マブラブオルタネイティヴ 日出ずる処の鬼神 作:ユウ・ベルフ
対峙
「沙霧尚哉大尉に告ぐ。私は、帝国斯衛軍の山城少佐である。対話の意思があるのなら、応答せよ。」
「こちらは本土防衛軍、沙霧尚哉大尉である。熟慮の結果、聞かせていただこう。」
「殿下は直々に会って話すことを望まれている。」
「…それは事実か?」
「疑うも信ずるも貴官次第。されど、山城家の名において事実だと誓おう。」
悠がそういうと、土煙が立ちこめる。土煙が収まると、そこには2機の烈士と書かれた、蹶起部隊仕様の不知火が立っていた。そして尚哉がコックピットを開け、不知火の手に乗り頭を垂れる。
「拝謁の栄誉を賜り、恐悦至極にございます。私は帝国本土防衛軍 帝都防衛第一師団 第一戦術機甲連隊所属、沙霧尚哉大尉であります。」
尚哉が名乗りをあげると、吹雪から悠陽殿下(冥夜)が出てくる。
「…面を上げるがよい。此度…このような形でそなたと顔を合わさねばならぬこと、真に遺憾です。」
「多大なる心労をおかけ致しました事、塗炭の苦しみにございます。されど、帝国に巣喰った逆賊共を討ち、全ての膿を出し切るまで今暫くの間、ご容赦を賜りたく存じます。」
「私は、そなた達を斯様な立場に追い込んでしまった自らの不甲斐無さが口惜しいのです」
「殿下…」
「政府は国や民のことを想い、力を尽くしてきたに違いありません。齟齬や対立を御しきれぬ我が不徳こそ責められるべきなのです。」
「畏れながら殿下!将軍のご尊名において行われるべき政に齟齬が生じたならば、正すのは殿下ではなく政府や軍でありましょう。しかし、彼らにそのような自浄作用はなく、殿下が御心を痛めるよしは微塵もございません。」
「そなたの申すことは分かります。されど、今の帝国の有様。将軍である私の責任は変わるところではない。そなた達が私のために血を流す必要は無いのです。」
「畏れながら、殿下の御心に触れ、心洗われる思いにございます。しかしながら、米軍および国連軍の介入は重大な内政干渉であり、国家主権を脅かす蛮行であることは、決して変わることはありません。事ここに至り、ようやく賜りました機会、招いた不面目を棚上げにしてでもお伝えしたいことがございます。」
「申すが良い。」
「此度の件は米国の思惑を成就せんがための謀にございます…!帝都での戦闘は帝都城警備の斯衛部隊に対し我が同志部隊が先制攻撃を仕掛けたことが発端とされています。しかしながら、発砲した兵を精査致しましたところ、アメリカ諜報機関の工作員だと言うことが判明しました。極東での復権を望むアメリカが、殿下を保護。騒動を平定する。これがアメリカの描いた筋書きです!そしてまた、アメリカ軍を容易く引き入れ、戦闘停止命令を握りつぶした仙台臨時政府の者共こそが、帝都を戦火にさらした張本人なのです!さりとて、それを許した私の罪、拭えぬものでは…」
尚哉は頭をあげた。そこには、大粒の涙を流しこちらを見る悠陽(冥夜)の姿があった。尚哉はその姿に息を飲む。
「そこまで国を…民を…この煌武院悠陽を思うのならば…。何故そなたは人を斬ったのですか!!」
「血は血を呼び、争いは争いを呼びます。そのような仕儀をもたらしたそなたたちの行い…それは私や民の心を汲んだものであると本当に言えるのでありましょうか?将軍の意思を民に正しく伝えることがそなたたちの本意であったとしても、それが伝わらぬもの…それを阻むのもを排除することが許される道理がありましょうか?それを許すのであれば…天元山の人々を力ずくで排除した政府を非難する資格…、そなたに民の意思を語る資格があろうはずが無い!」
「国とは…日本という国は民の心にあるもの。そして将軍とは民の心にある日本を映す鏡のようなもの。日本を守るというのは即ち民を守るということ。民のない国などありはしないのです。そなたがそれを一番わかっていながら…そなたは道を誤ったのです。されど未だそなたたちに残された正道があります。一刻も早くこの争いを終わらせ民を不安から解放せねばなりません。そしてそなたの志に賛同する者達を一人でも多く救えるのは…ほかでもないそなただけなのです。」
「日本の行く末を憂うそなたの想い…そなたの志はこの私がしかと受け取りました。これより後は常に此度の件を戒めとし、民のため国のため日本の為に尽瘁する所存です。煌武院悠陽の名にかけて…そなたに誓います。」
悠陽(冥夜)は言い切った。そして、それを聞いていた冥夜(悠陽)は深く頷いた。
「殿下…、我が同志の処遇。くれぐれもよろしくお頼みします。」
ようやく終わる。この血で血を洗う、とても悲しい戦いが。誰もがそう思った時だった。爆発音。
『ハンター2!何をしている!!』
