マブラブオルタネイティヴ 日出ずる処の鬼神   作:ユウ・ベルフ

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止まらない戦闘

『冷川における殿下の御奉迎ならず、繰り返す。殿下の御奉迎ならず!』

蹶起部隊、沙霧尚哉とその不知火がの乗る輸送車両の無線から通信が入る。同乗する兵が無線を取り応答する。尚哉は目を瞑り席に座っていた。

「箱根に増援を送ったはず、どうなってる!」

『小田原西インターで、国連軍部隊と接触。第一陣、全滅…。』

「全滅だと…?!」

「大尉、ここは私が出ます。」

駒木咲代子は髪をひとつに纏めながら尚哉の前に立つ。

「大尉は厚木にお急ぎください。殿下を、よろしく頼みます。」

尚哉の目を見る駒木の目には、何者にも劣らぬ覚悟が宿っていた。

 

時間は進み、伊隅隊は追っ手の第一陣を全滅させていた。

『新型OSの実験テストが、まさか人間相手なんて…』

『築地少尉、今は任務に集中なさい。彼らはここを突破できない限り任務を達成できない。次は本腰をいれてくるはず。』

『ですが、命までは奪わなくても!』

『そんな甘い相手じゃない!』

風間少尉が諭すように答えるが築地は優しさを捨てきれずに答えると速瀬少尉が割って入る。

『圧倒的な差を見せつけることが、犠牲を最小限にする唯一の方法なんだ。』

それでも築地少尉の顔は晴れない。そんな状況下、伊隅大尉が声をあげる。

『全員聞け!我々ヴァルキュリーズは、人類を保護する剣の鋒。如何なる任務であれ、それを遂行するのみ。その妨げになるのなら、BETAであれ人であれ排除するのみ!』

言い終わると同時に警報がなる。駒木が率いる第2陣、第一陣よりも精鋭の彼らが来てしまった。

『ここを確保すれば南に増援を送り込める。一気に突破するぞ!全機、突撃!』

『了解!!』

戦乙女達と憂国の烈士が、互いの意志をぶつけ合い火花が散る。

 

時を同じくして厚木には、戦術機2機を搭載できる輸送機が12機エプロンに並び、既に全機に不知火が搭載されていた。そしてその衛士たちが、上官である尚哉を待ち整列していた。

「行けるか?」

尚哉は輸送機隊の隊長に問う。

『当然ですよ、ここに居る連中は皆腹括ってあんたについてきてるんだ。漸く国のお役に立てるってもんです。』

「そうか、では頼むぞ。」

『はっ!』

そう言うと尚哉は衛士達に盃を配り酒を注がせた。…そう、特攻前の水盃である。

「皆も知っての通り、冷川が突破された。今や国連軍とアメリカ軍の手によって、殿下が連れ去られようとしている。」

「残された時間は僅かだが、我らの殿下を他国に委ねることは、自身で築くべきこの国の未来を、魂を、譲り渡す事に等しい!」

「我らは取り戻す!この国に、殿下という魂を取り戻しに征くのだ!」

そういうと尚哉は盃の酒を飲み干し盃を地面に叩きつけて割る。それに続き他の衛士達も酒を飲み干し盃を叩きつけて割り、輸送機に乗り込む。烈士達の最後の出撃である。

 

殿下の危機

補給ポイントで補給を済ませ、アメリカ軍第66戦術機甲大隊のウォーケン少佐が率いるF22Aラプター部隊と合流し、冷川料金所跡を越えてすぐ。

 

