「………ここの家主ですけど……」
静寂に包まれる部屋に、俺の声がぽつりと響く。
俺がロイヤル加工のファンシーボールを砕いたショックかどうかはわからないけど、どういう訳かこっちへ来てしまったLINK-2モンスター「IP:マスカレーナ」と「SP:リトルナイト」を見て遠い目をする。
俺ってなんかの特殊能力持ちなのん?もう怖くてカード分解できねぇんだけど。
そんな現実逃避をしている俺を他所に、周りを見渡した2人は人の家だと理解したのだろう。口ぶりからして何かから逃げていたようで慌てて立ち上がる。
「……ってそうだった!…お邪魔してごめんなさい、すぐに行かないとっ!…小夜丸っ!」
「はいっ、えっと…失礼しますっ!」
「あー、ちょっと待ってっ!ここなら安全だからっ」
俺はすぐに立ち上がり、外に飛び出そうとした2人を呼び止めた。
「はぁ?」みたいな顔で振り返る2人と、この状況に意外と冷静になれてる自分に頭が痛くなりながら、窓を指さす。
「ちょっと外見て見て」
「一体なに?…急いでるんだけど…」
「外がなんですか?……って、ええ!?」
ベランダに続く窓を見て…多分SP:リトルナイトかな?スカーフ巻いてるし。とにかく、彼女は声を上げた。続いて見たマスカレーナらしき彼女も目を見開く。
「え…ここ、どこ…?」
「さっきと景色が違いすぎますっ」
そりゃそうだ。さっきまでネオン的きなめちゃ近未来な都市にいたところ、こんな四捨五入したらギリ田舎な景色に変わっているのだ。夜とはいえさすがに場所が全く違うところに変わったことは理解出来たようで、驚いた2人は今度は俺に警戒の目を向ける。
「えっと、とりあえず君らの追っ手はここに来ない。だからひとまず落ち着いて話をしない?…今2人が置かれてる状況を多分説明できる。……だからその忍者刀を下ろしてくれませんかオネガイマス…」
やっばい。俺が喋りだしたと同時くらいで一瞬で後ろを取られ、首筋に刀が突きつけられている。そういやナイトチェイサー相手にすんごい斬り合いしてたわ小夜丸さん。ドジっ子で可愛いとか思っててごめんなさい。
正直助けを呼びたいけど、駆けつけたレイロゼと戦闘になっては余計目も当てられん。こんな場面見られたら俺が止める前に閃刀抜いて斬りかかりそうだし。
「……本当に敵の者ではないのですね?」
「誓って違いますっ!……あとその、その靴で床に立たないで欲しいなって……ここ賃貸だから…」
「…え、…あっ、すみませんっ!」
いつも思うけどそれでどうやって立ってんの?ヒールの踵が短刀みたいな刃になってるリトルナイトは慌てて靴を脱いだ。何度も締まらないやり取りに、マスカレーナのほうも拍子抜けしたみたいで、ため息をつきながら座り直した。
「…はぁ、…とりあえず了解。まだ状況が飲み込めないけど、少なくとも貴方は敵ではないみたいね」
「色々込み入った事情があって…。とりあえずお茶出すよ」
さて、これからどうすべきか。2人をリビングに座らせてお茶を用意している間に美咲に連絡したけど繋がらなかった。3人で何してんだ?
