「先生、私のこと聞き回ってるらしいね」
"な、なぜそれを?"
「普通に友達から聞かされて」
今日は当番の彼女に気づかれてしまった
ナギサ、はわざわざ漏らさないだろうし、それ以外に聞いた人か……
"ごめんね、プライベートに立ち入るようなことして"
「いや、いいって 隠すようなことは特にないし」
"そうだ、ウタハが言ってたんだけど……"
少し顔を顰めた。すぐ微笑むけど
「なんて?」
"……エンジニア部に、たまに遊びに来てって。会いに行こうとしても、どこにいるか分かんないって言ってたよ"
「うーーーん」
明らかな長考、何か事情でもあるのかな
"もしかして、仲が悪いとか?"
「仲は、いいけど……」
"1年からの仲なんでしょ?ちょっとだけでも会いに行ってみない?"
「そうねえ」
そうと決まれば!
「ちょっとまって」
"はい"
「え 今から?早くない?」
"善は急げ、だよ!"
「たしかに」
彼女は特別な確執を持ち合わせてはいない。気付いていたことではあったが、驚くほど何ともなく旧友たちと再会した。
「久しぶりだね?アキ」
「うん、久しぶり!」
旧友たち、に入っているのはウタハだけではなかった
「准教授、なんで来てるの???」
「いやーごめんごめん、久しぶりに来るって聞いたから お邪魔だったかな?」
「いや、久しぶりに会えてうれしいですけど……」
彼女の研究室(正確にはミレニアム生ですらないので、彼女の居候していた研究室)の指導教員だ
「ここって実践的な生徒が多くて、文化史研究の意見を聞ける人は少ないんだよ?」
「だからやたら構ってきてたんですね」
「まあとにかく、顔を見れたのでフェードアウトするよ。それじゃまた」
帰っていくようだ
「オッ、そういえば、あなたがシャーレの先生かい?」
"ええ、まあ"
「アキさんを頼んだよ ワハハ!」
なんというか、ミレニアム生たちに負けず劣らず変人だ……
「さて、色々積もる話はあるが……まず見てほしいのはこれだ!」
ちょっと待って、それってこの前暴走した──
結局、あの後いくつもエンジニア部の作品を見ることになり、私たちは煤まみれになった
「あっははっははは!」
爆笑。アキにはよほど面白かったらしい
こんな表情は初めて見る
「やっと昔みたいに笑ってくれたね」
「ふふふふふ……」
これが平常運転らしい。確かに印象がかなり違う
「はーあ!ゴホッ!」
「いや笑いすぎだろう」
"大丈夫?"
「私、やっぱりミレニアムが好きだ!」
「ふふ、そうかい」
私にも伝わってくるよ、アキ
「戻ってくる、つもりはないのかい?」
「うーん わからないね」
やはり彼女は、分からない。分からないことだらけだ
「最後の共著……あの後、スポンサーが付きかけたでしょ?」
「そうだね、私が賛成して、君が否定した」
「それが、なんだか……我慢ならなかったの」
今の状況は、彼女の価値観に基づく一種の答えなのだろう。何かの間違いや誤解などではなく。
"縛られるのが嫌だった?"
「それもあるかもしれないけど……根本的ではないよ」
「ふーむ、思ったより深刻ではないけど、思ったより深刻だね、先生?」
"そうだね"
「何の話?」
「私たちの、研究室で過ごした時間を取り戻すのさ」