『重度の加速度病だと?!』

『嘔吐はありませんが、すぐに休息が必要と考えます。』

思いもしない報告を武が全体に伝える。真那が声を発してすぐ

「白銀貴様ッ!なぜもっと早くに言わなかった!!」

悠は無線越しに白銀を怒鳴りつける。加速度病には段階があり、早めに対処ができれば命に危険は及ばない。

『落ち着け、悠。』

「ッ…、すまん。」

悠にいつものような冷静さはなかった。蹶起部隊を止めに行きたい葛藤、自分は何も守れない虚しさ、そして悠陽の危機。悠の心はいつになく追い詰められていた。

それを宥めるように真那は声をかける。そんな2人に、まりもは無線をいれる。

『山城少佐、月詠大尉、侍従長から聞いたのですが。殿下はこの騒乱が始まってから、一睡もされていないそうです。』

『…なるほど。その状態での戦術機軌道、お倒れになるのも無理はない。』

「…ここまで来れば、追撃は物理的に間に合わん。戦術機での移動を控え、殿下の御回復を最優先とする。」

悠は今すぐ悠陽の傍に行きたい衝動を抑え、軍人に徹してウォーケン少佐に伝える。ウォーケン少佐は悠の言葉を聞き、眉間に皺を寄せる。

『白銀訓練兵、殿下にトリアゾラム、精神安定剤を投与しろ。180秒後に移動を再開する。』

 

場面は変わって伊隅隊と駒木隊は一進一退を繰り返す激しい戦闘を行っていた。伊隅隊の不知火は、XM3のお陰でこれまでの戦術機では考えられない軌道で精鋭たる帝都守備連隊の蹶起部隊を一機一機撃墜していく。

『なんだあの動きは!』

『戦術機にあんな軌道が?!』

精鋭達は驚愕の声をあげる。

 

『いける!この新型OSがあれば、帝国の精鋭とも渡り合える!』

伊隅隊の高原少尉が少し動きを止めた時だった。その一瞬の油断を駒木は見逃さなかった。

『はぁぁぁぁぁ!!』

駒木は一気に懐に入り込み、上段から長刀で高原少尉の不知火を一刀両断する。

『奴らの動きに惑わされるな、動きの予測のできない敵との戦闘こそ、我々の本領のはずだ。』

『駒木中尉!』

駒木の背後を守るため2機の精鋭が合流する。

『良くもあんたたち!うぉぉぉぉぉ!!』

速瀬少尉が激昂し左手に突撃銃、右手に長刀を持ち突貫する。だが経験の差はOSには埋められない。殺られるギリギリで、伊隅大尉が援護に回り、駒木をおさえる。

 

再び場所が変わる。まだ武は悠陽にトリアゾラムを投与していなかった。

『まもなく移動を開始する、どうした白銀訓練兵。これは重度加速度病に対する通常の措置だ。』

ウォーケン少佐の言葉に、以前座学で悠に教えられた事が頭によぎる。

{いいか、お前たち。睡眠導入効果の高いトリアゾラムは、重度加速度病における通常の処置だ。だがな、こいつは危険な副作用がたんまり含まれている。筋弛緩に呼吸困難、最悪心停止のリスクすらあるとんでもない代物だ。投与すべき状況か、よく考えて各自見極めろ。}

「待て、ウォーケン少佐。」

悠の無線に武は顔をあげる。

「殿下の状況を考えろ、投与はあまりにも危険すぎる!安静状態がすぐに確保できるならまだしも、これからも戦術機での移動が続く以上!」

『少佐、貴官はオブザーバーだ。貴様の意見なんぞ求めてはいない。殿下の容態を考えれば、一刻も早く戦場を離脱するのが最良の選択。お眠りいただく事で速度を上げ、移動時間を短縮出来れば、敵に発見されるリスクも少なくて済む。白銀訓練兵、早くしろ!』

「ならんぞッ!!」

「ウォーケン少佐、殿下の体調回復のため、休息時間を取るべきと具申する。」

『山城少佐、我々国連軍の任務は、反乱軍から将軍を護り脱出させることだ。』

「殿下は皇帝陛下から直々に、国事全般をお預かりしている将軍というお立場。殿下の大事は政府如きの要請に勝る!命令の再考を!」

『くどいぞ少佐!!』

「一介の少佐風情が、他国の首脳に危険な副作用のある薬物を投与する権限が与えられているとでも思うのか!!」

『…ウォーケン少佐、殿下に対する薬物過剰投与の情報が漏洩すれば、例えそれが最前の措置であっても、国民の対アメリカ感情が悪化することは明白です。そうした状況は、アメリカの負ったリスクと労力に釣り合わないと考えますが。』

