マブラブオルタネイティヴ 日出ずる処の鬼神   作:ユウ・ベルフ

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着任

10月12日、第201特殊任務戦闘警護部隊は悠陽殿下からの勅命で、横浜基地衛士練度向上のために教導隊として常駐することが決まった。悠は基地司令のラダビノッド司令に着任の挨拶をした後、先任であり訓練隊の教官である神宮司まりもに挨拶するため悠は真那を連れて訓練兵舎を訪れていた。

「着任の挨拶に参りました、山城です。入ります。」

「入れ」

「入ります。」

悠は礼儀正しく入室し、敬礼する。

「帝国斯衛軍第201特殊任務戦闘警護部隊、山城悠少佐以下5名。本日付けで国連軍横浜基地所属、衛士教導の為着任いたします。」

「了解しました、よろしくお願いします。"少佐殿"」

まりもの含みのある言い方に悠は首を傾げる。9-6作戦で背中を預けあったまりもの雰囲気が変わっていたため、悠は気づかなかったのだ。それにムッとしたまりもが少し不機嫌になりながら返事をしたというわけだ。

「…あの、軍曹?」

「私のこと、覚えてないの?」

まりもは綺麗な長い髪をひとつに纏めると、悠は驚いた顔をする。

「ままま…まりも先輩?!」

「なぁんで忘れるのよ!」

「だって雰囲気全然違うじゃないですか!!しかも会ったのどれだけ前だと思ってんです?!」

「それでも先輩のことを忘れるのは許されません!!」

「いでで!ごめんなひゃいごめんなひゃい!!」

悠の両頬を軽くつねってひっぱったり戻したりする。少しして満足したのかまりもは手を離し

「よろしくね、後輩!」

「ウッス、まりも先輩!」

2人は握手し互いに笑い合う。それを真那は後ろで腕を組んで微笑んでいた。

 

鬼の訓練

白銀達207B分隊にとって地獄の訓練が始まった。帝国最精鋭、世界に名だたる天照部隊の面々が徹底的に訓練をおこなっていく。人間の限界ギリギリを訓練させられるため白銀達は毎日悲鳴を上げていた。だが、着時に実力をつけ始める。

『クソッ!当たらねぇ!』

『05、06をカバー!』

『了解!ッキャァ!!』

『05!!』

相手は一機、こちらは6機。なのに追い込むどころか追い詰められる。

『動きが単調過ぎだ貴様ら!!そんな動き、BETAに通用せんぞ!』

毎度悠による一方的な蹂躙であった。今回の殲滅は3分、前回は2分50秒だったので10秒伸びた。だが実戦で生き残るにはまだまだ足りない。悠は真那や神代、巴、戎と共に白銀や冥夜達に細かく丁寧に解説していく。その姿は頼りになる先輩達であった。

 

冥夜

悠は悠陽から賜った勅命の真の目的であり、人気のない斯衛に貸し与えられた格納庫で、悠陽の双子の妹である冥夜の前に悠達天照は膝をつき、頭を垂れていた。

「冥夜様、お久しゅうございます。」

「…表をあげてください、山城少佐。今は御剣冥夜訓練兵です」

「しかし、冥夜様は我が主である煌武院悠陽様の妹君にございます。なれば如何に佐官と訓練兵の立場はあれど、私が忠を尽くすには十分すぎる理由であります。どうか平にご容赦ください。」

悠の本心であった。悠と真那は悠陽と幼少期を過ごした傍ら、冥夜とも過ごした時期がある。冥夜は2人より年下なこともあり妹のように接してきた。だが、今は公的な立場で接しているため、どうしても仰々しくなってしまう。

「…分かりました。しかし、殿下に双子の妹はおらず、私にも双子の姉はいません。私には、悠と真那、2人の兄と姉がいるだけです。」

「それは…あまりにも…!」

幼い頃はあれだけ悠陽の事を思っていた彼女が、ここまで言わなくてはいけないなど、悠には耐え難いものだった。だが、その道を彼女たちが進むと言うのなら悠は陰で支えるしかない。

