翌朝。
カーテンの隙間から差し込む光で、閃刀姫ーレイは目を覚ました。目を擦りながら起き上がり、周りを見て、昨日起こったことを思い出す。
「……あ、そうだ。私たち…」
そう呟きながら隣を見ると、床に敷いた寝床にロゼがすっぽり包まって寝息を立てている。その寝顔が見たことあるものとはだいぶ安らかで、レイは思わず微笑んだ。
クールそうな見た目に相まって、ロゼは結構ずぼらなとこがある。向こうでもそうだったのに、もう戦わなくてもいいこっちの星だと尚更安心するのだろう。
もう少し寝かせてあげようと、レイはベッドから立ち上がり、足音を立てないように寝室を出た。
「…あ、おはよ。よく眠れた?」
「あ、うん。ありがとう」
昨日からお礼ばっか聞くなぁと笑う彼は、この世界に転送されたレイ達を保護してくれた。そして、どうやらこの星の人間らしい。昨日話を聞いたところこの世界には人間が沢山いるとの事で、レイ達の世界の戦争前みたいなものかと納得した。
時計を見ると午前6時。結構な早朝だけど、ちゃんと寝たのかな?とレイは部屋を見回すが、寝床は見当たらない。
レイがぱちぱちと瞬きをしていると、彼…出雲がなにか飲むかと聞いてきたので、おまかせでと返す。
座って待っていると、出雲がマグカップを渡してきた。
「これ、なに?」
「ホットココア。甘くて美味しいよ」
「甘いものっ?」
実はレイ、甘いものが好物なのだが、向こうの世界ではロクにそんなものは食べられなかった。最後にいつ食べたかわからない砂糖入りのホットミルクがレイの知る甘い飲み物の限界だ。
だから、手渡されたマグカップに入る、甘そうな匂いの茶色い液体を見たレイは思わず表情が緩んだ。
ひとくち飲んでみると、レイの知る甘いものランキングが瞬く間にブッチ抜かれた。初めて飲む味なのに、ものすごく自分の好みの味わい。多分ミルクも入っているのだろう。口当たりが優しくて、思わずレイは声にならない声を上げていた。
「気に入った?」
「こ、これ、……やばいよ…」
「ロゼも飲むかな?」
「大好きだと思う」
じゃあ、もうひとつ用意しとこうかなとキッチンへ入っていく彼を尻目に、レイはココアをもう一口飲んでほにゃりと頬を緩ませる。
レイはここに来てから度々、暖かい気持ちにさせられている。それはロゼも同じのようで、彼のことを警戒しつつも、昨日おにぎりを食べた時には安心したような顔をしていたのをレイは見ていた。
(多分、見知らぬ人にここまで優しくするのって、この世界でも普通じゃないんだろうなぁ)
彼はレイ達のことを尊敬していると言っていた。この行動もだからなのかなとも思うが、それが少しだけこそばゆい。
少しすると、ロゼも起きてきた。眠気まなこを擦りながら、寝癖で長い髪がボサボサになっている。
彼がココアを渡すと、ロゼも目を輝かせて飲んでいた。
レイは、そんなロゼを見る彼の優しい眼差しがやけに気になるのだった。
あぁ……。
目ぇキラキラさせてココア飲んでるロゼ、バッカ可愛い。
あれから一晩明けて、今の状況にようやく現実味が湧いてきた。
本当に、これから推しと暮らすのだと考えると胸が踊るが、それと同時にちょっと不安もある。
まぁ、ココアを美味しそうに飲む二人でそんな不安吹き飛んだんですが。
なんかもっと甘いものた食べさせたくなってきた。今日は2人の日用品を買いに行こうと思うんだけど、その時絶対スイーツ食べさせようと心に誓った。
にやけそうになる顔を必死に抑えていると、ココアを飲み終わった2人が何やらひそひそと会話している。なにやってるんだろ?
すると、2人が手招きしてくるので素直に近寄ると……ミ°ッ!?
俺は突然のことに意識が飛びそうになった。なぜなら、2人が急に手を取ってきたからだ。
「これが……男の人の…」
「…ごつごつしてるな」
「な、ななななにしてんの!?」
2人は俺の手をそれぞれ感触を確かめるようにすりすりと触る。
擽ったさと推しに触られてるって光景に驚きながらきくと、2人は好奇心旺盛な顔で答えた。
「その、私達男の人を見たのが初めてだから…」
「私達とどう違うのかが知りたい」
「そんなこと言われましても!?」
つか距離近すぎだろっ!?あと手が段々登ってきてるからっ!
