「…………あの」
「おはよ、出雲っ」
「んにゅ…」
理性との激闘やら、ふたりとの関係が変化したりやらと色々なことがありすぎた日の翌日。
自分のものよりも2回り大きいベッドの上で目が覚めた俺は、俺の体の上に半分乗りながら色々なところをさわさわ触ってるレイとロゼに口を開いた。
「……くすぐったいです」
「………かたい」
「……朝から元気だね?」
「くすぐったいですぅ!?」
俺のある部分を思いきり触れた感触がした俺は、多分人生で1番アクロバティックな起床をかました。
色々あったけれど、俺とレイ、ロゼの関係はひとまず家族に落ち着いた。だからあの後も普通にご飯食べてテレビ見て、普通に寝たんだけども。
昨日キスという一線は超えてしまったせいか、ちょこちょこ接触の仕方が怪しいシーンが増えてきたんだよね。
今だって朝ごはんのトーストとココアを用意してた俺を取り合うように抱きついてくるし「どしたの」って聞くと、2人とも笑顔で「好きな人にくっついてるのっ」と答えてくる。俺を幸せで殺そうとしてない?
ただご飯の時はさすがに離れてくれるのが唯一の救いだ。食べ終わってぬぼーっとしていると、ココアを飲んでるレイが口を開く。
「それで、今日は美咲とお酒呑んでくるんだよね?」
「うん。バイト終わりにね」
「…何時くらいに帰ってくるんだ?」
「遅くはならないつもりだけど…。9時くらいかな」
俺がそう答えるとロゼはそうかと返しながらココアを啜る。その口がちょっととんがってるのが見えて悶えそうになった。
「…まぁ、定期的にやってるやつだから、そんなに心配することは……」
「……ふたりっきりなんでしょ?」
「…うん」
なんかちょっと罪悪感的なものが湧いてきて目を逸らしたら、2人が立ち上がる音が聞こえた。
「な、なんでしょう」
「ソファ座って?」
言われるがままにソファに座り直すと、2人が両側に滑り込んでくる。左右それぞれからめちゃくちゃいい匂いがして、手を取られたかと思えば2人の腰に当てられる。
「…ふたりとも?」
「…バイトまで時間あるでしょ?」
「う、うん。あと3時間くらい」
「なら、……もう少し構え」
そうしてそのまま2人は俺にしがみついてくる。あーもう、ほんとに俺を殺す気なん?
俺が回した腕に力を込めると、2人は嬉しそうにさらにくっついてきた。
そうしてふたりとのんびり過ごしたあと。バイトへ出発する時間がやってきたので荷物をもって玄関へ。
「頑張ってきてね」
「ああ、行ってきます」
「……出雲」
俺が靴履くまで鞄を持ってくれるレイが嫁すぎる件について。それを受け取り肩にかけるとロゼがすすっと近づいてくる。どうしたのと返すと、少しもじもじした2人は、チラリとお互いを見ると。レイの方から俺の両肩に手を置いて背伸びをする。
「…わ、私から……ん…」
「んっ!?」
俺の視界いっぱいに目を閉じたレイの顔が映り、それと同時に唇に感じる超柔らかい感触。ちゅっと音がなり、呆然としてる俺を他所に顔を離したレイは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
「…えっ…」
「…次は私だ……、…んっ」
「んー!?」
いきなりすぎて頭が着いてこない。そのせいでロゼによる追撃も綺麗に貰ってしまう。レイより身長が低いロゼは俺の両頬を手で挟むと、俺の口を横から包み込むようにキスをしてきた。一瞬だけだったレイとは違い、ロゼは熱に浮かされた顔をして唇を離さない。