「…分かり、ました。冥夜様のご意志に従います。しかしながら、それでも我々の思いは変わることはありません。どうか、お頼りください」

悠は苦しい顔を決して冥夜には見せず、了承してみせた。そして、冥夜に貴女は独りじゃないと、暗に伝えた。冥夜は悠の思いがわかったのだろう、しっかりと頷いた。

 

再会

2001年、11月5日。悠は休暇を使い、帝都東京に1人で訪れていた。沙霧尚哉、悠の戦友にして唯一無二の親友と、3ヶ月ぶりに会うために。待ち合わせ場所には既に2人の人影があった。1つは親友の、もう1つは佐渡防衛戦の折より付き合いのある駒木咲代子であった。

「久しぶりだな、2人とも」

「久しぶり、悠ちゃん」

「お久しぶりです、山城少佐」

悠は2人と握手をし、再会を喜ぶ。悠からすれば、気心のしれた戦友の2人だ。変に気を使う必要がない分、肩肘をはらずにいられる。3人は他愛もない話をしながら、難民で溢れる公園や広場の近くを通る。

「…避難民が何故、なぜこんな所で生活している…!!政府は彼等に住居すら与えていないのか!」

悠は帝都の現状をみて憤りを隠せていなかった。護るべき民を蔑ろにし、民に負担を強いている事が許せなかった。悠の憤った顔を見て、尚哉は真っ直ぐ前を見てこたえる。

「これが今の日本の現状だ。政治は腐敗し、軍は大義を忘れ、民意を蔑ろにしている。殿下は、このような現状を良しとするはずがない。今の政治には民の意思も、殿下の御意思が反映されていない。」

「…散っていったものたちと国の為に必至になって任務に従事している現場の兵士達も、今の日本の現状を良しとする者はいません。」

「…悠、俺たちは蹶起する。」

「…なんだと?」

「この国の民を護るため、この国を良い方向に変えるために、俺たちは起つ。」

「…お前たちの憂国の気持ちは良くわかった。だがなさっちゃん。」

悠は沙霧の方に体を向け真剣な目で見つめると言葉を続ける。

「早まっちゃなんねぇ、人を殺めちゃなんねぇぞ。その一線を越えちまったら、それは外道に落ちちまう。」

悠は苦しそうに言葉を話す。尚哉の気持ちはよく分かるから。尚哉はどこか澄んだ瞳で微笑む。

「俺たちはこの国が正しい道に戻るなら、この身が外道に落ちても構わない。だけど悠ちゃん、俺は出来れば、血を流さずに済ませたいんだ。」

「…自分達が、どうなるか分かって蹶起するんだな…?」

「あぁ。」

「…分かった。止めるのは無駄だな。さっちゃん、俺は一緒には行けない。俺には、自分の命を捨ててでも、自分がどれだけ血に濡れようと護らなくてはいけない人(悠陽)がいる。」

「…わかっているさ、無理矢理連れてくわけ無いだろ。」

悠は泣きそうな顔をしながら尚哉の肩に手を置く。

「…すまんッすまん…!!」

悠は大粒の涙を流しながら尚哉を抱きしめる。これが最後になると、2人は悟りながら。

 

蹶起

11月5日の再会から、悠は11月5日に沙霧に言われたことを誰にも相談できず自身の無力感に苛まれていた。そして、12月5日を迎えた。

 

『―全部部隊は完全武装にて待機せよ―繰り返す、防衛基準体制2発令―』

 

「…始まってしまった」

悠は人知れず呟くと、強化衛士装備に着替える。ふとテレビをつけると、尊将討奸の旗の前に白い軍服に身を包んだ尚哉の姿が映る。

 

