「え 総乃アキさん?」
"うん、前にミレニアムにいたって聞いて"
「わかりませんねえ……3年生ということは、先輩なら知ってるかもしれませんが」
コトリに聞いてみた。知らないらしい
一応エンジニア部に来てるから、他の生徒にも聞いておこうか
「なんだか懐かしい名前を聞いたね、先生?」
"ウタハ!知ってるの?"
「当然だよ!彼女とは研究発表を共にした仲だからね」
研究室にいたとは聞いてたけど、ウタハが同期……
今のどこか諦観的な彼女からは、あまり考えられない
"その話、詳しく聞かせてくれないかな"
「是非私にも聞かせてください!」
「わかった、どこから話すかな」
最初会った時、彼女は少しヘンな人だと思ったよ
トリニティから一人で乗り込んできて、土下座して研究に協力させてほしいって頼み込んできたんだ
当時一年で、大したことは何もしていなかったんだが、多分トリニティでの研究発表について行ったときに顔を覚えられたんだろう
トリニティの図書館に収蔵されてる学会誌を読んだ、とも言ってたよ
私は読んでなかったけどね。分厚いし
で、まあ、トリニティの図書館に限界を感じて、ミレニアムにいさせて欲しい、というのが彼女の願いだったかな?
ふふふ、改めて考えても、私が協力するメリットがないね?
当然協力したさ
面白そうだったし、断る手はないね?
彼女は研究室に入り浸って、議論に参加したり、みんなの書いた論文を読み漁ったりしていたよ
あまりに熱心だから、指導教員のロボに面白がられてね、文化史物倉庫に入れさせてもらったこともあった
あれでトリニティの奨学金も受け取れるほどの成績優秀者だったんだから、底が知れないね
あ、そうそう ミレニアムに正式に移籍しないのもそれが理由だね
すごい貧乏だから。途中からは研究室で寝泊まりしてたよ
銃も持ってないし 売ったって言ってたかな?
まあ銃に関しては、結局お金があっても手放していただろうけどね。研究室で過ごす日々とか、私たちとの関係性とかに、すごい執着 というかこだわりがあったから
そういうわけで、しばらくしてたらすぐ一本書き上げた。最初のやつは学会には出さなかったけど、今も研究室に置いてると思うよ
うちの指導教員は論文のpdfを印刷して研究室に置いてるから ロマンというやつさ
学会誌に最初に載ったのは、2本目の論文。群体制御モデルに関するものだったかな?エンジニア部から着想を得たって言ってくれたのは嬉しかったな
でも1年の頃はこんなものだった。いやアカデミックに入りたてで2本出してるんだからこんなものというレベルではないね
問題は2年だよ。私と彼女の共著が、結局最後の
「ちょっと失礼するわ」
"あれ、ユウカ?"
「先生!?じゃなくて、エンジニア部に用があるんです!」
「どうかしましたか?」
何か不手際でもあったかな?
「この前の発明品の件で呼び出しがあるの。エンジニア部の部長には今からちょっと来てもらうわ」
ふーむ、心当たりがありすぎてわからないな
"さすがにそれはまずいのでは……?"
まあ、悪いね先生。彼女の話の続きはまたの機会としよう。
"うん、ありがとうウタハ"
「先生、それではまた」
あ そうだ 次彼女に会ったら伝えてくれないかな?エンジニア部にいるからいつでも会いに来てほしいって
何度か会いに行こうと思ったんだけど、住所もわからないからなかなか会えなくてね
"わかった"
ウタハとユウカが去り、私とコトリがエンジニア部室に残された
「総乃アキさんって、もしかしてすごい人なんでしょうか?」
"そう、なのかな"
肝心なところで話が切れてしまったが、やはり今の姿はどうもおかしい。
他校に乗り込んで土下座して、優秀なトリニティ生と活発なミレニアム研究員という二足の草鞋を履くほどの行動力を持っていた
一体何がいけないのかな?