「って、そうか!君ら男がどういう存在か知らないんだっけ」
「どういう存在って?」
「人の亜種じゃないのか?」
「否定しにくいけど、まぁ近類種とかじゃないよ。…とりあえず離してくれ」
もう既に男女じゃアウトめな距離まで縮んじゃってるからっ。そう言うと、2人は手を離してくれた。でも視線は凄い感じる。
さ、流石にこれは注意しておかないと。
「…頼むから、それ外で知らない人にやらないでよね」
「ふふっ、そんな誰にでもはしないよ。ね、ロゼ」
「……おまえは安全だと判断したからな」
なんだ、ひとまずの分別はつけてるみたい安心した。ただ、やっぱり男を見た事ないのがなぁ……後でそれとなく保健体育の教科書でも見せるか?説明出来れば早いけど、何も知らない女の子に俺が直接そういうことを話すのはダメだと思います。
まぁでも、一定の信用は貰ってるってことで喜んでもいいのかな?
「…はぁ、全く…そりゃどうも…。……ココアおかわりいる?」
「「もちろんっ」」
「なぁ、これはなんだっ?」
「ん、ゲーム機のこと?」
軽く朝ごはんを食べたあと。買い物に行くにしても時間が早いのでのんびりしていたら、ロゼがちょっと興奮した様子で据え置き型のゲーム機を指さした。
俺の住んでる部屋は1LDKでレイとロゼが寝た部屋が俺の自室。その部屋にデスクとPC、そして据え置き型のゲーム機が置いてある。昨日から気になってたらしいロゼがちょっとやりたそうにチラチラ見てる可愛い(条件反射)。
そういや漫画版のロゼはゲーム好きだったから、こっちもそうなのかなと思いつつ。ゲーム機を起動してみる。もしやるってなったらここよりもリビングのテレビでやった方がいいかもな。あっちの方が画面でかいし。
「…お、おおおお」
「ロゼ、見たことない顔してる…」
「元々興味あったんだろうな」
「…う、うるさい、見るなっ」
起動した画面に興奮した様な声を上げるロゼに苦笑する俺とレイ。恥ずかしそうにそっぽ向いたロゼにさらに笑いそうになりながらコントローラーを操作して、………あ。
起動してユーザーを選ぶと、当然そのままホーム画面が現れる。問題はその画面の壁紙だった。
「……えっと、…これ、私達?」
「……これは、合体術式か?」
「……いやー、そのぉ……」
はい、閃刀姫大好き民の俺。しっかりと壁紙を閃刀姫にしておりました。それも2人とも描かれてる合体術式エンゲージ・ゼロのやつ。スクショして加工して壁紙にしてたの忘れてた。
2人からの視線がなんか痛い。
「そういえば、昨日私達のファンだとか言ってたな」
「……そんなに私とロゼのこと好きなの?」
「……うん」
やっぱいクソ恥ずかしい。
もう2人の方向けねぇよとりあえず床に正座して後ろを向いていると、つんつん肩を突っつかれる。恐る恐る振り返ると、なんだからもじもじしながら頬をかいてるレイとロゼが。
「その、ごめん。嫌だったよな」
「ううん、全然。むしろ嬉しいよ?」
「……まぁ、私達の写りもいいしな」
フォローになってるかわからんセリフを照れながら言ってくるロゼにちょっと笑ってしまった。気を取り直してゲームを選ぶ。
「なんか気になるのある?」
「…うーん、ロゼは何かある?」
「そうだな、…戦うやつとかないのか」
「んーじゃ、これとかどうだ?」
俺が選んだのは、有名なハンティングゲーム。閃刀姫だし、刀とか使ってみるか?
