東風(Tong Poo)
彼女はすぐに研究室に戻ってきた。
単なる想像でしかないが、お金が絡んできたせいで意固地にならざるを得なかったんだろう
いやお金に弱すぎない?
まあとにかく、彼女にとっては深刻な一大事だったものも、こうして振り返れば砂場の城みたいなものだ
「ふふ、久しぶりに明るい顔を見せてくれましたね、アキさん?」
「げえっ浦和」
他のトリニティ生との距離も縮まったらしい
「ナギサちゃんなんでこの人連れてきちゃったの!」
「え、いい人じゃありませんか?」
「この人淫語で議論についてくるからやなの!」
縮まった……縮まったのかな?これ どうなんだろう
「ふふふ……音楽史は面白いですね?異文化同士の種付き交尾ですよ♡」
「わあ……」
絶句。
「准教授、それは?」
「ふふふ、先生が大人のカードを使うように、僕も大人の書類を使わせてもらった」
指導教員とウタハ、あと協力してくれたセミナーはいくつもの制度を利用して、『特別交流生総乃アキ』の学籍を作り出した。
といっても、居候時代と実態としては変わらないが……
居心地の悪さを生むきっかけとなった、外部からの力を断ちやすくはなっただろう。なんだかんだ指導教員にお世話になり続けてた負い目は感じてたみたいだし
「すごいですね!准教授から教授になる日も近いですよ!」
「なんだって!?僕は教授にはならん!僕の中で教授は坂本龍一御大だけだ!」
やっぱこの人変だよ
「さあ、アキ!研究と、ついでにエンジニア部に協力してもらおうじゃないか!」
「いや待ちなさい!僕とテクノポップの文化的背景に関して議論を交わすことになっている!」
「どっちもやるって!」
「先生、ありがとうございます」
"私は何もしてないよ、ほとんどウタハのおかげだし"
「僕も書類書いたんだけど」
"ありがとうございます、准教授"
「照れるねえ」
「まあ確かに特別交流生の学籍も気に入ってるけど……一番は先生の姿勢に触発されたことかな」
"私の?"
「無意味を尊重して、知ろうとしてくれた。
浪漫主義とでも言うべきか。
だから、ありがとうございます」
照れるねえ
「さて、先生!あなたも一緒にどうですか!?」
"え、何が"
「アキさんと僕と先生で、ともにYMOのレコードを鑑賞しましょう!時に先生、レコードの音は聞いたことがありますか?」
"え、ないです、というかこれはもう参加する流れですか?"
「まあいったん聞いてから考えましょーよ」
"アキ!?"
彼女にとって、これは春の東風なのだろう。