まりももウォーケン少佐に諭すように言う。

『君たちがそうであるように、私も、私の部下たちも、祖国に忠誠を誓った軍人なのだ!』

『だが、これだけは言わせてもらうぞ!この人類滅亡の危機に、極東防衛の要所たる自覚もなく。無意味な内戦に突入し、貴重な戦力や時間を浪費している愚かな国。それが君たちの国、日本だ!!そんな幼稚でくだらない国家のために、私の部下が命を落とすことは、断じて我慢ならん!それは本来、人類の宿敵、BETAと戦うための命なのだぞ!』

『山城少佐の提案する10分以上の休息時間の合間に、敵味方、何人の命が失われると思う!』

ウォーケン少佐の言葉は、武の意見と同じだ。だが、ウォーケン少佐は分かっていない。日本の反米感情が高まり、アメリカへの憎悪で煮えたぎっている男が目の前で対峙しているということを。

「…ウォーケン少佐のご指摘はごもっとも…。」

悠は溢れ出る憎悪を抑えながら声を出す。

「貴国との戦争に敗れた我が国は、誇りと魂を失い政治は疲弊し、同盟国には裏切られ、国土の一部は焦土と化し、誠に情けなくも今や他国の干渉に翻弄される有様。」

「…されど、貴国の勇敢な将兵の命を危険に晒しているのは、極東での復権を企み蹶起を助長させたアメリカ政府だ!なれば先の物言い、まさに陰口が如き泣き言である!」

「その程度の覚悟と忠誠ならば遠慮は無用!また安保条約を一方的に破棄し、我が国の民の多くを見殺しにしたあの時のように、安全な北米大陸に帰れるがよい!!」

『言葉がすぎます!山城少佐!!』

まりもが悠とウォーケンのやり取りに割って入る。

『山城少佐、今回の作戦を主幹する、国連軍の名において進言いたします。貴官の発言には挑発的意図が散見され、今後の任務遂行に際して障害になる恐れがあります。』

「…なるほど、任務の障害たりうる我々斯衛を、我ら天照を国連が反乱軍と認定し排除する。そう言いたいのだな?」

 

再び場所は伊隅隊と駒木隊の戦闘に変わる。

『投降しろ、最早追撃は間に合わん!これ以上無駄な血を流させるな!』

『日本語…?まさか貴様日本人か!!この現状を見てもなお、殿下を連れ去ろうとするか売国奴め!!』

『我々は軍人としての責務を果たす。必要なのはそれだけだ!』

『そういう言葉を言い訳にして、皆が現実から目を背けた結果がこれだ!!己の利益や立場しか考えず、そのために他者を貶めるのなら、BETAと何が違うと言うのだ!!』

『繰り返す!武装を解除して部下たちを投降させろ。貴様たちの計画は既に破綻している。これ以上の問答は不毛だ!』

『第4小隊全滅!』

『こちら第2小隊、我行動不能。先に征きます。駒木中尉…』

 

再び場所は変わる。

『辞めたまえ、山城少佐!時間稼ぎならもう充分だろう。まったく、見事にのせられてしまったものだ。君の挑発が、全て演技だったとは思わんがな』

「…演技だと?本心ですよウォーケン少佐。じゃなきゃ貴方は私の言葉に耳を傾けすらしないでしょう?」

『…HAHAHA。』

 

再び場所はかわる。駒木の不知火の左足は切られ、勝敗は既に決していた。駒木の勝ちだ。

 

『ここまでだ。勝敗は決した、殿下は間もなく、国連軍の保護の元離脱される。既に追撃は不可能。貴様の目的は潰えた。この戦乱も、ここまでだ。』

 