一方その頃。
「……はむっ、はむはむっ!」
「………もぐもぐ」
「……完全にやけ食いだね…」
出雲にキレた2人は、美咲を連れて近所の回転寿司を食べに来ていた。まだムカムカが収まっていないのか、眉を逆八の字にしながら寿司を次々に頬張っている。それを見て可愛いって思ってしまう美咲は苦笑いしながら、いい食べっぷりの2人を見て感想を零した。
「…まぁでも、さっきのは出雲くんがわるいかなぁ」
「でしょっ?……もうっ、出雲は全くもう…!」
「……私たち以外の女に目移りして…!」
たしかにデュエリストとして出雲側の気持ちもわかるが、2人が怒るのもわかる美咲はとりあえず彼女達に味方をしておく。
「…でも、そんなに怒ってないでしょ2人とも」
「……うん、ちょっと…ムカムカして…」
「………ほんとは、もっとかまって欲しかっただけだ」
「……だったら、帰ったらちゃんと仲直りしてよね?……長年の付き合い的に、結構落ち込んでると思うから」
美咲がそう言うと、2人の中に少し罪悪感が湧いて出てきた。別に出雲はレイとロゼを蔑ろにした訳では無い。ただゲームのコンテンツに一喜一憂していただけだ。置いて出てきて、勝手にご飯を食べるのはやり過ぎではないのかと焦りの表情が見えてくる。
「……っ、うん……私も謝る…」
「…ああ。…出雲に嫌われるのだけはイヤだ…」
「そこは気にしなくても大丈夫だよ。だって出雲くん優しいもん。多分このまま帰っても向こうから謝ってくれると思うけど、その前にちゃんと二人から謝るんだからね?」
美咲はそのまま「出雲くん、早く帰りたがってたけど、ちゃんと2人のために新商品のデザート買って帰ってきてたんだから。サプライズにするって言ってあたしの家に置いてあるけど」と続ける。それを聞いた2人の中で彼への罪悪感が完全勝利を果たした。ついでにもし立場が逆だったらとまで考え、出雲が怒って出て行く妄想までして涙目になっている。
「わ、私っ…!」
「…戻らないと…」
「…そうだね。…じゃ、出雲くんになにかお寿司買ってこうっか」
美咲は涙目の2人が帰り支度を始めるのを見て、「愛されてるなぁ」と笑った。
あまりにも急いでるふたりに煽られて急いでいた美咲は、出雲からの着信に気づかない。
「───て、訳なんだけど」
「……えっと、……ちょっと情報量が多いなぁ…」
「…?」
とりあえず2人に一連の流れと、ここはどこで君らは遊戯王のカードだよって説明したんだけど。マスカレーナはこめかみを抑えて、リトルナイトは頭から湯気が出ていた。だよね。
「……まぁ、とりあえずここが私たちのいた世界じゃないってのはわかったけど……。貴方ちょっと落ち着きすぎじゃない?…なんか遠い目をしてるし…」
「いやまぁ、驚いてるけど。…初めてじゃないからさ。これ」
「…つまり、これは仕組まれた物ということですかっ?」
「…こっちに心当たりはないけど……そっちは?ここに来る直前に何してた?」
「「……あ〜…」」
2人は揃って明後日の方を向く。おいコラ心当たりあんじゃねぇか。
「……ちょーっとね。…仕方なかったというか…」
「…あはは、アレはもうあそこに逃げるしかなかっといいますか…?」
「どういうこと?」
「S-Forceの拠点から、私の情報をまるっと抜き出して逃げる時に追い詰められて…」
「ブリッジヘッドと呼ばれる、…エージェントが任務地に向かうゲートにふたりで飛び込んだのですが……」
……っと、つまり?
そこに飛び込んだらなんか俺の上にワープしたと?
「……だめだ、わかんねぇ…」
「それはこっちも同じよ。……でも、向こうに帰ることはできそうかも」
「本当ですかっ?」
「え、まじで?」
マスカレーナの発言に俺とリトルナイトが驚く。てっきりこっち来たらもう戻れないのかと思ってた。目を向けると、マスカレーナは懐から変な装置を取り出した。角張ったディスクみたいなそれを俺は全く見たことがなかったのだけど、リトルナイトは見覚えがあるらしい。
「あっ、それは……簡易設置ゲートですね!」
「そ、ズラかる時にひとつ貰ってきたのよ。なんかあったらこれで脱出しようと思ってたの。……で、これ、デフォルト設定だとあの拠点に繋がってるっぽいから……」
マスカレーナは簡易ゲートを自分のPC的な何か(画面宙浮いてる)に繋げて何かを解析している。その間に俺はもう一度美咲に連絡をしたが、やっぱり繋がらん。外でご飯でも食べてるのかな?正直かなり助けが欲しいんだけど…。
スマホの画面をオフにすると、マスカレーナが「よしっ!」と声が聞こえる。見ると、彼女は端末の画面を見せてきた。
「うんっ、思った通り。チャージが終われば一応帰れるみたい。…ただ、飛んだ先はまたあの拠点だけど…」
「…まぁ、でも一応良かったね。…チャージはどれくらいかかりそう?」
「……今始めて、……あと75時間。……丸3日かかるみたい」
「あちゃー、やっぱり簡易式だからでしょうね。それまではどうにかこの世界で過ごすしか無さそうです」
とりあえず、帰ることはできそうで良かった。問題は3日間どう過ごすかだ。それくらいならホテルでどうにかなりそうだけど、2人はこっちの金を持ってないし、宿泊費をぽんと出せるほど余裕もない。閃刀姫2人のお金は2人のものだし、出してくれってのもね。まぁでも、美咲の部屋に泊めてもらうとかで何とかできる気がする。絶対アイツ喜びそうだし。