ウォーケン少佐の怒号。撃ったのだ、アメリカ軍が。弾は吹雪と不知火の真ん中に着弾、尚哉はすぐに機体に乗り込み、冥夜もまた、武の乗る吹雪のコックピットに戻る。
戦乱、継続
「白銀さっさと下がれ!くそっ、アメリカ軍の馬鹿共がっ!!天照全機、03(神代)を除いて全機抜刀!彼らは最早止められん!」
悠は矢継ぎ早に指示を出しつつ発砲したラプターを簡単に制圧する。
「貴様、何のつもりだ!」
ラプターのパイロットは答えない。悠はこのパイロットの真意を図りかねていた。悠が真意をはかれないのもそのはず。このパイロットは暗示により工作員に仕立てあげられてしまったのだから。悠は彼女の機体の四肢を切断した後、コックピットをこじ開けようとした。爆発音。目の前で機体が爆発した。自爆、いや、処理されたのだ。
「なっ…!何処までもふざけた真似を!!」
『悠!一体どういうことだ!!』「俺が聞きたいくらいだっ!!真意を問いただそうとしたら自爆しやがった!!」
『なんだと?!』
尚哉の不知火が悠の建御名方に斬り掛かる。烈士達はまだアメリカ軍と天照に襲いかかっていない。悠は布都御魂で受けながし距離を置く。
「戦闘を辞めさせろ!!尚哉!!」
『それは最早敵わん…。征くぞ同士諸君!我々の手で、殿下を反逆者どもの手から御救いするのだ!!』
尚哉の号令を皮切りに最精鋭たる彼らが一気呵成に攻撃する。米軍機に、207小隊に、そして天照に。数は五分五分、経験は完全に蹶起部隊が上。されど、207小隊には新型OSがあり、米軍は対人、対戦術機用の新型、F-22ラプター。そして天照は数多の戦場を駆け抜けてきた鬼神達。勝敗を決めるのは機体性能の差ではない。建御名方で得られた開発のノウハウとF-4、F-15のライセンス生産で得られたノウハウをフルで活かした結果、最初の3世代目機に関わらず、最新鋭の3世代目戦術機ラプターと互角の戦いを繰り広げるのだ。烈士達の不知火はアメリカ軍のラプターには全力で襲いかかり、確実に撃破していく。だが、天照に襲いかかる不知火の動きにはどこか迷いがある。悠が速度を少し緩めた時、1機の不知火が長刀を構え突っ込んでくる。
『山城少佐ッ!刃を向けることお許しくださいッ!!』
聞いたことのある声だ。
「貴様、鹿児島方面隊の時に一緒だった芳田華准尉か!!」
悠は布都御魂で受け流すと対峙する。
『なっ…私のことを覚えて…?』
「当然だ!あの地獄を共にした者たちの事、忘れてなどなるものか!!」
悠はそういうと一気に距離を詰め華の不知火の四肢を切る。
「いいか、死ぬなッ!」
悠はそう言い残すと次の不知火を相手取る。
『山城少佐、覚悟ぉぉぉ!!!』
若い男の衛士が突っ込んでくる。悠は軽く機体を捻って避けると、そのまま両足を切断、うつ伏せに倒れ込むようにする。
「死ぬのはならんぞ!」
そういうと次、また次の不知火を戦闘不能に追い込んでいく。米軍機は不知火を撃墜するが、悠は戦闘不能に追いこむだけですませる。それは同胞を撃つ武器を持たぬ、と示しているようであった。
地獄
国内で人類の護り手達が、血で血を洗うこの戦場は正しくこの世の地獄と言えた。次々と死んでゆく蹶起部隊、米軍部隊の衛士。傷ついていく仲間。かつてこの地は悠と尚哉が、明星作戦の第一段階でBETAから取り戻した天城山であった。死闘は続く。どちらかが殲滅されるまで、どちらかが行動不能になるまで、どちらかが命を散らすまで。悠が烈士達を戦闘不能に追い込んでいく中、ウォーケン少佐は自分の部隊の中にいた工作員を捉えようとしていた。だが、工作員はラプターの機体権限が一部解除されており、ウォーケン少佐の機体の介入を受け付けなかった。そして、その工作員が逃げようとした時。尚哉は工作員の乗ったラプターを上から襲い、コックピットに長刀を串刺しにした。
それを見たウォーケン少佐は白銀にそのまま逃げるように命令し、立ち塞がるように機体を立たせる。
『…傲慢なるアメリカ人よ。これ以上邪魔をするな。民を見捨て、G弾で無断に国土を殺し、今尚土足で我々の国を踏み荒らすか!』
尚哉とウォーケン少佐は対面し、言葉を交わす。2人の軍人は、その考えは違えど、互いに真に国に仕えてきた軍人である。
『生かしておけば罪を償わせることも出来た!殺さなければ終われなかったとでも言うのか!?無法を以ってことを成すのでは永遠に流血は止められん!!』
2機は鍔迫り合う。最初は互角、だが、2度、3度。鍔迫り合いが長引くほど尚哉の不知火が新鋭機であるラプターを少しづつ上回る。
『血を被る者が必要だった!汚れ役を演じる者が必要だった!己が身の保身しか考えられないものでは決して選べぬ道を歩む者が!