『親愛なる国民の皆様、私は帝国本土防衛軍帝都守備連隊所属、狭霧尚哉大尉であります』

『皆様もよくご存知の通り…我が帝国は今や人類の存亡を懸けた侵略者との戦いの最前線となっており、殿下と国民の皆様を…ひいては人類社会を守護すべく前線にて我が輩は日夜生命を賭して戦っております。それが政府と我々軍人に課せられた崇高な責務であり、全うすべき唯一無二の使命であるとも言えましょう』

『しかしながら政府及び軍はその責務を十分に果たしてきたと言えるでしょうか?』

『先日の天元山災害救助活動…、報道では危険を顧みず救助に挺身する軍人…国民の生命財産の保護の優先。などという美辞麗句が並べられておりましたが』

『かの作戦の実態は帰還住民の意思や権利を一切考慮せず、就寝時に麻酔銃で襲撃。強制的に退去させると言うものでありました。』

『辛うじて風雨がしのげる程度の仮設住宅に押し込められ、食料の配給も足りず医薬品も十分にない…何の咎も無い国民があたかも罪人のごとく扱われる…これが難民収容所の実態なのです!』

『これは氷山の一角に過ぎない事例なのであります。将軍殿下のご尊名において遂行された軍の作戦の多くが政府や軍にとっての効率や安定のみが優先され本来守るべき国民が蔑ろにされています。しかも国政を欲しいままにする奸臣共はその事実を殿下にお伝えしていないのです!!』

『…このままでは殿下の御心と国民は分断され、遠からず日本は滅びてしまうと断言せざるを得ない!』

 

放送はここで終わった。悠の脳裏に、帝都で見た避難民の姿が浮かぶ。民に道を示せず、若者達が国を憂いて蹶起した。悠が山城家当主として嘆くには充分すぎる理由がある。今すぐにでも飛び出して尚哉達の説得にあたりたい、そう思うが悠はぐっと堪える。悠が思い悩んでいる間に、国連安全保障理事会が米軍の受け入れを認めた米軍のF-15Eが滑走路に着陸してきていた。

「…今更アメリカ軍が出しゃばってきて何を…!」

その様子を見て悠は憎悪を隠さずには居られなかった。まだ仙台臨時政府が国連とアメリカの軍事的支援を受け入れてはいなかったため、本土防衛軍の陽炎が10数機、横浜基地を囲うように並び、警戒態勢を敷いていた。

悠は建御名方から横浜基地を包囲している帝国軍部隊に通信を入れようと格納庫の近くを通った時、真那や武達の声が聞こえる。

「こんな時に国家の主権がどうこう言ってる場合かよ!くだらねぇ」

「聞き捨てならんな、白銀」

武の発言に、真那が言うよりも先に悠が言う。

「彼の国が我が国にしてきたことを理解しているのか?一方的な安保条約破棄により、何の罪もない民間人に多数の犠牲を出し、明星作戦ではG弾を使用。この地を焦土と化した。この国の人間なら理解できるはずだがな。」

悠は米軍への憎悪を隠さずに武を睨む。

「ですが、それでもこんなことしてる場合じゃないでしょ?!人類の未来がかかっているのに、クーデターなんて!くだらないにも程がある!」

武の発言は確かに間違ってはいない。だが、悠の感情のタガを外すには十分だった。悠は一気に詰め寄り、右手で武の胸倉を掴み持ち上げる。

「くだらないだと…?!日本人でありながら何も知らない貴様が、彼らの思いも知らず、この国の現状も理解していない貴様がッ!!くだらないの一言で方を付けるのか!!」

「彼等はこの国を、民を誰よりも愛し!最前線で地獄を生き抜いてきた者達ばかりだ!!そんな彼等が蹶起しなくてはいけないこの現状が間違っているのに、それを貴様は…!」

悠の目には涙が浮かんでいた。そして、言い終わる前に武を降ろし悠は膝をついて涙を流す。悠のこんな姿を見るのはこの場にいる真那を除きはじめてであった。真那は武と冥夜に移動するように伝え、悠のそばに寄り添っていた。

そして、榊首相を始めとする政府主要メンバーは射殺された。

 