「……それなら宛が無いこともないよ」
「え、本当?」
「うん、まぁ頼んでみないとわからないけど…。最悪ホテルとかもあるし」
とりあえず2人は美咲たちが帰ってくるまでここで待ってもらうことに。……かなりの急展開だけど、ちょっと慣れてきてる自分に驚いた。どっちかと言うと、彼女達の他にこれ以上こっちへ飛んでこられる方が困る。……俺がおかしいのか、俺のマスターデュエルがおかしいのかわからないなぁもう。
そう決めて立ち上がったその時、下の方からきゅるると可愛い音が聞こえた。見ると2人ともちょっと顔を赤くしてお腹を抑えてる。
たしかにもうご飯の時間すぎてるもんね。追っ手に追われてきたって言ってたし、何か食べさせようか。買いに行ってもいいけど、もし出てる時に2人が帰ってきてマスカレーナたちと鉢合わせたら目も当てられん。
「……何か食べる?」
「…あ、あのっ、そこまでしていただく訳には…」
「そ、そうよ。…私たち、あなたに何も返してあげられないし」
「もうこうなったら何かの縁でしょ。それに2人ともお金ないだろうし…、それに俺もお腹すいたし」
俺が微笑みながらそう言うと、2人は少し申し訳なさそうに頭を下げた。
「……その、ありがとう…」
「ありがとうございます…」
「気にしないで」
そういえば名乗ってなかったねと自己紹介もする。
「出雲」「出雲どの」と呼ぶことになったらしい2人から背を向けて台所に入ると、何故かリトルナイトも着いてきた。
「私もお手伝いしますよ?」
「ん、いいの?」
「はいっ、里では色々と修行しましたから。料理は得意ですっ」
「ありがとう。それじゃお願いするけど……そういえばどっちで呼べばいい?リトルナイトは多分コードネームなんだよね?」
「…私の事はご存知なのですよね?…それなら小夜丸の方が落ち着きます。…マスカレーナさんと合わせて名乗っては見たものの、まだむず痒くて…」
「ちょ、それじゃ私だけなんもしないでくつろいでるみたいじゃないっ!」
マスカレーナも立ち上がるとこっちに来た。うちの台所はそんなに狭くないので一気に大所帯に。
というか、今更になって俺の目の前にいるのはあのマスカレーナとリトルナイトなんだと実感した。つまり、何度何度もお世話になったカード本人たちが目の前にいるわけで、やっぱり変な感じだ。
意外っちゃ失礼かもだけど、マスカレーナも料理はできるっぽい。アニメから見て適当に済ませてそうな感じだったのに。そんな中小夜丸は「料理の邪魔になりますね」と首に巻いていた黒いスカーフを取った。
すると、普段は絶対に見ることができない彼女の白い首筋が顕になって、思わず視線が吸い寄せられ……っぶねぇ!!
小夜丸さん、リトルナイトになってから衣装が軽装になってるから、スカーフ取っただけで乱破小夜丸の時の袖が無い分なんか露出度が上がったような気がする。やっぱ普段から見えないところが見えるのってすごく凄い(語彙力)。…でも乱破の時はスカーフ巻いてないから首が見えたよな。じゃあなんで今は…あ、袖がないからか。
ちなみにマスカレーナの格好は絵違いのライダースーツ的なやつ。はっきり言って目に毒です。
俺が冷蔵庫を開けると、2人も中を覗いてくる。
「何を作るんですか?」
「…んー、食べられないものとかはある?」
「…そうねー。冷蔵庫の中見る感じだいたいは大丈夫そう。………ねぇ、これなに?」
マスカレーナは隅に入れてあった三段積みの白いパックを指さした。そのパックをまとめてあるラベルを見た小夜丸はあっと声をあげる。
「これは納豆ですね!私大好きですっ!」
「な、なっとう?」
「…あー、…マスカレーナ…さん?ってチーズは好き?」
「呼び捨てでいいわよ。…チーズなら好きだけど」
「いや、青カビの方」
「……げ」
「…じゃ、たぶん納豆も無理だと思う」
カビ…と後ずさるマスカレーナに納豆がどういうものか教えて、横の小夜丸が「ご飯にかけると美味しいです!」と念を押すとそのまま下がって言った。「は、発酵って……腐ってるってことよね…?」とか言ってたが、小夜丸が「マスカレーナさんがいつも食べてるヨーグルトも発酵食品ですよ」と答えたらびっくりしてた。
さすがに納豆苦手な人の前に出す訳にも行かんので、普通にオムライスを作る。小夜丸が結構手伝ってくれるのであんまりやることがない。ちなみにマスカレーナはこの前買ったOCGの方の自分が描かれたカードを見てる。「……なんで小夜丸に追いかけられてるところがカードになってるのよ…」とS-Forceチェイスを見ながら呟いていた。
つか、そろそろレイたちも帰ってきてもいい頃だと思うんだけど。マスカレーナと小夜丸には俺の他に2人家族と隣に信頼できる友達がいることと、その3人がちょっと用で外に出てる事は話してある。まさか、ちょっと怒らせちゃって外に出てて、その原因があなた方を俺が「くそかわいい」って言ったからだなんて本人たちに話せる訳もなく、そのまま待って貰っている。
……そういえば、帰ってきた3人になんて言おう。そもそも帰りいちばん土下座から入ろうとしてたくらいだし……。
食ってる最中に帰ってきた時の空気がカオスすぎるでしょ。そんなすぐ説明できる状態でもないし。3人にもう一度連絡してみると、今度は既読が着いた。
すると、外の方で足音が聞こえる。あ、帰ってきた。……俺が小夜丸に一言言って出ようとすると、その前に。
がちゃん!