『既に雪は降り出した。血に積もった雪は日に照らされ、冬の終わりを告げる雪解け水となる。夜明けは近い。我らは清流となって、この国の汚濁を洗い流す。日の指すところに雪が残ることはない。』

『上空を何かが通過します!』

『あれはまさか!』

厚木から離陸した輸送機隊が、超低空飛行で山の間を飛行し207小隊の上空で不知火を空挺降下させる。

『エアボーンだと?!馬鹿な、有り得ん!!海上の制空権は友軍が抑えているはず!…まさか、内陸を飛んできたとでも言うのか?!』

ウォーケン少佐の驚愕の声がひびく。悠は顔色ひとつ変えなかった、尚哉ならやる。そう思うと納得できるからである。尚哉の声が無線から聞こえる。

『私は、本土防衛軍、帝都守備第一戦術機甲連隊所属、沙霧尚哉大尉である。直ちに戦闘行動を中止せよ。我らの目的は戦闘ではない。故あって蹶起し、立場を異にする諸君らと退治しているが。我らは諸君らが無法にも連れ去ろうとしている殿下を、お迎えに上がったのだ。』

『些か一方的ではあるが、ただ今より60分間の休戦を申し入れる。これは、殿下のご尊名にかけて履行されるものである。我らからそれを破ることは決して無い。現実的で誠実的な対応を取られんことを切に願う。60分後、再び呼びかける。応答無き場合、我らは全ての手段を持って事態の集収を図る。そう心得られよ、以上。』

尚哉からの通信が切れる。

『どう考えても罠だ。』

『お言葉ですがウォーケン少佐、帝国軍人が将軍の名において発した言葉を翻すことは、有り得ません。』

『君も同じ意見か、山城少佐。』

「あぁ。殿下の置かれたこの状況、国と民を憂いやむにやまれずたったものたちです。まりも軍曹の言う通りかと。」

『君たちが何故そこまで敵を信用できるのかは分からんが、まぁいい。休戦に応じよう。207小隊は歩兵の襲撃に備え警戒に当たれ。』

 

悠は機体を降りると真っ先に悠陽の元に駆け寄り、武と変わる。

「武、ご苦労だった。」

そういうと悠は207小隊分のチョコバーを武に渡す。

「食べておけ、腹が減っては戦ができぬ。他の小隊メンバーにも渡してこい。食えないと言うやつは口に突っ込め、…いや冗談だ、とにかく何か腹に入れさせろ。いいな?」

「了解です、少佐!」

武がいなくなるのを見届けると悠は悠陽をお姫様抱っこし、真那たちが安全を確保した場所まで連れていく。

「悠、下ろしなさい。ここまでしなくても自分で歩けます。」

「嫌です。」

「悠…」

「…嫌です。」

「…ふふ、わかりました。なら命じます。連れていきなさい。」

「はっ。」

悠は悠陽を真那達のところに連れていくと、既に簡易のマットレスが敷いてあった。悠はそこに悠陽を寝かせると自身のコートを被せ暖を取れるようにする。

「悠、ここまでしなくても…」

「真那姉様、枕になるものはありませんか?」

「ある。悠陽姉様、少しお待ちを」

「真那まで…、神代少尉、2人を止めてくださいませんか?」

「殿下…、恐れながら、悠少佐も真那大尉も、事件発生から常に殿下の事を心配しておいででして…どうか、お許しください。」

「…分かりました、ありがとうございます。」

「はっ!」

少しして枕まで持ってきた真那は悠陽に枕を渡し、休めるようにしていた。悠は少し散歩をするため真那に悠陽を任せ、すこしあるく。悠がふと立ち止まると木の影にはしゃがんで丸くなっている珠瀬壬姫がいた。悠はそっと近づき声をかける。