「ん、…んむ…」
「…ん、…ん…」
「…ちょっ、ロゼっ、な、長いよぉ!?」
呆然と見てたレイが我に返り、俺たちを引き離した。自分が暴走したのをそこで自覚したのか、ロゼは耳まで真っ赤になり二つに結った髪で顔を隠す。
「……っ、…い、いってきます…」
「「い、いってらっしゃい…」」
俺はフラフラとした足取りで玄関から出て。2人からの「いってらっしゃいのキス(ATK16000)」に。
「うぼぁ」
無事に膝から崩れ落ちた。……ワンキルどころの騒ぎじゃねぇ。
「よっ。………ってどしたの出雲くん。なんか悟った顔してるけど」
「……ちょっとね」
2人からのキスの威力に打ちひしがれながら下に降りると、美咲が待っていた。引っ越してからシフトが被ってる日は俺の車で一緒にバイト先に向かってるんだけど、今日は呑みに行くということでバスでの出勤。
美咲は、遠い目をしてる俺を見てちょっとジト目。
「……もしかして、レイロゼとなんかあったでしょ?」
「…別になんもねぇよ」
「嘘だ。……昨日お風呂場から楽しそうな声聞こえてたし」
「はっ?……外まで漏れてんの?」
「あたしがバイト帰りに通りかかったらちょっとね。………そこんところ今日は詳しく聞こうかなぁ」
「……憂鬱だぁ。今日真っ直ぐ帰っていい?」
「やだっ。……というか今日はこの前の借り返すとかで出雲くんの奢りでしょ?逃げないのっ」
そういい、逃げようとする俺の手を美咲は掴んだ。そのままバス停まで連行される。
ここからバ先まではバスで8駅ほど。確かに往復で500円ちょいはするし、俺の車に乗っかって行った方が安いのね。というか俺の車無料だし。
「そういや美咲って車乗らないの?免許はあったよな」
「車高いからなぁ。ママのお下がり貰おうにも妹に行っちゃったし、ここ住みだとバスで間に合うし。……なんで?」
「いや、バス通勤って結構いい値段しちゃうなって思ってさ。…自転車は?」
「暑い」
「ま、だよな」
真夏のこの時期にチャリは嫌だよなぁ。そんな話をしてるとバスか次のバス停に着き、お客さんが乗ってくる。ちょっと混んできたな。俺たちが座ってるのはバスの1番奥の席。ちょっと詰めれば6人くらい座れるか?
美咲は、チラリと俺を見て少し詰めてきた。当然俺の肩と美咲の肩が密着する。
混んできたバスの中でさっきみたいに喋る訳にも行かずに、俺たちはそのまま無言で過ごす。
すると、美咲が手を繋いできた。バッと彼女の方を見ると、俺の手のひらに指先で何か書いてる。なになに…、たのしみだね?
たしかに、二人で呑むのは結構久しぶりか。楽しみといえば俺も同じだ。
俺はお返しにと、美咲の手を取る。バッとこっちを見る美咲を尻目に手のひらに指先で返事を書いた。自分がやってきたのになんでそんな反応でかいの?
まぁいいや、えっと…そうだね、と。
俺も指先で美咲の手にそう書くけど、美咲はびくっと身体を跳ねさせた。でも辞めさせようとはしてこないのでそのままお返しで長文を書いてやる。
そういえば、今日の店ってどこなんだっけ?いつもの所?
「…っ……ん……ぅん…」
美咲は何やら声を押し殺してるように見える。あれ、わからなかったかな?
美咲は口を手で抑えながら俺をキッと睨んだ。そのまま俺の手を握って、手のひらに指先で書いてくる。
えっち。へんたい。
……なんで?
