マブラブオルタネイティヴ 日出ずる処の鬼神   作:ユウ・ベルフ

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続き




帝都防衛戦編 最終章:京都炎上、神殺しの6時間

1998年、晩秋。古都・京都。

千年の都は、紅蓮の炎に包まれていた。

かつて雅(みやび)を誇った街並みはBETAによって蹂躙され、瓦礫の山と化している。

その最後の聖域、京都御所・建礼門前。そこに、一機の戦術機が仁王立ちしていた。

『建御名方』。

だが、その姿はもはや機動兵器としての体を成していなかった。

右腕は肩から引きちぎられ、左脚は膝から下が欠損している。

装甲はすべて剥がれ落ち、剥き出しのフレームが内臓のように脈動している。

「……はぁ、はぁ、はぁ……ッ」

コクピットの中は、地獄だった。

悠の全身から噴き出した血が、床に水溜まりを作っている。

鎮痛剤の過剰投与で感覚は麻痺しているはずなのに、脳髄を直接スプーンで掻き回されるような激痛が走る。

「……まだだ。……まだ、殿下のヘリが……」

悠は残った隻眼で、御所の上空を見上げた。

遷都のための輸送ヘリが飛び立つまで、あとわずか。

だが、目の前には地平線を埋め尽くすBETAの黒い波。

「……真那姉様。天照。……下がれ」

悠は、背後で傷つき倒れている部下たちに告げた。

「ここから先は、人の領域じゃない。……俺一人で行く」

「悠! 嫌だ! 死ぬ気か!」

「……死なんさ。まだ、姉様に甘味を奢ってもらってない」

悠は、阿頼耶識システムのコンソールを開いた。

血に濡れた指で、最後のセキュリティロックを解除する。

【Safety Level: 0. Limit Release.(リミッター解除)】

「……阿頼耶識、全開」

ブチュゥッ!!

不快な音と共に、悠の左目と鼻腔から鮮血が噴射された。

神経接続率、400%突破。

悠の意識(タマシイ)が肉体を離れ、機体という鋼鉄の檻と完全に融合した。

神話の再現

「オォォォォォォォォォォォォッ!!!」

建御名方が咆哮した。

それはスピーカーからの音ではなく、機体のフレームがきしみ上げる金属の断末魔だった。

片足がない? 関係ない。スラスターで浮けばいい。

右腕がない? 関係ない。左手がある。牙(頭部)がある。全身が武器だ。

「……見え、る……」

悠の視界(世界)は真紅に染まっていた。

時間の流れが止まって見える。

飛びかかってくる要撃級の腕が、泥の中を泳ぐように遅い。

ズパンッ!!

残った左手の「拳」が、要撃級の顔面を粉砕した。

刀などいらない。トールギス由来の超加速が乗った質量そのものが、最強の砲弾だ。

「アハハハハハハハッ!!」

建御名方が暴風となって戦場を駆け巡る。

突撃級の背中に飛び乗り、その突進を利用して敵陣深くへ切り込む。

光線級のレーザーを、最小限の首の動きだけで回避する。

弾薬などとっくにない。

千切れた敵の腕を拾って投げつけ、噛みつき、体当たりですり潰す。

それは戦術機ではない。

「山城悠」という名の、狂った神だった。

1時間。3時間。5時間……。

悠陽を乗せたヘリが飛び立つのを背中で感じながら、悠は踊り続けた。左目の視力は完全に失われた。左腕の神経は焼き切れ、炭化し始めていた。

それでも、彼は止まらなかった。

限界の先へ

6時間後。

京都御所周辺のBETAは、その死体で山を築いていた。

だが、悠の命の灯火も、消える寸前だった。

ピ……ピピ……

『建御名方』の動力炉が、臨界停止を告げる。

動きが止まる。

その隙を見逃すBETAではない。

「……あ」

巨大な要塞級の触手が、建御名方の胴体を捉えた。

バキバキと音を立てて締め上げられるコクピット。

悠の肋骨が砕ける音が、体内から響く。

(……ここまで、か……)

薄れゆく意識の中で、悠は悠陽の笑顔を思い浮かべた。

守れただろうか。

俺は、山城家の当主として……胸を張れるだろうか。

要塞級が、その巨大な溶解液の口を開ける。

死が、目の前に迫る。

「……姉様……」

悠が最期の言葉を漏らした、その時。

ズドドドドドドドォォォンッ!!

