俺ん家の閃刀姫   作:猫好きの餅

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推し達の視線がなんか冷たい

 

 

 やべぇ、身体が軽っ。

 

 レイとロゼに膝枕と添い寝で寝かし付けてもらうという、全国の閃刀姫使いから石投げられるイベントをこなした俺は、軽い足取りでバイトに勤しんでいた。

 

 いやぁ、まだ体に感触残ってる。膝枕もやばかったが、何よりロゼがほぼ俺に乗っかってきてたのがヤバすぎる。

 

 最初はドキドキしてたけど、安心感が凄かったからまだいつか体験してみたい。………1時間3.5(万)でどうでしょうか…?

 

 俺のバイト先はオシャレなカフェ。個人経営店なのにテナントじゃなくて、ちゃんとひとつの建物でお店を構えてるちょっとすごい所だ。

 

 大学に進学してあそこに越してきてから3年目になるけど、その時からコーヒーが美味しくてよく行ってたんだけど、バイト募集の紙を見て速攻申請。常連客なおかげで他の店員とも知り合いみたいになってたから、すぐに迎えいれられた。

 

 で、働き始めて1年半くらいだけど。働きやすいし、雰囲気いいしで結構気に入っている。

 

 ある程度客を捌き終え、時計を見ると14時。今頃レイとロゼ何してるんだろ。

 

 そんなことを考えていると、後ろから肩を叩かれた。振り向くと、俺の同級生サマがニヤニヤした顔をしている。

 

「お疲れっ。何ポケーっとしてるの?」

「……いや、なんでもないよ?」

「またデッキの構成考えてたんでしょ〜?この遊戯王脳めっ」

「お前に言われたくねぇよ」

 俺のツッコミにニシシッと笑う彼女の名前は浜田美咲。中学から腐れ縁で、俺を遊戯王に引きずり込んだ張本人だ。ちなみに大学も同じ。

 

「じゃあなんでぼーっとしてたの?」

 

 明るい茶髪の髪を黒のリボンでサイドテールにまとめた美咲はカウンター席を布巾で拭きながら尋ねてくる。

 

「……最近、ちょっと寝不足で」

「…遊戯王以外で寝不足ー?………なんで?」

「いや、俺から遊戯王取られても結構残るからな?勉強とか、動画みたりとかあるだろ」

「やー、最近のいずもん、ずっと閃刀姫のデッキ調整してたじゃん?」

「その、人気ないゆるキャラみたいなあだ名やめろ。……調整というか、絵違いを引いてただけだよ」

「えー、出雲くんまだ閃刀姫の増援狙ってんの?…あたし3枚持ってるよ?」

「…この豪運デスティニードロー女め…」

 

 こいつとデュエルするとろくな事にならない。昔からソシャゲのガチャだったり、カードのパックだったりを毎回1発で俺が狙ってたのを引きやがる。

 

 そしてその謎の主人公補正から繰り出す毎ターンデスティニードロー。なんで毎回ピン刺しの捲り札持ってんの?

 

 コイツが、俺が後攻デッキを使うようになった理由の一つだ。

 

 俺の恨めしい視線に美咲はけらけら笑う。

 

「……あははっ!…じゃあ、今夜もやる?お寿司食べさせてあげるから。いくらとうに好きでしょ?」

軍艦(エクシーズ)の方は要らん。……あと、今日はちょっと予定あって出来そうにないわ。ごめん」

「あ、そうなんだ…残念。………ん?」

「どうした?」

 

 店内にいた以後のお客が帰り、ふたりでその片付けをしながら話していると、俺の前を通った美咲が怪訝そうな顔をした。

 

「出雲くん、今日なんかいい匂いしない?」

「……え…今日はって、いつも嗅いでんの?」

「…は、はぁ!?違うしっ!?……ただ今日はなんか違う香りがついてるって言うか……香水って訳じゃなさそうだし…」

「いや、俺香水つけとらんし」

 

 と、そこまで考えて自分の袖を嗅いだとこらで、この甘い匂いにとても覚えがあることに気づいた。

 

 ちなみに、カフェのエプロンの下のシャツは家で着てきた物だ。つまり、寝かしつけられてた時も着ていたもの。

 

 ってことはこの香り、ロゼの……。

 

「…なにか心当たりあるでしょ」

「……さっき、親戚の家行った時に犬と一緒に寝たんだよ。多分それ」

「こんないい匂いする犬いるの?」

「飼い主がそういう感じなんだよ。犬も嫌がってない」

「…ふーん」

 

 結構適当なこと言ったけど、大丈夫かな?