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしてます」
会計を終えて帰っていくお客さんに挨拶をして、出雲は卓のお皿を片付ける。手早く卓上を吹いて、席の下を確認。特に問題ないことを確認したら椅子も拭いて、キチンと並べ直す。
皿を洗い場に戻しながら店内を見ると、高校生くらいの女の子のグループ客の1人が頼んだパンケーキのフォークを落としちゃってるのが見えた。出雲は替えのフォークと、彼女がフォークを落とす直前に取り分けようとしてたけど皿がないっぽい挙動をしてたのでついでに取り皿も持っていく。
「…あ、すみません、…フォークを落としちゃって…」
「はい、こちらが替えのフォークになります」
「えっ、…あ、ありがとうございますっ」
「いえ。何か取り皿は必要になりますか?」
「あっ、丁度欲しいなと…ありがとうございます」
女の子のお客さんは今頼もうとしたものがすぐに出てきて目を丸くし、ぺこりと頭を下げた。周りの子も出雲を見て「おぉ…」と声を漏らしているので、出雲にこやかに笑顔を返した。この子達は結構日頃からこの店を使ってくれてる常連さんだ。チラリと店内を見ると注文待ちのお客さんもいないし、少し話しても大丈夫そうだと机に置かれたノートや教科書を見て彼女達に話し掛ける。
彼自身は知らないが、この世間話をしてくれる店員がここのカフェのひとつの名物である。
「お昼からお勉強会ですか?」
「はいっ、夏休みの課題です。家だとサボっちゃうから、みんなでここでやろうって」
「今は休憩中なんですよ〜」
「だからパンケーキで糖分補給と。…結構なクリーム量のやつですけど、回復量オーバーしませんか?」
「えへへ、大丈夫ですっ、別腹なんでっ」
女の子が頼んだのは甘味好きでもちょっとキツそうなクリームがてんこ盛りのパンケーキ。パンケーキ自体も4枚あるので結構お値段が貼るメニューだが、4人で取り分けるなら普通に頼む半分以下で済む。おやつとしてはちょうどいいのだろう。
出雲は取り皿を渡すと、「あ、そうだ」とつぶやきエプロンのポケットからクーポンを取り出した。
「良ければどうぞ。パンケーキ20%OFFのクーポンです」
「えっ、いいんですかっ?」
「はい、いつも来てくれてますし。前に描いていただいたスイーツのアンケートも、すごい参考になりましたから」
常連の女の子は渡されたクーポンと、アンケートの話にびっくりして顔を赤くした。
「え、覚えててくれたんですか?」
「もちろん。お友達の皆さんも、良ければ使ってくださいね」
そう言ってクーポンを全員に渡し、「ゆっくりしてってくださいね」と微笑んだ出雲はスタスタと厨房まで戻った。今しがた出した皿を洗っていた美咲は戻ってきた出雲をなんともし難い目で見る。
「……出雲くん、狙ってる?」
「ん、なにが?」
「今あの子たちにナンパしたじゃん」
「してねぇよ。…常連さんが友達連れてきたから、何人か引き込めないかなって」
「……多分、あの子半分出雲くん目当てで来てるよ?」
「なわけ。たまたまだろ」
そういい会計に来た客に対応する出雲を見て、美咲はため息を吐いた。ナチュラル気遣い男め、と内心で毒づきながらさっきの女子高生達を見ると、パンケーキを取り分けながらもチラチラと出雲の方を見ている。
そもそも本人は勘違いしてるが、出雲は高校でも結構モテていたのを美咲は覚えてる。
元々気遣いの塊のような性格に、素材がいいのでちゃんとオシャレすれば全然格好いい顔。高校だと髪もセットせずに下ろしていたので目立ちはしなかったが、家庭科の調理実習で三角頭巾をした時に髪が上がって周りに良さがバレてしまった思い出がある。
そしてバイトの時の出雲はしっかり髪をセットして来るので外から見るとただの好青年だ。これでにこやか微笑を携えてフランクに話しかけてくるのだ、普通の女子なら少しは「いいな」と思ってしまうのは必然の事だった。