雷鳴のような砲撃音が、京都の空を引き裂いた。

要塞級の頭部が、一瞬にして消し飛ぶ。

「……え?」

悠が霞む目で横を見る。

そこには、高貴な**「蒼」**の塗装を施された、真新しい戦術機の大部隊が到着していた。

五摂家筆頭・斑鳩家の家紋。

そして、日本帝国斯衛軍・第16大隊のエンブレム。

『……待たせたな、山城大尉!!』

通信機から響く、威厳ある男の声。

五摂家・斑鳩家の現当主(斑鳩崇継)である。

『これより、斑鳩家および斯衛軍第16大隊が戦線を引き継ぐ!』

『者ども! 山城の若獅子が命を削って守った御所である! 一匹たりとも穢させるな!!』

「「「応ッ!!!」」」

紫の『武御雷(Type-00R)』と、最新鋭の『94式不知火』の大軍勢が、要塞級の群れに突撃する。

それは、悠が6時間耐え抜いたからこそ間に合った、最強の援軍だった。

「……斑鳩……様……」

斑鳩当主の機体が、崩れ落ちる建御名方を抱き止める。

『見事だ、山城悠。……そなたの武勇、まさしく鬼神の如し。……あとは任せて、眠れ』

その力強い言葉を聞いた瞬間。

悠の中で張り詰めていた糸が、プツリと切れた。

(……ああ……よかった……)

悠の意識は、深い闇の底へと沈んでいった。

左目と左腕、そして少年としての無垢な心を、燃え盛る京都に置き去りにして。

終章:隻眼の目覚め

数週間後。東京の軍病院。

集中治療室で、悠は目を覚ました。

左目は見えなかった。

左腕は、石のように動かなかった。

体中にチューブが繋がれ、生きているのが不思議なほどの重体。

「……悠……!」

ベッドの脇で、月詠真那が泣き崩れていた。

その奥には、煌武院悠陽が、扇で顔を隠しながら涙を流していた。

悠は、動く右手をゆっくりと持ち上げ、真那を抱きしめた。

「……守ったよ。……姉様」

その言葉に、病室にいた全員が嗚咽を漏らした。

1998年、京都防衛戦。

日本は帝都を失ったが、未来への希望(悠陽)と、一人の「英雄」を手に入れた。

代償は大きかった。

だが、この傷こそが、2001年の彼を形作る「強さ」の証となったのである。

 

佐渡防衛戦編 第1章:隻眼の鬼と提督

1998年9月25日。新潟県、帝国軍新潟基地。

司令室のモニターは、絶望的な赤色(BETA反応)で埋め尽くされていた。

「佐渡島、真野湾よりBETA群上陸! その数、師団規模! 佐渡守備隊、防衛ラインを維持できません!」

「第2戦車大隊、壊滅! 両津港への避難民収容、間に合いません!」

悲鳴のような報告が飛び交う中、基地司令の山本五十六中将は、苦渋の決断を迫られていた。

海軍の艦隊は出払っており、航空支援も荒天のため制限される。今から増援を送っても、佐渡が食い荒らされるのが先だ。

「……見捨てるしか、ないのか」

山本が拳を握りしめたその時、司令室の扉が乱暴に開かれた。

「山本司令!! 『建御名方』の出撃許可を!!」

入ってきたのは、包帯と眼帯で顔の半分を覆い、左腕を吊った状態の青年将校――山城悠少佐だった。京都での激戦で負った傷は深く、立っているのがやっとの状態。だが、残された右目だけは、狂気じみた光を放っていた。

「山城少佐……貴様、その体で何を言うか!」

山本が一喝する。

「左目は見えず、左腕も動かん。阿頼耶識の負荷で神経もズタボロだ。そんな状態で出撃すれば、BETAと戦う前にGで死ぬぞ!」

「死にません! 私が死ねば、佐渡の民は誰が守るのですか!それに、身体の感覚は乗れば、戻ります。阿頼耶識が、私の失われた半身となります。……機体と繋がれば、私は五体満足以上の力を出せる。Gになど負けません」

悠は一歩も引かなかった。

動かない左手を右手で押さえつけ、山本に詰め寄る。

「佐渡が落ちれば、次はここ新潟が最前線となります。敵は両面から本土を喰らい尽くすでしょう。……それに!」

悠はモニターに映る、逃げ惑う人々の映像を指差した。

「あそこにはまだ、生きている人がいる! 光州で、九州で、京都で……散々見捨ててきた! もうこれ以上、私の目の及ぶ範囲で、民を見殺しにはできません!!」

「……貴様」

「『建御名方』の推力なら、5分で到達できます! 先行して前線を支えます! その間に、月詠大尉たちを輸送機で送ってください!」

5分。

新潟から佐渡まで、海を超えて5分。それは既存の戦術機の常識を超えた速度だった。

山本は、目の前の満身創痍の若者を凝視した。

そこに死に急ぐ者の姿ではなく、生きるために足掻く「武人」の姿を見た。

「……責任は、私が取る」

山本は帽子を目深に被り直した。

「行け、山城少佐! ただし、必ず生きて戻れ! これは命令だ!」

「感謝いたします!!」

悠は敬礼し、痛む体を引きずって格納庫へと走った。

 