「「出雲っ!」」
あっやべもう入ってきた!?鍵を爆速で開けたらしいレイとロゼが俺の名前を呼びながら家に上がってきてしまう。ちょ、色々説明しないとだからっ!入ってくるのが早いからっ!
「言ってた人達が帰ってきたの?」
「あ、うん。…だからちょっと色々説明して来「出雲っ!」
あっ。もう遅かった。
廊下をダッシュで走ってきた2人がリビングの扉を押し開けて入ってきた。何やら不安そうな顔をしてるレイとロゼは横でびっくりしてる小夜丸とマスカレーナに全く気付かず俺に飛びついてくる。
「ちょ、2人ともっ?」
「……ぅ、…ごめんなさい…」
「…出てって、…わるかった…」
「い、いや…俺が悪いし、こっちこそごめんね」
そう謝ってくる2人は半泣きだった。もしかして美咲が何か言ったのかなと続けて入ってきた美咲を見るが、彼女の視線は俺の横にガッツリ向いている。目ぇひん剥きすぎでしょ。
「…え、ええと…」
「そちらが出雲の言ってた…」
「「……え?」」
まさか帰ってきて飛びつくとは思ってなかったマスカレーナの小夜丸が声をあげると、その方を向いたレイとロゼの口がぽかんと開けられる。
「あ、ええと、こっちの2人は…」
固まってる3人に説明しようとしたその時、俺はレイのロゼの顔を見て、……目尻に溜まる涙に同じく固まった。
「……ぐす、……なんで…?」
「……わ、私たちじゃ…もう嫌なのか…?」
「え!?…いやいやいやいや!?…そういう意味じゃないよ!?」
多分、2人は俺がもう閃刀姫じゃなくてマスカレーナたちのことが好きなんだと思ったんだろう。
泣き出す2人を俺は必死でなだめる。ちょ、マスカレーナさん?「うわ、女の子泣かせた…」みたいな目で見ないで?
俺は2人を安心させるためにまとめて抱きしめた。頭を撫でながら、ゆっくりと説明する。
「2人共、さっきはほんとにごめん。いくらなんでも無神経だった。……でも、それの話とあそこにいる2人は関係ないんだ。…レイとロゼの時みたいに、何かの拍子にこっちの世界に来ちゃったみたいなんだよ」
「……ほ、ほんと?」
「私たちのこと、嫌いになってないか?」
「そんなのなるわけないだろ?」
「……でも、出雲、そこの2人のこと"めっちゃ可愛い"って言ってた…」
「ええっ!?」
「か、かわっ!?」
「い、言ったけど……!…ちょ、ちょっと待ってっ!?」
いや可愛い言うたのはアニメと絵柄ですよ!?勢い良く俺の方を向くマスカレーナの小夜丸に必死に弁解する。
「いやそれは、カードのふたりに対して言っただけで…!」
「…アニメの方でも言ってたぞ…?…それに一生使うって…」
「「つ、使う…?」」
「カードの効果をねっ!?」
収集つかなくなってきた俺は美咲に助けを求めるが、美咲は美咲で現代に現れたマスカレーナのリトルナイトに夢中だ。「いっっっっつもお世話になってますぅ!」と、息子がいつも遊びに行ってる友達ん家の親に会った時並みの勢いでに頭を下げている。もう彼女らが本物かどうか疑いもしないのね。
俺はその後も頑張って涙目のレイもロゼをなだめようとするが、今度はマスカレーナと小夜丸を俺が意図的に召喚したんじゃないかと不安がられる。いやそんなこと出来るわけないからね?
そしてマスカレーナ達はレイとロゼも遊戯王のカードだと美咲から聞いて、一体何者なんだという視線を俺に向けてくる。ちょっと身体を隠してるような感じがするのは俺の発言のせいなんですかそうですか。
そんなカオスな場が落ち着くまでに、しばしの時間がかかった。
S-Force関連の設定はオリジナルでお送りしております。ユルシテ…