相打ち勇者、転生す〜再会した仲間や弟子たちが病んでるので、正体は隠そうと思います〜 作:非転生者
「レイオン様……! 今、今助けますから!」
倒れ伏す俺に、聖女ノエルが必死に声をかける。彼女の手からはあらゆる傷を癒す聖なる魔力が滝のように流れ、俺を包む。
しかし、魔王に貫かれた俺の胸は、元に戻ることはなかった。──もう、死んでいるから。
無意味ではない。
彼女の魔法のおかげで、こうして意識だけは残っている。
俺からは、なにも伝えられそうになかったけれど。
「……ようやく魔神を倒せたのに、勝手に死んでんじゃないわよ」
精霊魔導士リラが、責めるように呟く。
いつもの突き放すような口調も、涙声のせいで形無しだ。
「お前は立派だ。あの魔神と相打ちなんてよぉ。……これで、世界は平和になる」
重戦士シリウスは、やはり男同士だからか、悲しむような素振りはない。
代わりに、魔神討伐を称えてくれた。
そうだ、俺たちはついに成し遂げたんだ。
魔神……世界崩壊を目論む超常の存在を、ついに打ち滅ぼした。
決して楽な道のりではなかった。
死に目に遭ったのも、一度や二度ではない。
一歩間に合わず、失った命もある。崩壊が始まり、消滅した大陸もある。
だが、それももう終わりだ。
世界が崩壊することはもうない。
平和で幸せな世界が、ようやく訪れるんだ。
「馬鹿みたい。あなたの幸せはこれからなのに……」
「リラ、そんな言い方しなくていいだろ」
「うるさい! 他人のために何年も戦い続けて、たくさん傷ついて……それで自分が死んだら意味ないじゃない!」
少年兵として戦いに明け暮れ、勇者の力に目覚めてからは、世界のために戦った。
たしかに、平穏な人生とは程遠い。
それでも、俺は十分幸せだった。
ノエル、リラ、シリウス……三人の頼れるパーティメンバー。
邪神との戦いにこそ連れてこなかったが、道中を共にした仲間や弟子たち。
彼らとの旅は色々あったけど楽しくて、充実していた。
平和になった世の中を見ることができないのは、少しだけ心残りだけれど。
こうして目的を達成して死ねるのだ。
ああ、十分だ。
欲を言えば、少しくらいゆっくり暮らしたかったけどな。
「レイオンは役目を果たしたんだ。悲しむよりも、褒めてやれ。レイオンの功績と思い出は、俺たちがしっかり持ち帰ろう」
「……そうですね。皆様に伝えませんと」
ノエルが、蘇生をやめた。
俺の死は誰がみても明らかで、こうしてみんなの声が聞けるのは、神がくれた最後の猶予だ。
三人が無事でよかった。
みんなが幸せになりますように。……俺の願いは、ただそれだけ。
祈りながら、俺は長い眠りについた。
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「……こうして、勇者レイオンの功績で世界は平和になったのでした。あなたが生まれた日のお話よ」
パタン、と
「救世の日に生まれたあなたは、勇者様と同じレイオンという名前にしたの。勇者様のように、誰かのために頑張れるような男の子になってね」
優しく俺の頭を撫でながら、そんな願いを口にする。
何度も聞かされた物語だ。
八年前、ちょうど俺が生まれた日に、世界は勇者によって救われた。
邪神と相打ちになった彼は、平和の象徴として語り継がれている。
──まあ俺、その勇者本人なんだけどね。
邪神と相打ちになって死んだと思っていたら、その日のうちに転生してました。
どうなっているんだ……? と困惑していた赤子時代も終わり、今は八歳になった。
夢でも妄想でも死後の世界でもなく、本当に転生したようだと確信するまで、少し時間がかかった。
「ははは。そんなに重荷を背負わせなくたっていいじゃないか。死産のはずだったのにこうして元気に育ってくれた。それだけで、勇者様の奇跡を体現しているようなものだよ」
「パパ……そうよね」
俺が転生したのは、とある田舎領主家だった。
邪神の影響が比較的少ない地域だったようだが、それでも戦乱の傷跡は各地に残っている。
だが、邪神討伐後は平和そのものだったようで、八年が経過した今ではのんびりした空気が流れている。
栄えてはいないが、農業が発展していて安定した領地だと言える。
その光景を見るだけで、俺は涙が溢れてきた。母に抱かれて町を見た三歳のころの話だ。母は、突然泣き始めたのを外に怯えているのだと思ったらしいけど。
とんでもない。
こんな平和な光景を見られるなんて、思ってもみなかったから感極まっただけだ。
頑張った甲斐があった、と心から思った。
なにかの魔法か、神のいたずらか。理由はわからないが、平和な世を見られただけで、転生できてよかったというもの。
おかげで、勇者だったころには考えられないほど、優雅に毎日を過ごしている。
「俺は平和に生きる!」
戦いはもうこりごりだ。前世は、この年にはもう剣を握っていたし。
「ああ、それが一番だな」
「レイオンには、あんな思いをしてほしくないもの」
思わず口に出して決意したら、二人が反応した。
母がしみじみと言いながら、俺の頭を撫でる。
転生のことは、誰にも言っていない。子どもが実は生まれ変わりなんて、困惑するだろうし。
それに、今の俺は二人の息子。前世があろうとなかろうと関係ない。
勇者なんて、もうやるつもりないわけだし。
ただ、前世の仲間たちがどうしているのかは、ちょっと気になるけど……。
今はこの平和を堪能しようと思う。
とはいえ。
世の中なにがあるかわからないし、鍛えておこうかな!