ほとんど閃刀姫が登場しないっていう。
「………あー………」
美咲との呑みから少し早めに帰ってきた俺は、シャワーを浴びながら先程起きたことを思い返していた。
俺の心境を一言で表すとこうだ。
「………この数時間で色々ありすぎだろ」
─────時は少し遡る。
居酒屋での飲み会が始まって1時間弱、頼んだ焼き鳥の第二陣が届いた辺り。俺はわさびが乗ったささみ串を食べながら、隣に座る腐れ縁ちゃんを眺めた。
「………んぐ、んぐっ…」
「………えっと、大丈夫…?」
通算5杯目のレモンサワーを呷っている美咲に声をかけると、飲み干したグラスをテーブルに叩きつけて俺を睨んできた。
「……こんなの、飲まなきゃやってられないでしょ!……ふ、ふたりとそこまで進んだなんて…」
「……まぁ、…これでも結構耐えた方なんだけどね」
料理が届いてから昨日2人とあったことを話したんだけど、途中から目が据わり始め、話が進むにつれて焼き鳥をバクバク食べたと思ったらそれを一気に酒で流し込みだした。
「……ほんとに大丈夫?」
「そうにみえる?」
「いや全く」
改めて聞くとほんとになんだそりゃだよね。
美咲は飲み干したグラスを机に置くと、俺を見て唇を尖らせる。
「ほんとにそれで付き合ってないの?」
「うん。家族ってことになってる」
「……実際は?」
「…………すごい引っ付いてくる。なんかリミッター外れた感じ」
「キスなんかするからでしょ」
「ぐうの音も出ない」
美咲は据わった目で俺を睨み続ける。そしてそのまま隣同士の距離も再び埋めてきた。
「へぇ〜、出雲くんはぁ、女の子にキスをホイホイできちゃうギャル男なんだぁ」
「ギャル男て。……俺も頑張ったんだよ」
「そんなうらら増Gみたいにキスできるんならさ…」
誰の唇が手札誘発じゃ。
美咲の手が、俺の手の甲に重なる。俺の顔を覗き込んでくる彼女の顔が、さらに鮮やかに染まった。
「……あたしにも、……なんてどう?」
「………どういう意味、かは聞かなくてもいいか?」
「…わかるでしょ?……いまさら言わなくても」
正直、前々からそんな気はしてた……ってか、そんな気しかしてなかった。
美咲は俺の手の甲をにぎにぎしながら、肩に顔を乗せてくる。
「……あたしの気持ち、気づいてたけど触れなかったのは……あたしと友達のままがいいから?」
「…いや。それは違うよ。………なんか、もし変な感じになって……さ。美咲と気まずくなるのが嫌で、チキってた。…ごめん」
「いいよ。あたしだってずっと口で言わなかったし。………だから、レイロゼと付き合ってないって聞いて、ちょっと安心した」
そういい、美咲は「あたしって悪い女だね」と笑う。
「……だってさ、ほんとはもっとゆーっくり出雲くんの友達やって、距離縮めて……もうあたし以外考えられなくなるようにデレッデレにしてから言うつもりだったんだよ?」
「なんだそりゃ。怖いわ」
「………そしたらね。いつの間にか真逆になっちゃってた」
「……」
実際に、美咲と過ごす時間はとても楽しいものだった。最初はクラスがずっと一緒で話してただけだったけど、話しているうちに波長が合うのがわかって、お互い気を使わない関係が心地よかったんだ。
「……ね、…出雲くん」
「ん」
「………ずっとね?……ず〜っと、……だい好き、だよ?」
美咲が、俺の手に指を絡ませながら、そう言った。
正直に、レイやロゼとの事情を加味せずに率直に思ったことを話すと、……ものすごく嬉しい。
本当に、前までの俺だったら、即OKを出してたと断言できる。
……でも、でも今は状況が違う。…それに、俺はレイとロゼの猛攻に耐えられなかった。そんな奴が、首を縦に振れるわけがない。
俺は、口を固く引き結ぶと、答えを言おうとした。
「……美咲、……ごめ「却下します」却下ぁ!?」
「うん、却下。……8年の付き合いになるあたしが、今の出雲くんの気持ちを当ててあげよっか?」
「な、なんだよ」
「レイロゼにキスしちゃった俺が、美咲と付き合えるわけないだろ、…でしょ?やだよあたしそんな理由で振られるの」
「え、…で、でもさぁ」
え、なんそれ。これ却下されるとかあるの??