動乱、出立

21:45、突如蹶起部隊の一部が斯衛軍部隊に向け発砲。帝都での戦闘が開始されてしまった。もはや、この騒乱は行くところまで行くしか無くなってしまったのだろう。仙台臨時政府が国連と米軍の軍事的支援を正式に受け入れたことで207B分隊には塔ヶ島離城警備が命令され、201部隊も共に出撃した。

悠や武達が戦闘が開始されたのを知ったのは塔ヶ島離城到着の30分前であった。

「…ありえん、尚哉がそんなことを許すはずが…!」

悠は信じられないという表情だった。蹶起部隊の発砲が、蹶起部隊の中に入り込んだ米国工作員であると知るのはまだ先の話である。

22:25、塔ヶ島離城に到着し、207小隊と201部隊は任務を開始する。

「…悠」

「…なに?真那姉様」

任務が始まって少しして、真那は個人回線で悠に話しける。悠の声は弱々しく、今にも泣き出しそうな声であった。

「…沙霧大尉達は、この国の為に成すべきことを成す為に蹶起した。貴方の気持ちは痛いほど分かるわ。でも、それでも!」

「分かってる…わかってるよ姉様…。でも…でも辛いよ…」

悠は泣いていた。ポロポロと涙を流し、友を止められず、その道は外道なれど正しい道を歩んだ彼らに刃を向けねばならぬ無念が悠を苦しめていた。真那は悠に機体を降りて自分の機体に乗るように言い、悠は黙って従う。真那の武御雷のコックピットに悠が乗ると、真那は悠をコックピットに座らせその上に向かい合うように座り、優しく抱きしめる。ほんの短い時間だったが、悠が心を落ち着かせるには十分な時間だった。心が落ち着いた悠は建御名方のコックピットに戻り、両頬を叩くと心を切替える。それから1時間後、武が悠陽殿下と侍従長に遭遇する。

 

「…殿下」

「あぁ…悠、悠!」

悠陽は武の吹雪に乗る前に、悠に会いたいといい建御名方の前に来ていた。悠は急いで降り悠陽の前に馳せ参じる。悠が目の前に来ると悠陽は躊躇いもなく悠を抱きしめる。

「…悠陽姉様、皆が見ております」

「構いません、それよりも私は貴方が心配で心配で…」

「…姉様、蹶起した若者達は、この国の現状を憂い、誤った道を進みつつある帝国を正道に戻さんが為、やむにやまれず起たねばならなかったのです。どうか、彼の者たちの処遇くれぐれも…」

「分かっています、悠。そんなに泣きそうな顔をするのではありません。私も貴方の姉であるのですよ?姉のことを信じなさい。」

「…はい!」

悠陽と悠が離れると悠は武を見る。鎧衣課長の提案で悠陽は武の吹雪に登場することになっていた。

「鎧衣課長の提案だ、殿下を貴様に預けなければならんのは思うところがあるが…」

「殿下を頼むぞ。」

「はいっ!」

悠は武の肩に手をおいてその場を去る。武はその背中に声を張って返事をした。

 

『―――10分ほど前、帝国厚木基地からの通信が途絶。続いて小田原西インターチェンジ跡の前線司令部(HQ)も沈黙した』

現在白銀は殿下と共に吹雪に乗り、全機が神宮司教官から現状を聞いている。

『すでに明神ヶ岳山中では帝国軍隊が敵と交戦中だ』

 

『では作戦説明に入る。敵主力は現在、東名高速自動車道跡(E1)と小田原厚木道路跡(E2)の二手に分かれ進撃中だ。我々は熱海新道跡から伊豆スカイライン跡に入り、白浜海岸を目指し南下する。

おそらくE1は我々の西進を阻むため芦ノ湖スカイライン跡から旧三島市に抜け併走してくるだろう。E2は国道135号線を南下、そのまま海岸に向かいその確保を図る可能性が高い。それと同時に我々の転進を阻む為の部隊(E3)がE2から分離し後方から追撃してくることが予想される』