多分レイとロゼも、それに自分も彼のそういう所に惹かれてるんだよなぁとため息を履くと、彼が片付けてきた皿を洗おうとしたところで。
「あ、洗い物俺がやるよ」
「え、別にいいよ?片付けてくれたし」
「……それ、最近塗ったんだろ?」
そういい洗い物をしてくれる彼の目線を辿ると、美咲の爪を見ていた。え、と声をあげる美咲に、皿を洗い物ながら出雲はなんでもないように言う。
「女子の爪事情はわからんけど、水仕事とはあんまり良くないんじゃないかなって思ってさ」
違ったら恥ずいけど、と視線を戻す出雲。手元を見ているせいで、彼は美咲が赤面しているのを見逃していた。
「……え、やっぱり違うの?」
出雲何も返答が帰ってこないことに、少し顔が暑くなった。美咲はただ出雲の気遣いが効いて何も言えなくなってるだけなのだが、勘違いしてる出雲は恥ずかしそうにそっぽを向く。
「……そういうところだし」
「…ん?」
美咲はぺしっと昨日塗ったばかりの爪でデコピンを出雲に当てると、次の客の会計へ向かっていった。
え、結局どっちだったん?とわからずじまいの出雲が皿洗いを終えると、厨房から店長の奥さんが顔を出した。茶髪の髪を後ろではひとつ結いにしてる美人さんで、料理の腕はピカイチ。ここのフードメニューの評価の要だ。彼女は会計をしている美咲を見ると、出雲に話し掛けた。
「大体は捌けたかな?」
「はい。あとは3番の4名だけですね。夏休みの課題をしてるんだとか。もう1杯ずつくらいドリンクの注文は入りそうです」
「はいよ。グラスは…もう出してあるのね。さすがうちのエース」
「なんすかそれ初めて聞いたんですけど。…麦茶飲みます?」
「お、ありがと」
出雲は女子高生達の飲んでるものからして紅茶あたりかなとグラスを出した。ついでにさっきから調理続きだった奥さんにはいっと麦茶を出す。
気ぃ効くしよく見てるしで、この子はいい主夫になるわねぇと麦茶を飲んだ奥さんは、そういえばと出雲に問う。
「美咲ちゃんとはいつから付き合ってるの?」
「え、…付き合ってないっすけど」
「…え?…付き合ってないの?」
出雲はしれっと美咲の分のアイスミルクティーを作りながら被りをよる。奥さん的にはシフトかぶってる時は一緒に来るし、一緒に帰るし、最近に至っては出雲の車に2人で乗って来てる始末だ。引っ越したって言ってたのもてっきり…と彼に話すとブンブン首を横に振られた。
「一緒に来てるのはその、マンションが隣の部屋なのでバス使うよりかはって俺のに乗っけてるだけですって」
「だからって普通、男の車に乗って来ないと思うけど。…まぁ、いい感じの男避けと同時に女避けって事ね」
「…っ、えっと?」
「あー大丈夫、こっちの話」
出雲と美咲は知らないが、彼らの他に数人いるバイトと店長との会話ネタで2人の仲の進展は鉄板なのだ。今まで会話のステージが「付き合ってどこまで行ってるのか」だったところに意外な情報が舞い込んできた。
そこに、会計と片付けが終わった美咲が帰ってくる。
「あ、お疲れ様です。なんの話してたんですか?」
「んー?…最近2人一緒に来るから、どうしたのかなって。部屋が隣同士なのね」
「…あー、はいっ。出雲くんが引越し探してた所にちょうど隣に空きができて…。ホントに来るとは思ってなかったんですけど」
「いやお前がすごい勧めてくるから。あと引っ越すまで隣だって知らなかったぞ?」
「い、言い忘れてたのっ」
「…ん〜^…出雲くんアイスコーヒー貰ってもいい?」
「え、麦茶もう飲んだんですか?」
なんだか口が甘くなってきた奥さんは、麦茶を飲み干してコーヒーを頼む。え、と驚きながらも頷いた出雲が美咲にミルクティーを渡して「な、なんで飲みたいのわかったの?」「顔」「どんな顔!?」などとイチャコラしてるのを菩薩のような顔で眺めた。
これが最近の彼女の癒しである。
会話もそこそこに仕事に戻ると、案の宿題中の4人組から注文が入った。出雲が出て席まで行くと、目に見えて女の子たちがソワソワし出す。出雲に「追加のパンケーキはいかがですか?」と尋ねられて照れていた。