俺としてはこれからの美咲との関係が気まずくなるのを覚悟で言ったんだけど…。
ただ、それすらも美咲はお見通しのようだ。
「……むしろ、これで気まずくなるのも絶対やだ。…ね、出雲くんはさ。あたしのこと、どう思ってるの?レイロゼとかは抜きにして」
「それは……」
そんなの、決まってる。
俺は顔が熱くなるのを誤魔化すようにそっぽを向いて答えた。
「……大切な、人だよ」
「……んふ」
絞り出すようにして言うと、美咲の方から怪音が聞こえた。そっちを見ると、美咲が真剣な顔のまま口を手で抑えている。
「なに、今の」
「べつに?……大切って、女の子として?」
「……そう、です」
「……ふひっ」
「どしたほんとに」
多分ニヤついてるんだろうけど、顔の上半分が真剣な顔だからちょっと面白い。
「……そっか。……そうなんだ。……うれしい」
「…うん、…でもさ…」
「わかってるよ。今は誰かと付き合うわけにはいかないんでしょ?」
美咲の返しに俺は頷く。
恐らくだけど、もし俺がレイとロゼに「美咲と付き合いたい」と言えば許可は出ると思う。…でも、2人は俺に気を使って嫌だと言えないだけかもしれないし、何より俺が先にレイロゼに陥落してんのよ。キスしちゃってるんよ。改めてクズだな俺。
「……出雲くん」
「…なに?」
「ここでこう座って話してても、なんか息が詰まるでしょ?……ちょっと歩かない?」
「…んー!だいぶ時間余ったね」
「お陰様で」
1時間半くらいあった居酒屋の席を40分くらいで出てしまった。俺たちはそのまま近くの公園に入って並んで歩く。
「…ね」
「ん?」
「……手…い?」
頬を朱に染めて、手の甲を俺の手にすりすりと擦り付けながら聞いてくるこやつをどうしてくれよう。
「……どぞ」
「…ふふ、顔赤いよ?」
「そっちも人のこと言えないだろ」
そして美咲にとって普通に手を繋ぐってのがないらしい。当たり前のように絡んだ指を見て、美咲を改めて眺める。
「…な、なに?」
「……なんでもない」
「えー、なに?気になるんだけど?」
「……その、……美人だなぁと」
まだ酔いが残ってるのもあるのか、つるっと出ちゃった言葉に美咲は声にならない声で悶えた。
「……だからなんでもないって」
「…ほんと、反則っ。………あたしがどんだけ出雲くんのこと好きか知らないでしょ?だから、君の言葉がどれだけあたしに効くかわかんないんだ」
実際、ちょっと気になることもあるんだよね。俺はせっかくだからと聞いてみることにする。
「その、さ。美咲っていつから…俺の事…」
「……ずっと、って言ったでしょ?……中3の頃からって言ったら引く?」
「え、そんな前から?」
「うん。……あのころ、あたしもっと地味な感じだったじゃん?あの時、ふたりで図書委員やってる時にさ、一時期すごい図書室が騒がしかったことあったでしょ?」
「あー、あったなそんな時期。確か漫画置きだしたからだったよな」
思い出した。あの時は普段図書室に来ないような奴まで漫画借りに来て、そいつの友達とかもそこで駄弁るようになって結構うるさかったんだっけか。
「で、あたし我慢できなくて注意しに行ってさ。でも全然聞いてくれなくて、泣きそうだったあたしを助けてくれたじゃん。それがきっかけ」
「……あー、あったなぁそんなこと」
「出雲くんにとってはそんなことでも、あたしにとってはいい思い出なの。…それに、その前から出雲くんのこと気になってたし」
「そうなの?」
「…出雲くん、今もだけど気遣い屋さんで優しいじゃん。それに結構自分の優先度低くて、他の人のために自分犠牲にするところ」
「俺としてはそこで短所だと思ってんだけどね」
なんか困ったことあるとすぐ自分を採算から外す性分なんだよ。とりあえず「まぁ俺が苦労すする分にはいいかぁ」って。この前の寝袋事件といい、そういうのやる度にレイとロゼに叱られてる。
美咲は俺に流し目を向けて言う。
「あたし的には、そういうとこがぶっ刺さったのっ。自己犠牲精神なとことか、視野が広くて困った人見つけたらすぐ駆け寄れるところとか、細かいところ気がついてくれるところとか、今もだけどちゃんと目を見て話してくるところとか」
「…え、そこら辺は当たり前なんじゃないの?」
「…ふふっ、それを当たり前だと本気で思ってるところも大好き」
「……っ」
そんなに言われるとさすがに照れる。
「個人的にはどの時も目を見てくれるのはポイント高いよ?…あたし、バイトで接客してると結構色んなとこジロジロ見られるから。視線には敏感なんだけど…出雲くんはちゃんと目を見て話してくれるもん。……薄着してる時も目が合うのはなんだかなぁだけど」