第2章:人機融合、完全なる覚醒

格納庫。

悠は整備兵の手を借りて、ようやくコクピットへとたどり着いた。

シートに体を沈める。生身の肉体は重く、鉛のようにダルい。

だが、悠の表情は晴れやかだった。

「……帰ってきたぞ、相棒」

悠は慣れた手つきで、首筋のソケットに阿頼耶識システムのコネクタを接続した。

ガシュッ。

その瞬間。

ドクンッ!!

世界が一変した。

暗闇だった左側の視界に、鮮明な光が戻る。全周囲モニターからの映像が、直接脳に流れ込む。

感覚のなかった左腕に、油圧と電気信号の脈動が走る。指先(マニピュレーター)の感覚が、まるで自分の皮膚のように鋭敏になる。

「……ふぅー……」

悠は深く息を吐いた。

痛みはない。苦しみもない。

あるのは、巨大な力を手に入れた全能感と、研ぎ澄まされた静寂だけ。

かつては内臓を食い破るようだったシステム負荷も、今の悠にとっては心地よい鼓動となっていた。

『山城少佐、進路クリア!ご武運を!!』

「山城悠、建御名方……出るッ!!」

ズバァァァァァァァッ!!

スーパーバーニアが咆哮する。

強烈な加速Gが全身を襲う。だが、悠は眉一つ動かさない。

彼の肉体はすでに、この殺人的な加速を「日常」として受け入れていた。

音速の壁を突破し、日本海の荒波を切り裂いて、白き流星は佐渡へと突き進む。

 

第3章:両津港の守護神、再臨

佐渡島、両津港。

BETAの群れが、逃げ惑う人々に迫っていた。

絶望的な悲鳴。砕けるバリケード。その空気を、一閃の雷が切り裂いた。

ドォォォォォンッ!!

着地と同時に衝撃波が広がり、最前列の突撃級たちが木の葉のように舞う。

砂煙の中から現れたのは、悠然と立つ『建御名方』だった。

外部スピーカーが、悠の咆哮を轟かせた。

『私は帝国斯衛軍、山城悠少佐である!! 待たせたな、待避を急げ!!』

「や、山城少佐!? あの『京都の鬼神』か!?」

「斯衛が……しかも当主様ご自身が来てくれたぞ!!」

絶望に沈んでいた守備隊と市民の目に、光が宿る。

悠は『布都御魂(長刀)』を振るい、群がる戦車級をなぎ払う。

「ここから先は通さん! これ以上佐渡の民に指一本触れさせてなるものかッ!」

吐血混じりの絶叫ではない。絶対強者としての宣告。

「グォォォォッ!!」

要撃級が左右から襲いかかる。

だが、悠には「見えて」いた。

左側の死角? そんなものは存在しない。カメラアイが捉えた映像は、悠の左目として機能している。

ズバンッ!!

左手の『96式電磁滑空砲』が、鈍器のように振るわれ、左側の要撃級を殴り飛ばす。

同時に、右手の『布都御魂(長刀)』が、右側の要撃級を袈裟懸けに両断する。

「な、なんだあの動きは!?」

守備隊員が戦慄する。

「まるで…生身の人間みたいだ…」

コクピットの中、悠の両手は目にも止まらぬ速さで操縦桿を捌いていた。

麻痺していたはずの左腕は、システムからの逆流信号によって強制的に駆動させられ、精密かつパワフルな操作を行っている。

「……遅い」

悠がスロットルを開放する。

建御名方が消える。

突撃級の群れの中をジグザグに走り抜け、すれ違いざまに急所のみを正確に貫いていく。

強烈なGがかかっているはずだが、悠の呼吸は乱れない。

「(……もっとだ。もっと速く動ける)」

悠と機体の同調率は、過去最高に達していた。

吐血もしない。骨もきしまない。

ただ、流れるような演舞で、死の山を築いていく。

 