 

 美咲はまだちょっと怪しんでる。俺に付いた香りをもう一度嗅ごうとしてくるのを下がって避ける。

 

「……それとも、彼女でもできたの?」

「はぁ?それこそ無いだろ。中高の俺の非モテ度を見てきただろ」

「……そんなことないんだけどなぁ」

 

 腰を手を当てて下から覗き込んでくる美咲から目を逸らし続ける。こいつ無駄に顔は良いんだから、何度デュエル中に惑わされたことか。机の対面に座って、マスターデュエルですらこれなんだから、こやつとは絶対に紙でやらんと心に決めてる。

 

 あ、お客さん来た。仕事仕事〜。

 

 俺は美咲からお客さんへと意識を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそのまま時が過ぎ、退勤時間の17時。

 

「お先失礼しまーす」

 

 店内から「お疲れ様〜」と返ってきたのを背中で受止め店の裏口から出る。

 

 伸びをしてよし、推しがいる家に帰るかとスキップしそうな勢いで帰路につこうとすると、今しがた出た扉が開いて、なにやら急いだ様子の美咲が顔を出す。

 

「なに、どしたん」

「…待っててくれてもいいじゃん」

「え、なんでよ」

 

 と、口ではそういいながら、隣に並んだ美咲に手に持ってたカップを渡す。

 

「なにこれ」

「え、お前さっき今日でた新商品飲みたいって

言ってたじゃん。あれ奢ってくれアピールじゃないの?」

「……あれはただボヤいただけで…」

「マジかよ。じゃあ俺飲む」

「はぁ!?……こっから返すのはナシでしょっ!」

 

 普通に渡し損じゃねぇかと渡しカップを美咲と取り合う。最終的に俺がひとくちを奪取することに成功した。

 

「………でも、ありがと」

「……その殊勝な顔をデュエルの時にも見せてくれって」

「えー、でも寿司美味しかったでしょ?」

「へいお待ち!って軍艦出して、それを墓地でティアラメンツが食べるデッキだったろアレ。俺のところに寿司届いてねぇじゃん」

「あははっ、アレあたしも結構予想外だったんだよ。本当はティアラメンツに寿司握って貰うはずだったのに」

「寿司共なんで水族なの…?」

 

 最初は、あー軍艦かぁとか思ってたら、いきなり手札からシェイレーン発動して出てくんだもん。そこからはいつものティアラメンツ墓地融合大会だ。なんでアイツら墓地融合のくせに融合素材デッキに戻るの?除外だろ普通。

 

 美咲とアホな会話しながら歩くと、家とバイト先の中間位置のコンビニに着く。俺は真っ直ぐで、美咲は右だ。

 

「……じゃ、ここで。…ありがとね」

「おう、また明日」

 

 美咲と手を振って別れると、今度こそ軽い足取りで家へ向かう。帰ったらレイとロゼが待ってるとか最高かよ。

 

 文字通り速攻て家に戻り、玄関を開ける。

 

 で、2人は何を……

 

「ただ「おかえりっ」うわびっくりした」

「…待ってた」

 

 玄関を開けると、もうそこにレイとロゼがスタンバっていた。犬か君ら。

 

 ただ、6時間ぶりのレイとロゼはやっぱり可愛い。思わず破顔しそうになるのを耐えて、靴を脱いで家に上がる。

 

 がし。

 

 え?

 

 見ると、2人が何故か俺の裾や袖を掴んでいる。別に引っ張られる訳でもなく、俺の移動に合わせてそのまま着いて来た。なんなの?今度は俺が犬みたいじゃん。

 

「…え、なに?どしたの」

「…」

「…なんでもないよ?」

 

 なんでもないことはないはずなんだけど。…いいや、もう理由とかどうでもいいくらいには可愛いし。あとロゼのツインテールクソ可愛くね?何故かキリッとしてる目も相まって見た時叫びそうになった。

 

 とりあえず、俺は美咲にあげた新商品と一緒に買ってきたケーキを2人に渡した。受け取って箱の中身を見たレイの評価が一気に咲く。可愛い。俺この短時間に何回可愛い言ってるの?