2人を見るとどっちも画面に釘付けになってる。こらこら顔が近い近い。目ぇ悪くなるってば。
ふんふんと興奮して見てるふたりを画面から離させて、適当にモンスターを狩りに行ってみると、ロゼが興奮しだした。
「こ、この画面の中の人間は出雲が操作しているのかっ?」
「ああ。使う武器は…太刀とかがいいか」
これでもこのゲームはかなりやり込んでる方なので、モンスターと一進一退の攻防的なのを演出しながら戦ってみる。あえてギリギリで避けたり、ちょっと魅せプレイ的なカウンターをしてみたりする内に、ロゼはもちろん後ろで見てたレイも段々画面に顔が近付いてきた。
「す、すごいっ!……今のどうやって避けたの…?」
「い、いや、おそらく今の技で攻撃を受けているんだ。だが、その細い刀1本でよく…」
「あの、画面が見えないよ?」
ついには俺を飛び越えて、画面に2人の頭が張り付いちゃった。画面が全く見えないけど、モンスターの鳴き声的に攻撃はわかるので勘で刀を振っとく。
「み、見えないのに攻撃を当てたっ!?…す、すごいよ出雲っ!」
「い、出雲、その技を一体どこで……!?」
なんか、可愛いからこのまま放っておこう。すごい自己肯定感あがるんだけど。
その後ロゼにやらせてみたら、目をキラキラさせながら夢中でプレイしだした。閃刀姫だから戦闘の勘がいいのか、初見のモンスターでも攻撃を見分けて戦っていく。
「まさか、ここまでロゼがハマるとはね」
「……私もびっくりしたよ。……こういう戦いは上手…って言った方がいいのかな?」
「まあそうだな。実際生身で戦えるって訳じゃないし、その表現で合ってると思う……って、どうした?」
なんかレイがめっちゃ見てくる。レイの身長が160ないくらいで、俺が175くらいだからちょうど見上げる形になる。
「……男の人って、背が高いんだね」
「まぁ、中には低い人もいるけど、大体はレイより高いな」
そういえば、こうして立って並ぶのは何気に初めてだった。レイはじーっと俺を見つめながら、質問をしてくる。
「……また、触ってもいい?」
「え」
「その、……今までロゼとしか人間って感じる相手がいなかったから。人同士が触れ合うと暖かくなるんでしょ?……だから、出雲ともそうなるか試してみたくて…」
「……えっと、…そういうことなら……ど、どうぞ?」
推しにこんなこと言われて、ここで断れる人いるならマジで教えて欲しい。
俺がそう答えると、レイはえへへと嬉しそうに微笑んだ。もうその笑顔が致命傷なんだよぅ。
レイの手が伸びてきて、俺の身体に触れる。
「……わ、わぁ…私と全然違う」
「ほんとに、その触らせて欲しいっての他の人に言うなよな?」
「もー、わかってるって。出雲にしか頼まないから」
「なんで俺には触れれるんだよ?」
「………だって、私達を助けてくれたから」
レイは俺の事をじっと見上げて言った。
「怪我を治してくれて、…話を聞いてくれて、…ご飯を食べさせてくれて、……お疲れ様って言ってくれたからだよ?」
「……お疲れ様って?」
「……うん。私、閃刀姫になってから、ずっと"閃刀姫だから戦わなきゃ"ってずっと思ってた。そうしたらロゼと出会って、同じ人間同士仲良くしたいって思ったけど、やっぱり戦うのは自分の為とか、役目だからって」
レイはおもむろに俺の手を自分の手で包み込んだ。
「……暖かい」
「……レイ」
「だからね?……昨日、出雲がお疲れ様って言ってくれたの、私すーっごく嬉しかった。なんか、初めて戦っててよかったって思えたんだ」
「そう、なんだ…」
「うんっ、……ね、ロゼ?」
レイが俺の後ろに目を向けながら言うと、いつの間にかモンスターを倒し終えたロゼが「私も話に入れろっ」みたいな不満顔でこっちを見ていた。
ベッドによじ登り、俺の上から頭に手を置いてくる。
「……その、私も昨日、出雲に言われた言葉が………ぅ、う…嬉しかった……から……。だから、信用したし、ここで過ごしたいと思った。……あと、ゲームやらせてくれたし」
そこもかよ。……でも、自分なんかの言葉が彼女達を安心させてるのは、なんか良かった。俺としてはあの時もいきなりで心の整理ができてなかったから、変なこと言ったかなって思っちゃってたんだけどね。
すりすり。
「………」
「……………」
「……あの」
すりすり、なでなで。
「ちょっと2人とも?」
「なに?」
「なんだ?」
「擽ったいんですけども」
「……もうちょっとだけ、ダメ?」
「……あと5分だけ。……おお、私とは骨格からもう違う」
「…えっ、そうなのっ?……わぁ、ほんとだぁ……全然違う」
「ちょ、ちょっ……!マジで離れろぉっ!!」
そろそろマジで何かに目覚めそうだからァ!!
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