「……出雲くん、あの子たちにちょっとデレデレしてない?」
「美咲ちゃん、漏れてる漏れてる」
「えっ、あっ、ち、違いますからねっ?」
「うんうん、そうねぇ」
本当は美咲が注文を取りに行こうとしたのだが、コレが見たかったので奥さんは出雲を行かせた。ごちそうさまですと言わんばかりにアイスコーヒーを呷る。
ほんとに付き合っちゃえばいいのに。と美咲を見ながら彼女は思った。そういう美咲の方も街を歩けば誰もが振り返る程の美人だし、スタイルもいい。明るい茶髪を黒リボンでまとめたサイドテールが彼女の活発な性格を醸し出し、そこから繰り出される営業スマイルには数々の男性客を引き込んできた。
まぁ、すぐに出雲とのやり取りを見せつけられて撃沈していくのだが。イチャコラするのは助かる反面客減るのよねぇと飲み干したグラスを流しに起きながら、未だぐぬぬしてる美咲にご馳走さまと返すと彼女は厨房へと戻って行った。
そんなこんなでバイトが終わり。
俺と美咲は揃って店から出た。時計をみると17時12分。
「それで、店はいつもんところだっけ?」
「ううん、今日は違うところ。ここからバスで20分くらいかな。駅前だよ」
「お、珍しい。気になってたの?」
「ちょっと前からね。個室の焼き鳥屋さんだって。予約は18時」
ふたりで並んで歩きながら、店を調べたりしてバス停に向かう。少し待つとバスが来て、行きの時と同じ席に並んで座った。
「…2人で呑むの結構久しぶりだね」
「ね。…3ヶ月振りくらい?」
「前は週1くらいで行ってたのに。…やっぱり2人が来たから?」
「それもあるなぁ。ちょっと前までスマホも無かったから連絡とかも出来なかったし」
「…今考えると2ヶ月くらい隠されてたんだ。……言ってくれれば色々協力できたのに」
「確かに」
それはそう。美咲に1番に相談してればそもそも一緒に住むことも……うん、それはちょっとやだな。
「個室ってもしかして色々聞くためかよ」
「あったりー。昨日のこととか色々聞かせてもうからね」
えーっと肩を落としていると、バスが混みだした。多分部活帰りな学生たちが乗ってきて、行きと同じく俺たちは詰めて座る。
俺はもう一度店を見ておこうかなとスマホを取り出す。……が、美咲が行きの時のように俺の手を握ってきた。見るとまた指先でなにか書いてる。それ気に入ったの?
えっと……このおんなったらし?…なにおう。
俺は美咲の手を取り返し、なにが?と書く。
やっぱりわかいこがすきなんだ。
どういうことだよ。
さっきのJKにてれてた。
「…アルファベットつかうなよ。わかりにくいだろ」
「えー」
ちょ、マジで何書いてるのかわからん。I…?いや小文字のLか?eかoかわかんねぇよ?
美咲が何書いてるのかわからんまま、手に好き勝手文字を書かれる。
「ほんとに何書いてんの」
「ひみつ」
美咲は俺に書かれないようにるためか、俺の手と手のひらを合わせてきた。当然指が絡んで恋人繋ぎみたいになる。ちらりと美咲を見ると、耳が真っ赤になりながらそっぽを向いていた。
それを見て素直に可愛いなって思うのは、やっぱバチ当たりなのかな。
俺は、絡んだ手を握り返す。
「っ」
美咲は少し反応して、手をにぎにぎしてきた。そのまま少し俺の方へもたれ掛かり、繋いだ腕を抱くようにしてくっついてくる。
あの、そんなことされるとですね。
美咲のご立派なお胸に俺の腕がダイレクトアタックされるわけで。俺の二の腕に最強の攻撃をしかけながら、さらに俺の肩に顔を載せてくる。
そのまま、俺の手の甲に指先ですりすり。
「……あとどれ位?」
「…つぎのつぎ」
あーもう、まだ居酒屋についてすらいないのに顔が熱い。手の甲くすぐったいし。
すりすり。にぎにぎ。
「……これだと次降ります押せないぞ」
「……そうだね」
まあま頑張れば届くんだけども。美咲は手をにぎにぎしながら楽しそうに笑う。
俺はそのまま、手の甲に書かれてる文字を必死に無視し続けるのだった。
【すき】