これが本当になれば左右、後方の三方向をふさがれる形になる。

『我々はさらに南下を続けるが…この段階で想定通りE3が存在する場合、途中合流する米軍第108戦術機甲大隊が陽動を兼ねて各個撃破する』

 補足で説明すると小隊が戦術機4機。中隊が12機。大隊は36機だ。その上、連隊は108機。

つまり36機の戦術機が陽動兼各個撃破を行うということ。

『―――これによりE1は旧三島市から旧中伊豆町に抜けE2と連携、我々を包囲・挟撃しようとするはずだ。敵にとって最重要ポイントとなるのは冷川料金所跡だ』

 網膜投影されている地図の一箇所が示される。

『敵が我々の頭を押さえられるのはこのポイント以外ない。

ここを抜けてさえしまえばこの作戦は成功したも同然だ』

 しかし逆を言えば先にここを突破できなければ確実に包囲されるということだ。将軍殿下が居る限り、へたに攻撃を仕掛けてくることは無いだろうがそれでも危険に変わりは無い。

『進撃隊形は06(白銀)を中心に楔弐型アローヘッド・ツーだ。さらに斯衛第201特殊任務戦闘警護部隊が鎚壱型隊形ハンマーヘッド・ワンで後方を固めてくれる。我々はそのまま旧下田市に抜け白浜海岸から海道にて横浜基地へ帰還する。―白銀』

「はい」

『本作戦の最優先目標は煌武院悠陽殿下を無事に横浜基地にお連れすることだ。貴様はどんな犠牲を払ってでも必ずそれを成し遂げろ・・・いいな!』

「了解!」

『207戦術機甲小隊・・・全機発進!』

 

悠は天照部隊に部隊通信を入れる。

『いいか、我々の任務は殿下を御守りすること。だが、追っ手は同胞である。万が一、帝国軍部隊が突破され追いつかれた場合、私が単機で足止めを行なう。お前たちは何がなんでも06を護衛しろ。』

『今回の作戦での私からの厳命は3つ。1つ、何がなんでも死ぬな。2つ、なんとしてでも殿下を守れ。3つ、同胞を手にかけるな。』

『以上3つだ。』

『…隊長、また無茶を言ってくださいますね…』

神代が苦笑混じりに答える。

『なんだ神代、できぬのか?』

真那は明るめの余裕たっぷりの声で神代に問う。

『まさか!私も天照の一員、やれますよ。ね、巴、戎!』

『当然!隊長がやれと仰るならやるまでよ!』

『他の衛士なら簡単じゃないけど私達なら簡単簡単!』

真那も神代も巴も戎も、表情と声色は明るい。それは悠への信頼であり、慢心や奢りではなく心の余裕があった。

 

『当たらないッ!同じ機体なのに!』

『どぉ言うことだァァ!!』

2機の不知火が信号消失。そしてそれを成したのは烈士の文字が腰部装甲に書かれた不知火、帝都守備連隊仕様。

『帝都の護りを預かる我等精鋭、見くびるな!!』

それに乗るは華原弥里であった。彼女もまた、帝都防衛戦から生き残り戦い続けてきた歴戦の衛士である。

 

『帝国軍が突破されたよ!』

鎧衣美琴が悲鳴のような報告をあげる。

『狼狽えるな!後方は斯衛が、悠が固めている!』

冥夜が声を張り恐怖をうち消そうとする。悠の強さは、207の全員が知っていた。訓練の度に蹂躙されるのだ、いやでも身に染みている。だがそんな悠が背中を守ってくれるのは、どんな増援よりも心強かった。

『そうだぞ貴様ら、緊張しすぎるな。貴様らの背中は私たちが守っているのだ、余計なことを考えないで殿下を無事にお連れすることだけを考えろ。いいな?』

『はい!!』

悠の通信に207の全員が答える。

だが、天照が斯衛の最精鋭なら今追撃している守備連隊は防衛軍の最精鋭。確実に距離を詰められる。

『国連軍及び斯衛部隊の指揮官に告ぐ!我らに攻撃の意図あらず。繰り返す、我らに攻撃の意図あらず。直ちに停止されたし!貴官らの行為は我が日本国主権の重大なる侵害である!』