第4章:天照、そして伝説へ

5分、10分……。

悠はたった一機で、師団規模のBETAを港に釘付けにしていた。

だが、弾薬には限りがある。

『警告。滑空砲、弾切れ』

「パージ!」

悠は迷わず滑空砲を投げ捨て、背中の予備ブレードを抜いた。

二刀流。

さらに加速し、回転しながらBETAの群れを切り刻む。

その時、空が割れた。

『悠!! 待たせた!!』

月詠真那率いる『天照部隊』の武御雷4機が、輸送機から空挺降下してくる。

真紅の機体が舞い降り、悠の背後を狙っていた光線級を撃ち抜く。

「真那姉様!」

『悠! ……無事か!?』

真那は、ボロボロになりながらも仁王立ちする悠の機体を見て、息を呑んだ。

傷ついているはずなのに、その立ち姿はあまりにも美しく、そして恐ろしかった。

『……ああ、ピンピンしてるよ。G酔いもしない』

悠が不敵に笑う。

『さあ、ここからは反撃だ! 斯衛の力、見せてやるぞ!』

「「「応ッ!!」」」

5機の戦術機による、完璧な連携。

それは「防衛戦」というより、一方的な「蹂躙」だった。

両津港に集まっていたBETAは、天照部隊によって根こそぎ駆逐され、避難民と守備隊は全員が無事に脱出を果たした。

エピローグ:分離の痛み

戦闘終了後。新潟基地への帰還。

悠は建御名方から降りるため、阿頼耶識の接続を解除した。

プシュッ。

「……っ、ぐぅ……!」

コネクタが外れた瞬間、世界が色を失った。

左目の視界が闇に閉ざされ、左腕の感覚が消失し、ただの重い肉塊へと戻る。

全能感から、無力な障害者への急激な落差。

その喪失感と、後から押し寄せる疲労に、悠はコクピットの中で膝をついた。

「……悠!」

真那が駆け寄り、悠を支える。

「大丈夫か? 血は……吐いていないな」

「ああ……。体が慣れたみたいだ。……でも、少し眠いな」

悠は真那に寄りかかり、安らかな寝息を立て始めた。

戦っている時だけが「完全」でいられる。

それはあまりにも悲しい業だったが、今の悠にとっては、民を守るための最強の武器となっていた。

 

明星作戦編 第1章:双璧の煌めき

1999年12月。横浜。

人類反攻の狼煙となるべく発動された大規模作戦「明星作戦」。

日米合同軍による横浜ハイヴ攻略戦は、最終局面を迎えていた。

「……阿頼耶識、コネクト」

『建御名方』のコクピット内で、山城悠が静かに呟く。

プラグが接続されると同時に、不自由な左目と左腕に「光」と「力」が宿る。

かつては内臓を焼き尽くすようだった情報負荷も、今の悠にとっては心地よい風のようなものだった。

Gへの適応も完了している。吐血もない。痛みもない。

あるのは、機体と完全に一つになった一体感だけ。

「行くぞ、尚哉。……遅れるなよ」

ズドォォォォォォォッ!!

建御名方が加速する。

音速を超え、BETAの前衛部隊へ突っ込む。

滑空砲(ドーバーガン)の一撃で要塞級を粉砕し、その爆風を突き破って長刀を振るう。

「あたりまえだ! 誰にモノを言っている!」

その背後から、一糸乱れぬ動きで追随する影があった。

沙霧尚哉の『不知火』である。

悠が切り開いた道をさらに広げ、漏れた敵を精密射撃で撃ち抜く。

「(……速い。また腕を上げたな、悠)」

尚哉は舌を巻いた。

悠の動きは、もはや戦術機のマニュアルには存在しない挙動だ。

重力や慣性を無視したかのような三次元機動。死角からの攻撃を、見てもいないのに最小限の動きで回避する予知能力。

「鬼神」の名に相応しい、人知を超えた演舞。

だが、尚哉も負けてはいなかった。悠の異次元の動きに食らいつき、その背中を完璧にカバーする。悠が「矛」なら、尚哉は最強の「盾」であり「追撃者」だった。

『右翼、光線級多数!』

『見えてる!』

悠が叫ぶより早く、尚哉が動く。

建御名方が囮となってレーザーを引きつけた瞬間、不知火が側面から強襲し、光線級の群れを沈黙させる。

『流石だ、尚哉!』

『お前が派手に踊るから、こっちは狙いやすいんだよ!』

二人の連携は、戦場全体を牽引していた。

帝国軍だけでなく、並走する米軍や国連軍の兵士たちも、その圧倒的な強さに奮い立った。

「見ろ! 斯衛の山城と、防衛軍の沙霧だ!」

「すげぇ……あの二人だけで前線を押し上げてやがる!」

「行けるぞ! 俺たちも続けぇッ!」

人類軍の士気が爆発する。

BETAの防衛ラインが崩壊していく。

硝煙の向こうに、横浜ハイヴの巨大なモニュメントが、手の届く距離に見えてきた。

『CPより全機へ! ハイヴ表層部の防衛ライン、突破を確認!』

『突入部隊、ルート確保! これより反応炉を目指す!』

勝利の予感。

悠は、建御名方のカメラアイでハイヴを見据え、確信した。

(……勝てる。G弾など使わなくても、俺たちの力で……!)