「珠瀬、どうした?」

「ひゃぁぁ!!」

「そう驚くな」

悠は柔らかい笑みを浮かべ珠瀬の頭をなでる。

「…猫じゃないです…」

「ん?すまんすまん。…で、こんな所で何をしていた?」

「…アメリカ軍の人達の中に難民の人がいて、その人たちは祖国の為に戦っているのに、私のお父さんが…お父さんが巻き込んで…!」

「それは違う。」

悠は月を見上げながら確固たる意志を言葉にのせる。

「国政に深く関わり、共にこの国を支えてきた山城家当主として、珠瀬国連事務次官は己の責務を全うしている。」

「アメリカの傀儡と成り下がった国連に、物申せる人物を、私は1人しか知らん。それはお前の父だ。あの人は、あの人なりに国を愛し、民を愛し、国と国民のために国際社会で尽力くださっている。」

「今回の件は、珠瀬事務次官が悪いのではない。国連と、アメリカ政府が強硬過ぎるのが悪いのだ。」

「少佐…」

「いいか珠瀬。お前の父は立派な男だ。そんな父親を、蔑んではいけないよ。」

「…はい!!」

悠はもう一度珠瀬の頭を撫でると悠陽のそばにもどる。

それから少しして、悠陽は白銀を呼ぶように言った。悠は戎に頼み、戎は白銀を連れてきた。悠は真那達を伴い、周辺警戒にあたる。武が、殿下に本音を話せるようにとの悠なりの配慮であった。

 

「そなたの卓越した戦術機の操縦技能…ほかの国連軍や米軍の将兵…、ここで使われている物資も然り。これらは本来BETA相手に用いられるべきもの…それがこのような形で失われることは残念だと思いませんか?」

「…」

「そなたは何故、トリアゾラムの投与を躊躇ったのですか?」

「白銀、そなたはいつか人の上に立つこともあるでしょう。それは多くの決断を下さねばならないということです。全ての者達の望みを満たす道が常にそなたの前にあるとは限りません。何を決断し、どのような道を指し示すのか、もし迷ったなら立ち止まり、原点を顧みる勇気を持つのです。そして、自らの手を汚すことを厭うてはなりません。指し示すものは責務の重さから目を背けてはならないのです。私の話はそれだけです。休息中に大義でした、下がるがよい。…白銀、何か申したいことでも?」

白銀は一瞬下を向くがすぐに顔を上げ、真っ直ぐな瞳で悠陽をみる。

「俺は、愛国心というものが足りないようで…。沙霧大尉たちがなぜ蹶起したのか、それは分かるつもりです。ですが、それよりも大切なことが。人類全ての戦力は、BETAを倒すために使うべきだと。日本の将来を考えるのはその後…。ですが、人類が一丸となって、BETAと戦おうとしているとは思えない。」

「なぜそなたには愛国心が足りないと?」

「俺の部隊は全員、立場が普通じゃありません。部隊の誰もがこの国に間接的にとても深く関わっています。珠瀬国連事務次官の娘や、鎧衣課長の娘、綾峰元帝国陸軍中将の娘、今日暗殺された榊首相の娘もいます。彼女達と接していると、日本への思いの強さを感じます。」

悠陽は驚いた顔をする。(まさか、これほど…)

悠陽は断固とした表情と声で武に命ずる。

「白銀、皆をここに集めてください。」

 

それから少しして、悠陽の前にはアメリカ軍のウォーケン少佐とその部下が2名。そして第207戦術機甲小隊のメンバーが悠陽より低い段に整列していた。悠は悠陽の右隣りに立ち、軍刀を腰に携えている。真那は悠陽の左隣に立っている。悠陽は座ったまま、優雅に声を発する。

「ウォーケン少佐、此度の我が国に対するアメリカ軍の尽力、日本国将軍として心よりの謝意を表します。」

そういうと悠陽は深々と頭を下げる。一介の現場指揮官風情に、一国の首脳が頭を下げることなど、本来あるはずがない。だが、悠陽はそれを成したのだ。ウォーケン少佐とその部下達だけでなく、訓練兵のもの達まで驚愕の表情を隠せず、姿勢を正したウォーケン少佐が口を開く。