華原の無線が入る。それに悠が答えた。

『こちらは斯衛軍201特務警護部隊の山城悠少佐だ。久しいな、華原少尉』

『なっ…山城少佐?!山城悠少佐であらせられますか!!』

『あぁ、私だ。』

悠の声に追撃していた蹶起部隊の動きが止まり、悠の建御名方と蹶起部隊の不知火10機が向かい合って立つ。

『…ご無沙汰しております、少佐。…どうか、殿下を引き渡してはくださいませんか?』

『…できぬ。』

『それは斯衛が国連と米国に組みすると仰るのか!』

『違う!断じて違う。我らが役目は殿下を御守りすること。殿下は横浜に1度向かわれる事を望まれた。なら我らはそれに従うのみ。』

『そんな…!』

『引け華原!殿下は貴様らがこれ以上同胞の血を浴び、血を流す事をお望みで在られない!』

『…それはできません。』

『…わからず屋共め!』

悠の声色が悔しさで滲む。悠の前に立つ衛士達は口々に自分の覚悟や思いを悠に言う。

『我らは烈士!国を憂い起った時から既に命は無いものと心得ています!』

『少佐!私は貴方に命を救われました!貴方が佐渡に助けに来てくれたからこの命があります!』

『少佐や天照部隊の方々に刃を向けたくありません!』

『山城様、貴方も国を憂う気持ちは同じではないのですか?!』

『貴方なら我々の心を理解してくれると思ったのに!』

『…お前たちの気持ちは、良く分かる…。』

悠は涙を堪えながら答える。悠の声に、対峙する烈士達は息を飲む。

『私は、お前たちの気持ちが痛いほど分かる。国を憂う思いは同じだ。だが、それでも!』

『お前たちに殿下をお渡しすることはできん!』

悠ははっきりと言い切った。そしてその時、レーダーに反応が8。米軍のF-15E。悠の前に立ち烈士達と対峙する。

『待て!彼等に銃口を向けるな!』

悠は英語で米軍機に言うが、彼等は銃口を下げない。悠の反応から止めようとしているのを烈士たちは見抜いたが故に、烈士達は銃口を米軍に向けはしないが日本語で警告する。

『アメリカ軍機に告げる。即刻戦闘行為を停止せよ、繰り返す、戦闘行為を停止せよ。』

「所属不明機に告げる、即時自動翻訳を有効にせよ」

『Tell the Unknown Machine to enable instant translation』

「または国連軍事規約に従い国際公用語である英語にて通信せよ」

『Or, in accordance with the United Nations Military Convention, communicate in English, which is the international official language.』

『諸君の行動は重大な内政干渉である。即刻行動を中止せよ。』

アメリカ軍機

「繰り返す、英語にて通信せよ」

アメリカ軍機

「何を言っているのか分からない」

『I repeat, communicate in English. I don't understand what you're saying.』

「アメリカ軍に告ぐ、英語などクソ喰らえ。繰り返す、英語などクソ喰らえ」

アメリカ軍機

「what?」

『しっぽをまいて逃げ帰った貴様らが、今更日本に何の用だ!!』

銃口を下げず戦闘の意思ありとみなした烈士のうちの一機はスラスターを吹かし長刀に手をかける。米軍は応戦、先に発砲したのはF-15Eだった。

『F-15E8機!手強いぞ!フォーメーションビーフリー!包囲殲滅!』

アメリカ軍の強硬な姿勢が、戦闘を始めさせてしまった。

『アメリカの馬鹿共が…!!』

悠は戦闘を止めようとするが始まったこの戦闘は最早止めることは叶わない。悠は機体を反転させ先を進む207と天照部隊に合流するため加速する。

 

 

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