「どうしろってんのよ?」
俺は何で怒られてるの?あと完全に目だけ見てる訳じゃないし。こやつ家に泊まる時とかキャミソールから谷間見えてるし。頑張って見ないようにしてるだけだし。
「……わかった?あたしがどんだけ好きか。…他にもいっぱいあるよ?……ちょっとアレなのも」
「……ちょっとだけ聞いてもいい?」
「…首細いとことか、見えてる鎖骨の窪みとか……えっちだよね」
「やっぱいいです。ごめんなさい」
自分でも気にしたことねぇこと言われた。びっくりだよホントに。
「…とりあえず、その、わかりました。……好きって言ってくれるのは素直に超嬉しいよ」
「うむ、伝わって何より。……で、さ」
「うん」
「…とりあえず、質問っ。…あたしも出雲くんの中のレイロゼくらいにはあるの?……大切度」
「…その精神が最低かどうかってのは置いとくと、…うん」
「最低なんてあたしも、レイロゼも絶対思ってないから気にしなくていいよ。……よかった。…じゃあさ、……恋人にならないわかりに、ひとつ頼みを聞いて貰ってもいい?」
美咲は俺の正面に来た。人気のない公園の広場で、街灯の灯りだけが美咲を照らしている。
「……あたしも、これからレイロゼみたいに甘えてもいい?」
「…マジで?」
「だって、あたしも区分で言うとふたりとおんなじってわけでしょ?ならいいじゃん」
「……いや、でもなぁ…。2人と美咲じゃ、違うんだよ」
「なにが?」
「……ブレーキの数」
レイとロゼはまだ「家族」としての最後の一線がある。でも、美咲は違うんだよ。……正直、レイとロゼの同じことを美咲にされて、耐えれる気が全くしない。
「……そうなんだ」
「……そうなのっ。……だから」
「却下します」
「さっきからなんなんその法案的なやつ」
「だって」
美咲は真剣な顔で俺を見上げる。繋いでない方の手を彷徨わせて、我慢するように肩に置く。
「我慢できないよ。そんなの。……出雲くんだったら、我慢できる?……ずっと好きな人が、状況的には付き合えないけど自分のことを好ましく思ってくれてる状態で、迫られたら耐えられないからダメとか舐めたこと言ってる人をさ、襲わないなんて無理でしょ?」
「……う」
「だからっ。……おねがい」
そこまで言われてしまうと、首を横に振るのは無理だった。
「……レイとロゼがいいなら……な?」
「やったぁ。…えへへ…」
状況的には俺が攻め落とされた形になるのか。輝くような笑顔の美咲は、俺の手を離さないとばかりに握っている。
「…出雲くん、……改めてこれからもよろしくね?」
「……お手柔らかにお願いいたします……ほんとに」
ひとまずわかることが俺の理性がエンドフェイズを迎えたということ。耐えられる気がしない。
「……じゃ、これからどうする?話してるうちに酔いも覚めちゃったし」
「店で二次会…は時間が足りないか…」
「あ、ならさ。家帰って飲み直さない?…この前贈ったワインあるでしょ?」
「…そうだね、うちで飲むか」
今から店行っても30分も居られないし。ここは帰った方が良さそうだな。俺はご機嫌な美咲に引っ張られて、バス停まで歩いていくのだった。
そのまま手を繋ぎバスで帰宅。途中軽い買い物をしてマンションに着いた俺たちはエレベーターで自分の階まで上がる。
エレベーターから見て、美咲の部屋の奥に俺たちの部屋がある。美咲の部屋の前まで来たので手を離そうとすると、バス停から口数が減ってた美咲がグイッとっ引っ張ってきた。
「ちょっ?」
「……ちょっと、こっちきて?」
為す術なく引っ張られると、美咲は自分んちの玄関を開けて俺を引きずり込む。荷物を床に置いてそのまま扉を閉め、俺たちは至近距離で目が合った。
「……な、なに?」
「……その、…さ。……ひとつ言い忘れてたことがあって」
「言い忘れてたこと?」
「……うん。……公園で言ったでしょ?……あたし、すごい拗らせてるって。……出雲くんが好きで好きで仕方なくて、ちょっと…アレだって」
「そ、そこまでは言ってなかったけどね?」
「だからね。……もし、レイロゼの攻撃に耐えられなくなったらさ……。
……あ、あたしなら、……いいから」
「っ!?」
なんということを。意味わかって言ってるの?
弾いたように美咲を見る俺。美咲も無傷じゃなかったようで、耳まで真っ赤だ。
俺は確かめるように、脅すように言ってみる。
「意味わかって言ってるの?」
「もちろん。………連絡くれれば、いろいろ…準備するし……」
「ちょ、ちょっとまって。ほんとに待って」
話がカっ飛びすぎてる。それに、その言い方だとこれから二人で会う時とか遊ぶとかに支障出るでしょォ!?