「恐れながら殿下、そのお言葉を賜っただけでも十分です!」

ウォーケン少佐は額に脂汗をかきながら答える。それもそうであろう、彼が長い軍歴でもそのような経験をしたことはないのだから。

悠陽はウォーケン少佐の目をみて頷くと、まりもの方に顔を向ける。

「神宮司軍曹、そなたの部下と話をしてもよろしいでしょうか?」

「はっ、ご随意に」

悠陽はまりもに優しく微笑むと、榊千鶴に声をかける。

「榊是親殿のご息女ですね?」

「はっ!」

千鶴は姿勢を正し、悠陽の目を見る。

「是親殿は、私の忠臣でした。此度の御逝去、憾悔の念に堪えません。」

悠陽の言葉に、千鶴は涙をうかべる。父の事を偲んでくれた、それだけで涙が溢れそうであった。

「どうか、今暫くの間耐えてください。」

「…はい!」

悠陽は次に珠瀬に目を向ける

「珠瀬玄丞斎殿のご息女ですね?」

「にゃぁぁっ」

珠瀬は緊張のあまり猫のような返事をする。

「そなたのお父上の弛まぬ努力によって、日本にもたらされる公益は、決して小さくはありません。お父上と同じく、国際社会に奉仕する道を選んだそなたは立派です。」

「はっはい!」

「鎧衣左近殿のご息女ですね?」

「はい!」

「そなたのお父上の会社は城内省の指定業者だそうで…帝都城でも幾度となくお目にかかっています。」

「えぇ?!」

「斯様な事態を招き、そなたとそなたの父上をますます遠ざけてしまいました。心痛の至りではありますが、今暫く耐えてください」

「はい!」

「そなたは?」

「綾峰慧訓練兵です。」

「そなたが…。私は、これまで総司令官としての教育を幾人かの将兵に指示してきましたが、いずれの師も、今のこの状況を嘆かわしく思っているに違いありません。」

「人は、国の為に成すべきことを成すべきである。そして国は、人の為に成すべきことを成すべきである。とある師の教えですがこの言葉は常に私の心にあります。今、この時ほど重く感じることはありません。されど私も、愚帝のそしりに甘んじるつもりはありませんゆえ、今暫く耐えてくださいませんか?」

「…はい。」

「白銀訓練兵、そなたには改めて感謝を。そなたが何がしかの答えを得る手がかりになれば良いのですが。」

そういうと悠陽は全体を見るように顔をあげる。

「さて。長きに渡るBETAとの戦いにより、我が国の国民の心は疲弊しつつあります。されど、今の私では、国民の心を癒すことすら叶いません。我が身の未熟さを痛感しております。それでも、民を守りたい。魂を、国を守りたいのです。」

(そうか、国ってのは政府とかじゃなく…)白銀は心の中でひとつの答えを得たような感覚だった。

 

「蹶起に走った者たちは、その想いが強すぎたのでしょう。確かに、彼の者たちは同胞を殺めるという重い罪を犯しました。その罪は法によって裁かれ、相応の罰を受けることになりましょう。されど、どうか彼の者たちの息だけは猶予していただきたい。その責めを負うべきはこの私なのです。まして私如きの為に、人類の護り手たるものたちが鬼籍に入るなど、断じてまかりなりません。私自ら彼らを説得して参ります。」

そういうと悠陽は立ち上がる。

「山城、建御名方を持て!」

悠が答えようとした時、ウォーケン少佐が口を開く。

「畏れながら殿下、その提案には賛同いたしかねます。無礼を承知で言わせていただきますが、とても正気の沙汰とは思えません。」

「ウォーケン少佐ッ!殿下に向かってその言い様はなにかッ!無礼にも程があるぞ!!」

右隣に控えていた悠は、殺気立ちウォーケン少佐を睨む。悠は今すぐにでも斬りかからんとする気迫だった。だが、悠陽は右手で悠を制し、優しく微笑み、ウォーケン少佐に向き直る。