「尚哉! あと一押しだ! このまま本丸まで駆け抜けるぞ!」

「ああ! 今日こそ人類の……日本の夜明けだ!!」

白と黒の機体が並び立つ。

その姿は、絶望的な戦場における唯一無二の「明星(きぼう)」そのものだった。

誰もが疑わなかった。

あと数時間後には、横浜の地で勝利の美酒を味わえることを。

そう、あの「閃光」が降り注ぐまでは。

作戦は順調。突入部隊は難なくハイブの下層へ慎重に侵入していく。

「ブラボー中隊よりコマンドポスト。我、第7層到達。」

「コマンドポストよりブラボーリーダー、警戒しつつ進め」

「了解」

国連軍仕様のF-15Eが4機、巨大なホールに到達する。

「どでけぇホールだ」

「なんなんだこの空間は…」

「…まて、上に何かある。」

「ブラボーリーダーよりコマンドポスト、ハイブ第7層にて謎の空間を確認した。上から何かが複数吊るされている。これより最大望遠で詳細を確認する。」

ブラボーリーダーが徐々にカメラを拡大し、上から吊り下がるクリスタルのようなものの中を見る。

「あれは…嘘だろ…」

「ブラボーリーダー、何が見える?!」

「人間の…脳だ!!人間の脳が入っている!!」

「ブラボーリーダー、こちらコマンドポスト、少し待て。」

F-15E4機はその場に留まり指示を待つ。

「ブラボーリーダー、こちらコマンドポスト。吊り下がっている物を回収し退避せよ。」

「…了解」

ブラボーリーダーは渋々と言った形で命令に従い吊り下がっている人間の脳が入ったクリスタル状の物を回収すると全速力で来た道をもどりハイブから脱出。悠は突入部隊が退避したあとの国連軍や米軍が不自然に感じ、斯衛軍、本土防衛軍に警戒するように指示する。

悠「天照1より帝国軍全機へ、アメリカ軍と国連軍の動きが妙だ。G弾の使用か何か問題が発生した可能性がある。警戒せよ。」

悠が全隊に通信をした時だった。空からふたつの輝く球体が来たのは。

「作戦参加の全部隊へ、我々はG弾の使用を決定した。速やかに退避せよ。」

悠「なっ…!ふざけるな!!本土にG弾を投下だと?!同盟国にG弾を落とすのかアメリカは!!」

尚哉「辞めろォォッ!!これ以上ッ!!!」

尚哉が叫んだ時だった。G弾は横浜ハイブ上空で炸裂、その爆風は半径50キロ圏内に強力に発生し退避しきれず50キロ圏内にいた帝国軍は死傷者は出ずとも少なからず被害が出た。

悠「…これが、同盟国にやることなのか…」

悠「一方的に安保条約を破棄し、多くの我が国の民を見捨て、国土を焦土と化すことが…アメリカの正義だとでも言うのかッ!!」

悠は涙を流し、嘆く。悠の声は無線から作戦に参加した帝国軍将兵の耳に届き、帝国軍将兵も憤りを隠せなかった。司令部では帝国軍側の司令官が国連とアメリカに厳重に抗議、しかもその場で軍刀を抜いて嘲笑ったアメリカ軍将校に斬りかかろうとしたほどであった。

尚哉「…許さん…許さんぞ、傲慢なるアメリカ人共よ」

尚哉「民間人を見捨て、国土を犯すその愚行…断じて、断じて許さん…!!」

尚哉の通信を皮切りに、作戦に参加した駒木や他の衛士たちも、口々にアメリカや国連への憎悪や怨念を吐き出していく。

その姿はまるで、亡霊のようだった。横浜の空に立ち昇る、二つの巨大なキノコ雲。

それは「明星」などではない。人類の希望を焼き払い、同盟という名の信頼を灰にした、悪魔の灯火だった。

コクピットの中で、悠は涙が枯れるほど泣いた後、静かに誓った。

見えなくなった左目で、あのキノコ雲を焼き付けた。

(……忘れない。絶対に、忘れない)

この日、横浜の焦土の上で、純粋な「衛士」としての山城悠と沙霧尚哉は死んだ。

代わりに生まれたのは、国を食い物にする外道への復讐心と、歪んでしまった正義を抱く「修羅」たちだった。

そして時は流れ――2001年。

運命の12月5日へと、秒読みが開始されることになる。

 

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