「おま、忘れてないよな?今週、OCGのデッキ組むって。……美咲の部屋で」
「……うん、…デッキ組みながらさ……い、いっぱいイチャイチャしよ?」
「……〜っ…」
俺はもう、天を仰いだ。美咲は美咲でここぞとばかりに俺に抱き着いて来てる。彼女の存在感バッチリなシャークキャノンがぶち当たり、ベコベコの理性にさらに追撃が入った。
「今まで出来なかったこと、やりたかったこと、いっぱいやりたいから。……だから、出雲くんもいいんだよ?……あたしにやりたいことして。さっき言ってたじゃん。レイとロゼにはできない事があるって。…それって、あたしにはできるってことでしょ?」
美咲は「あたし、本当に拗らせてるから」とおっかない事を言ってくる。
「で、でもさ。いくらなんでも段階飛ばしすぎだろ?……い、いきなりその……アレって」
「…なぁに?…出雲くん的には何の後ならしてもいいの?」
「何って、…まぁ、……キス……とか?」
「……そーなんだ。……んっ」
「ん!?」
セリフの合間を縫って、美咲が不意打ちをしかけてきた。唇にまた2人とは違う、それでいて極上の感触が広がる。
そして。流石にそこまでされて抵抗できる理性を俺は残していなかった。もう身体が勝手に動き、唇を離そうとしていた美咲を抱きしめ、後頭部を優しく撫でて極上の時間を延長する。
「んっ、……ん、……んぅ……」
美咲の方も限界だったのか、さっきとは比較にならないくらいの勢いで身体を押し付けてくる。
ダメだ。このままだと本当に美咲の言う通りになる。少し冷静になって顔を離すと林檎みたいに顔真っ赤になった美咲が、サイドテールで顔を隠しながら俺をじっと見ている。
「……こ、これで……いいでしょ?」
「……ぅ、………お、…うん」
もう何が何だか。頭がふわふわしたり冷静になったりと情緒が行方不明。
本当にこのままくっついていると何が起こるかわからないので、とりあえず美咲のサイドテールを優しく撫でた。美咲も安心したように俺の手に頬擦りをした後に、俺の耳元で囁いた。
「……あたし、後悔してないからね。今日のこと…。むしろ、これからがすごい楽しみ」
そういい、美咲は俺から離れた。俺の脇の下に手を伸ばして玄関を開ける。
「……えへへっ、だから…これからも色々とよろしくね?」
「ほんと……ッに、お手柔らかにお願いいたします。ほんとに」
「善処しますっ」
美咲は俺へニヒッと笑い、俺の部屋のインターホンを押した。
と、言うことがあったんです。
いやどういうこと??
俺はシャワーのお湯を冷水に切り替えた。冷たい水を頭から浴びながら、起きたことを整理する
まず、美咲に告られた。それはまだいい。多分そうなんだろうなと思ってたし。でも向こうから特に何もしてこないならとりあえず俺はこのまま仲のいい友達をやっていようと思ってた。
レイロゼが来るまではね。
そして2人と昨日あんなことになって、気持ちの整理がつかないままに美咲に告られたかと思いきや、気がついたら俺が吹き飛んでた。守備貫通された時と似てる気分だわ。ファイナルシグマで殴られて、戦闘ダメージ2倍の効果忘れててワンパンされた時とおんなじ。
これは……俺ってどんな気持ちでいるのが正解なの??
だって、これからバイトに行きゃ美咲に、家に帰りゃレイとロゼにでろんでろんにされることが半ば確定してしまった。
男としては喜ぶべきところなんだろうけど、言わば恋人未満の関係の女の子が3人もいるって、味方を変えればただのキープ野郎だ。
いつまでも頭を冷やしてるわけにも行かないのでシャワーを止めて浴室から出た。……が。
「……ロゼ、何してるの?」
「出雲の身体拭き隊の初任務だ」
「知らない部隊作らないで?」
隊言いながら1人だし。あと、俺めちゃくちゃまっぱなんだけど…ガッツリ男の裸見ても無反応なのなんなの?
そんなふざけた部隊が待ち構えてはいたんだけど、その隊長らしきロゼの顔は真剣そのもの。
「ちなみに聞くけど、他になんの部隊があるの?」
「他は…、出雲の服を着せてあげ隊だ」
「総帥命令。解散で」
「断る」
断られた。
次回、出雲フルオフェンス編
作者得意の「メインヒロインがいなかったら速攻主人公と最高のシチュエーションでくっついてたよね系女子」
美咲の誘いに、貴方なら耐えれますか?
-
無理。バトルフェイズに移行するっ!
-
レイの膝枕を思い出して耐える。
-
ロゼのキスを思い出して耐える。