「旧下田までもう少し。殿下、何卒…」

ウォーケン少佐は食い下がる。その時であった。冥夜の凛とした声が夜空に響く。

「お待ちください!」

「そなたは…」

「御剣冥夜訓練兵であります。恐れながら殿下、無礼を承知で申し上げます。蹶起した者達を説得する大任…この私めに拝命賜りたいと存じます!」

冥夜は膝をつき頭を垂れた状態でつづける。顔は決して上げすに。

「私は常日頃より殿下の生き写しとの盛名を馳せております。何卒。」

「ですがそれは、私が果たさねばならぬ責務。」

「殿下、御身の責務とはそのようなことではございますまい。今殿下に大事あらば、遠からず帝国は滅びましょう。此度の騒乱の責務が御身にあると申されるならば、枢要なのは彼の者達を御自ら誅することではございますまい。何卒、何卒御裁可いただきますよう…」

少しの沈黙。悠陽はじっと冥夜の姿を見つめる。そして

「…分かりました、そなたに任せます。」

「ウォーケン少佐、訓練兵を替え玉に使うことで、方位突破の成功率を引き上げることが可能だと考えます。蹶起部隊の説得に成功するならそれで良し。失敗しても、注意を引き付けている間に、殿下の脱出をより容易にできます。また、拘束されたとしても、替え玉に気付く頃には殿下は横浜基地に到着しています。」

真那がウォーケン少佐に言う。それは事実上、冥夜に何かあっても構わないということ。悠ではなく真那が言ったのは、悠を思ってのことだった。悠は悠陽と冥夜、どちらにも忠を尽くしている山城家の出。どちらかを見捨てるなど、悠にはその身が裂けても考えたくないことだ。

「そのプランは、殿下のお望みとはかけ離れているが…。斯衛は構わないと?」

「いかなる作戦でも、全隊無事に帰還できる確率は大差なく。説得が成功しても、蹶起したものはいずれ処刑されます。殿下も十分考慮された上でご決断なされたと。」

「殿下…そこまで。」

ウォーケン少佐は、殿下の思慮深さに驚きと尊敬の念を禁じえなかった。その時だった。

「少佐!発言を許可してくださいッ!!」

武が前に出て声を上げる。

「訓練兵が次から次へと…なんだ、言ってみろ。」

「はっ!ご許可いただきありがとう御座いますッ!私も志願いたします。」

「何故だ?」

「はっ、これまでどおり、私の機に替え玉を同情させるべきです。私の機は、将軍登場機としてマークされている可能性が高く、説得の真実味を付加することができます。お願いします、少佐!」

「貴様は私の命令に躊躇った。指揮官なら、そんな者を信じれると思うか?」

「いいえ。」

「ではなぜ?」

「私は、人間同士のこの騒乱をくだらないと蔑んでいました。この作戦で色々な立場、考えに触れ、自分がどうしたらいいか分からなくなってしまったんです。ですが、分かったことがあります。それは、自分が日本人だと。それを軸に目標達成の方法を考え決断し、出た結果には責任を持つ。自分はそのうえで志願しました。」

「貴様の目標とはなんだ。」

「人類の勝利です!」

「…貴様の考えはよく分かった。だが、貴様単機で向かうのは不自然だ。」

「斯衛の直掩は真実味の上でも必要…だな?ウォーケン少佐。」

悠はニヤリと笑ってウォーケンを見る。

「うむ。貴様たちのプランを採用する!解散ッ!」

真那は武に近ずき

「冥夜様を、頼む。」

そう言ってその場を離れた。悠は冥夜と悠陽の着替えの為の簡易天幕を作り、神代と巴に2人の着替えを手伝うように指示した。ふたりが着替え終わった後、悠陽の格好をした冥夜は武の吹雪に。冥夜の格好をした悠陽は悠の指示により神代の武御雷に搭乗した。そして…、白銀、冥夜ののる吹雪と、悠が乗る建御名方が立ち、悠が呼びかける。

「沙霧尚哉大尉に継ぐ。私は、帝国斯衛軍の山城少佐である。対話の意思があるのなら、応答せよ。」

 

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