よりモモイが自信満々だった!)

 チュートリアルの通りに道を歩いていたら、私は突然飛んできたサメに潰された。

 

"なんで!?"

 

 問題はここから

 開始から20分、スタート地点だけで20回は死んだ。一分一殺の様相を呈したそれは、マップ切り替えさえ許さなかった

 チュートリアルを完了するとサメに潰され、

 チュートリアルに失敗するとサメに噛み切られ、

 脇道へ逸れると密林ザメ(なにそれ)に首を折られ、

 逆走するとサメの悪魔に呪殺され、

 隠し通路を見つけたと思ったらサメのアストラル体が現れて「莫大な富か、膨大な力、そのどちらかを与えよう」と言われ(ちなみにどっちを選んでも私がサメになってゲームオーバー)、

 こういう感じで死に続けた

 

「わたしやってみたい!」

 

 プレイヤーを交代して5分、彼女はあることを思い立ち、スタート地点で放置しはじめた。

 

 さらに3分経ったところで、なぜか私たちを殺し続けたサメがスタート地点に集結!

 4体のサメが互いに呪殺、圧殺、絞殺しあい、ようやくチュートリアルを抜けることができた。スタート地点の端、外へつながるであろう穴を通る……

 

"やったー!"

『GAME OVER』

"え"

「なぜ???」

 

 意味がわからない

 

「今のは出入り口じゃなくて、メジロザメだよ!」

"???"

 

 わりと本気でショックだ……

 

「最近見た映画に影響を受けたんだ!」

"モモイ、シャークネード見たでしょ"

「ウィジャ・シャークも見たよ?」

"サメの悪魔とかアストラル体はそれか……"

 

 先生はうれしい。こんなゲームを遊ばせてくれて……

 

「さあ先生、アキ先輩!クリアまで遊んでもらうよ!」

"うおお……"

「それってほんとうか……?」

「先生、先輩、ごめん……」

 


 

"やっと……"

 

 ゲーム自体は短かった。5時間程度でクリアできて、ちょうどいいボリュームに感じる

 ただ、心労がすごい。死亡数は(多分)300を超える。

 

「ラスト・シャークの弱点は愛を込めたチェーンソーだったなんてね」

"呪術的すぎるよ"

 

 ほぼノーヒントで難解な工程を踏んだ末に現れる「愛」コマンド、それをラスボス戦で使用することで武器を強化できる

 あまりに唐突な上に旅の行程は愛とは無縁だったが、エンディングによると「愛に溢れた旅路によって主人公は悪魔を斃す力に覚醒した」らしい

 

 このゲーム、もしかして面白いんじゃない……?

 

「どうだった!?」

"破天荒というか、すごいゲームだったよ"

「でしょ!」

「お姉ちゃん、これいい意味なのかな」

"いい意味だよ"

 

 多分。

 

「最近のゲームというのは、こういう感じなの?」

「え、違うと思う」

 

 面白かったけど、流石に全てのゲームがこうなったら世界は終わりだ

 

「ゲームって、あんまり遊んだことなかったから」

「へー どんなゲームだったら遊んだことありますか?」

「うーーん 前に、数本遊ばせてもらったんだけど

たしか、ファミコンのゲームだったと思う」

"ファミコン!?"

 

 古すぎて逆に珍しい……

 

「ミレニアムにはね、文化史研究の一環としてレトロゲームとか、レコードとか、カセットテープとかが保管されてるの」

「そうなの!?」

「お姉ちゃん、有名な話だよ」

 

「あそこは本当に、よかったなあ」

 

 初めて見る表情。懐かしくて、淋しい。

 まばゆくて、遠い。

 

"アキ……"

「あ ごめん、ちょっと湿っぽくて

もう昔のことだから」

 

 

 その日はそれっきりで終わった

 でも、このままは良くない気もした

 あの顔を見て、ある種の直観を得た。違和感というか、食い違いのようなもの。

 彼女の心はずっとここにはなかったんだ

 明日聞きに行こう。あの子のことについて

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