殿下が御座おわす限りこの国は変わる!その未来に不要なものは全て我々が背負って征かねばならぬ!!』
ウォーケン少佐と尚哉の声は戦場にいる全機に聞こえていた。アメリカ軍には自動翻訳された言葉が。斯衛、蹶起部隊、207小隊には日本語で。悠は尚哉の言葉に涙を流しながら烈士達を戦闘不能にしていく。
『月詠中尉に言われたように、私は貴様らを侮っていたようだ…。だが私も合衆国に忠誠を誓った軍人なのだ!!秩序を護る者たることが我々の矜持、祖国の誇りにかけてここを抜かせる訳にはいかんのだ!』
2人の戦いは激しさを増す。だが、思いの強さと技量で尚哉はウォーケン少佐に勝った。
『先に征くがいい。…あとから参る。』
ウォーケン少佐のF-22は上段から振り下ろされた長刀により両断され爆発した。
介錯
逃げる武の吹雪に、鬼気迫る勢いで尚哉の不知火が迫る。
『クソックソックソッ!!なんで当たらない!!』
『筋はいい、だが。私を止めるには未熟が過ぎるッ!!』
尚哉の不知火が武の吹雪に斬りかろうとしたその時だった。ひとつの影が間にはいる。
「させんッ!!」
悠の建御名方が間に合ったのだ。悠が相手取った烈士達は皆機を脱出していた。
『悠ッ!!なぜ斯衛であるお前が、何故アメリカの片棒を担ぐような真似をするッ!!』
「ふざけるなッ!!俺が奴らの片棒など担ぐものか!!貴様こそなぜ殿下にお刀を向ける!!」
悠と尚哉は対峙したまま動かない。武はその機会を逃さずすぐに離脱する。
『お前は…!他者に隷属するを良しとする日和見主義者に成り下がったのかッ!!答えろ悠!!答えてみせろッ!!』
尚哉の攻撃は熾烈を極めた。悠はそれを全て受け流していく。
『日本は全人類への奉仕という大儀に酔い、潔癖や徳義を軽んじ忘却していった…我等の先達は日本をこのような国にするために死んでいったのではないッ!!』
『今目覚めずして…いつ日本は救われようかッ!!』
光州作戦以降、戦場は違えど悠と同じく常に先頭に立ち戦い続けた男は今この瞬間も祖国を憂い、先人達を、そして国民を憂いていた。尚哉の思いは、悠と同じであるのだ。だが…
『尚哉。あなた方憂国の想いから決起した者たちの行動は、間違ったことはあっても、その志は決して間違っていない。貴官らはこの国の在り方を変えたと私は信ずる。貴官らの行動が、日本人の考えを変えたと私は信ずる。私は同じ日本人として、国に仕える軍人として、殿下や五摂家に仕える家の者として、あなた方を誇りに思う!』
悠は涙を流しながらも伝える。お前たちの思いは間違ってなどいないと。お前達の行いが、必ずこの国を変えるキッカケになると。
「外道は外道。人としての道を踏み外した我々に賞賛される価値は無し。しかしどうか、我らの思い、忘れることなかれ。」
尚哉は目を瞑りながら悠に言う。自分は外道を進んだ。だが、国を思う気持ちはお前と一緒だと。それを忘れないでくれと。悠は尚哉の言葉を聞き、嗚咽を漏らす。
「…当然。我々は決してあなた方を、この国のために蹶起したあなた方を忘れることは無い。…せめて、我が親友の結末、私の手によって介錯致す。」
『…感謝。』
悠は涙を拭い、尚哉の不知火を真っ直ぐみる。尚哉もまた、悠の建御名方を澄んだ真っ直ぐな瞳でみる。2機が飛び出したのは同時だった。そして…建御名方は刀を振り下ろし不知火は刀を突くがわざと外し、建御名方の刀は不知火の胴体を斬る。斬られたコックピットからは、頭から血を流しても尚、真っ直ぐな瞳で建御名方を見る尚哉の姿があった。
「日本の新生に先駆け、散るもまた宿命…。ああ…悠、あとは…頼む…」
尚哉が言い終えると同時に、不知火は爆発。悠は自身の手で親友を殺し、最後の瞬間を見届けた。
月明かりが雪を照らす中、悠の慟哭が響き渡る。
『沙霧大尉…!』
『もはや、これまで…か。』
残っていた烈士の不知火は長刀を地面に突き刺し、仁王立ちで動きを止める。その上を真那の乗る深紅の武御雷と、純白の武御雷の4機が通り過ぎ、地獄は終わりを告げる。友を殺し、自身の心も殺してしまった鬼を生み出して。