 

 ケーキを取り出して皿に乗せるレイに手を洗ってきた俺は尋ねる。

 

「今日は大丈夫だった?お昼ご飯とか」

「うん、大丈夫だったよ。えへへ、ケーキありがとっ」

「…こっちは甘いものが多いな」

 

 ミルクレープを食べたロゼは目を輝かせた。1枚1枚剥がして食べようとして失敗してるのなかわいい。

 

 晩御飯どうするか聞こうと口を開こうとしたその時、俺のスマホが鳴った。ん、着信?

 

 見ると美咲からだった。

 

「通信か?」

「ああ、ちょっと出てくる」

 

 スマホを耳に当てながら立ち上がり、廊下に出て電話に出る、

 

「もしもし、美咲?」

「「っ!?」」

 

「やっほー。元気〜?」

「さっきまで一緒だった奴への挨拶ではなくない?」

「「さっきまで一緒…?」」

「で、なんの用だよ」

「いやー、うちに帰ってから気付いたんだけど……出雲、あたしの水筒持ってってない?」

「え、マジで?」

 

 なんか知らんけどアイツ、今度俺と同じ水筒なんよね。色まで同じだから間違えやすい。

 

 俺は一旦部屋に戻り、持って帰ってきた水筒を……って、なんで2人俺の事ガン見してんの?

 

 まぁいいやと水筒の裏を見ると、案の定美咲の名前が書いてあった。

 

「…ほんとだ。……いいや。俺が今からそっち届け行くよ」

「「!?」」

「…あ、それなんだけどね。もうあたし出雲の部屋の前着きそう」

「マジで?もう玄関前いるの?」

 

 そしてその直後にインターホン。俺はちらっとケーキ食べてるレイとロゼを見る。

 多分、アイツのデュエリスト具合ならば、2人を見た瞬間レイとロゼだと感づきそうだ。

 

「あ、おーけぃ。今出るから待ってて」

「あーい」

 

 そう言って通話を切る。2人がいるのバレないようにしないと。

 

「ちょっと玄関先に出てくるよ」

 

 もう美咲は玄関の前にいるので2人の返答を聞く前に部屋を出る。ささっとレイとロゼの靴を隠して玄関を開ける。

 

「悪い、間違って持って帰って」

「ううん、気にしないで?あたしが先に出雲の水筒持って帰ってただけだし」

「……は?じゃあ俺悪くないじゃねぇか」

「ごめんごめん。……ね、さっき言ってた用事って何時からなの?」

「………あー、あと1時間くらいかな。飯だけ食べてもう1回外でなきゃ行けなくて」

「……そっかぁ、時間あったらデュエルしようと思ったのに」

「悪いな。今度はやろうぜ」

「…うん、またね?」

「……あー、送ろうか?」

「大丈夫。まだ暗くないし、ダッシュで帰るし」

 

 そう言って水筒を交換した美咲は手を振って帰っていった。とりあえずはセーフかな?

 

 バレなくて良かったと汗を拭い部屋に戻ると、またもやレイとロゼの視線の雨に晒される。

 

「…今来たの誰だったの?」

「同じバイトの奴だよ。俺の水筒間違って持って帰ってきちゃったんだってさ」

「………女だった?」

「そうだけど?……まぁ、機会があったら紹介するよ。今となっては俺に閃刀姫を教えてくれたのもアイツだし」

 

 俺の言葉にレイとロゼはふーんと返し、立ち上がった。その手にはまだ食べかけのケーキ。え、何してんの?

 

「ケーキ、私たちの分しかなかったから。出雲も食べる?」

「いや、大丈夫だよ?2人で食べちゃっても」

「いいから口を開けて」

 

 何このデシャヴ感。

 

 こうなったら頑固なのは昨日わかったので大人しく口を開けるとフォークが2本いれられた。いや同時だと味わかんねぇよ?

 

「……おいしいです」

「よかった」

「……もう1口いる?」

「返答求めてないフォークやめて?」

 

 結局残りは食べさせられました。なんかムスッとしてた2人の機嫌も元に戻り、そのまま夕食を作ることに。

 

 今日は色々と地球のことを調べてたらしい。他には料理も勉強を始めたらしく、レイもロゼもよく手伝ってくれる。

 

「出雲が疲れて帰ってきた時に、ご飯とかお風呂あったら喜んでくれるかなって思って」

 

 そう言って笑ったレイが可愛すぎて思わず求婚しそうだった。

 

 そしてロゼはロゼでなんか猫みたいに俺の周りをウロウロしてる。

 

 なにか頼むといつもは眠そうにしてる目をぱあって開いて「まかせろっ」とやってくれる。ちなみに今日は風呂掃除をやってれたらしい。ちょっと胸張ってるのが可愛い。

 

 そして夕食。地球の食べ物も気に入ってくれて、肉野菜炒めをめちゃくちゃ美味しそうに食べてくれた。2人とも意外と食べるから、今度もうちょっと量増やすか。と呟いたら顔を赤くしてた。とても可愛かったです(小並感)。

 

 そんで今は全員風呂に入ってあとは寝るだけ。

 

 さっきマスターデュエルをやってたんだけど、マリスのあんちくしょうにぼろ負けして肩を落としてたら、お風呂上がりのレイがよしよししてくれて、寿命が縮んで伸びた(±0)。レイの聖母化の威力が凄い。

 

 そんなこんなでもう寝る時間。レイとロゼが俺を逃がさないようにと手を取ってベッドまで引っ張ってくる。

 

「わ、わかったって…」

「ほら、ベッドで寝る約束でしょ?」

「…ま、また寝かしつけるか?」

「…逆に寝れなくなっちゃうよ」

 

 そうは言いつつも、またいつかやって欲しいと思うのはダメでしょうか。

 

 迫ってきそうな2人を何とか押し留め、それぞれの布団に入る。昨日一昨日はこっちの部屋リビングの引き戸を閉めてたから、同じ部屋での寝るのはなんだかいたたまれない。

 

「ちゃんと寝てるか確認するからね?」

「余計寝れないよそれだと」

 

 そんな話をしながらおやすみと言い、電気を消して布団を被る。

 

 …………やばい。

 

 

 このベッド、すごいいい匂いする……!

 

 

 3日間レイが使ってたもんだから、完全に匂いが移ってる。全身をレイに包まれてる気がして、全然眠れ…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全身をレイの香りに包まれ、そして2日間の睡眠不足が発揮され無事に出雲が眠りに入った後。

 

 レイはむくりと布団から起き上がった。

 

「……といれ」

 

 布団から抜けて用を足し、部屋に戻ってくるとロゼが布団の大半を剥ぎ取っていた。すやすやと眠りながらも、布団の方にレイのスペースが無くなったに等しい。

 

 そんなロゼに苦笑したレイは、出雲の眠るベッドを見た。こっちも気持ちよさそうに眠っていて、見てるだけで微笑ましくなる。

 

 そして、レイは吸い寄せられるように出雲のベッドに近づく。

 

 思い出すのは朝、ロゼが出雲と一緒に寝ていた事。

 

「……私も、いいよね?」

 

 レイは自分の心のままに動いた。

 

 薄めの掛け布団を捲り、その中に自分の身体を滑り込ませる。

 

 出雲の左半身に身体を寄せた。シングルベッドなので落ちそうだなぁと考えたレイは、出雲の左腕を抱き抱えながら、ぴったりと身体を密着させる。

 

 そして、レイは出雲と一緒に寝て、ロゼの言っていたことを理解した。

 

(……どうしよう、ドキドキして眠れない…!)

 

 そして、出雲と触れ合っているところが暖かい。こうしてくっつくと自分との身体のつくりの違いがより鮮明にわかった。

 

「……出雲」

 

 彼を起こさないように小さく名前を呼ぶ。そうするとなんだから身体がじんわり暖かくなってきて、レイは何度も彼の名前を小声で囁いた。

 

 すると、さっきまであれだけやかましかった鼓動が少し落ち着いてくる。レイはそのまま抱き抱えた腕の下の方に手を伸ばし、彼の手を握る。

 

(ふふ、全然起きない。……あ、こうすればもっと…)

 

 レイは彼から伝わるぽかぽかとした心地いい感覚にやられ、ほとんど無意識で出雲の手に指をからませた。これがどういう意味の行動なのかはまだレイにはわからないが、何故かこの時はこうしたいと本能で思っていた。

 

 

 

(私、もっと出雲のこと、知りたいなぁ)

 

 レイは指を絡めた彼の腕をより一層胸に抱きしめ、首筋に顔を埋めて目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 なお、翌朝の彼の情緒は地獄なのが確定した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 浜田 美咲

 ピンクかがった茶髪を黒リボンでサイドテールにしてる美人。
 出雲と中学高校大学と同じ学校同じクラス。遊戯王オタク。
 出雲をマスターデュエルに引き込み、それからよくオンラインでデュエルをしている。
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