相打ち勇者、転生す〜再会した仲間や弟子たちが病んでるので、正体は隠そうと思います〜   作:非転生者

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1話

「レイオン様……! 今、今助けますから!」

 

 倒れ伏す俺に、聖女ノエルが必死に声をかける。彼女の手からはあらゆる傷を癒す聖なる魔力が滝のように流れ、俺を包む。

 しかし、魔王に貫かれた俺の胸は、元に戻ることはなかった。──もう、死んでいるから。

 

 無意味ではない。

 彼女の魔法のおかげで、こうして意識だけは残っている。

 俺からは、なにも伝えられそうになかったけれど。

 

「……ようやく魔神を倒せたのに、勝手に死んでんじゃないわよ」

 

 精霊魔導士リラが、責めるように呟く。

 いつもの突き放すような口調も、涙声のせいで形無しだ。

 

「お前は立派だ。あの魔神と相打ちなんてよぉ。……これで、世界は平和になる」

 

 重戦士シリウスは、やはり男同士だからか、悲しむような素振りはない。

 代わりに、魔神討伐を称えてくれた。

 

 そうだ、俺たちはついに成し遂げたんだ。

 魔神……世界崩壊を目論む超常の存在を、ついに打ち滅ぼした。

 

 決して楽な道のりではなかった。

 死に目に遭ったのも、一度や二度ではない。

 一歩間に合わず、失った命もある。崩壊が始まり、消滅した大陸もある。

 

 だが、それももう終わりだ。

 世界が崩壊することはもうない。

 平和で幸せな世界が、ようやく訪れるんだ。

 

「馬鹿みたい。あなたの幸せはこれからなのに……」

「リラ、そんな言い方しなくていいだろ」

「うるさい! 他人のために何年も戦い続けて、たくさん傷ついて……それで自分が死んだら意味ないじゃない!」

 

 少年兵として戦いに明け暮れ、勇者の力に目覚めてからは、世界のために戦った。

 たしかに、平穏な人生とは程遠い。

 

 それでも、俺は十分幸せだった。

 

 ノエル、リラ、シリウス……三人の頼れるパーティメンバー。

 邪神との戦いにこそ連れてこなかったが、道中を共にした仲間や弟子たち。

 

 彼らとの旅は色々あったけど楽しくて、充実していた。

 

 平和になった世の中を見ることができないのは、少しだけ心残りだけれど。

 こうして目的を達成して死ねるのだ。

 

 ああ、十分だ。

 欲を言えば、少しくらいゆっくり暮らしたかったけどな。

 

「レイオンは役目を果たしたんだ。悲しむよりも、褒めてやれ。レイオンの功績と思い出は、俺たちがしっかり持ち帰ろう」

「……そうですね。皆様に伝えませんと」

 

 ノエルが、蘇生をやめた。

 俺の死は誰がみても明らかで、こうしてみんなの声が聞けるのは、神がくれた最後の猶予だ。

 

 三人が無事でよかった。

 みんなが幸せになりますように。……俺の願いは、ただそれだけ。

 

 祈りながら、俺は長い眠りについた。

 

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「……こうして、勇者レイオンの功績で世界は平和になったのでした。あなたが生まれた日のお話よ」

 

 パタン、と()が本を閉じた。

 

「救世の日に生まれたあなたは、勇者様と同じレイオンという名前にしたの。勇者様のように、誰かのために頑張れるような男の子になってね」

 

 優しく俺の頭を撫でながら、そんな願いを口にする。

 

 何度も聞かされた物語だ。

 八年前、ちょうど俺が生まれた日に、世界は勇者によって救われた。

 邪神と相打ちになった彼は、平和の象徴として語り継がれている。

 

 ──まあ俺、その勇者本人なんだけどね。

 

 邪神と相打ちになって死んだと思っていたら、その日のうちに転生してました。

 

 どうなっているんだ……? と困惑していた赤子時代も終わり、今は八歳になった。

 夢でも妄想でも死後の世界でもなく、本当に転生したようだと確信するまで、少し時間がかかった。

 

「ははは。そんなに重荷を背負わせなくたっていいじゃないか。死産のはずだったのにこうして元気に育ってくれた。それだけで、勇者様の奇跡を体現しているようなものだよ」

「パパ……そうよね」

 

 俺が転生したのは、とある田舎領主家だった。

 邪神の影響が比較的少ない地域だったようだが、それでも戦乱の傷跡は各地に残っている。

 だが、邪神討伐後は平和そのものだったようで、八年が経過した今ではのんびりした空気が流れている。

 

 栄えてはいないが、農業が発展していて安定した領地だと言える。

 その光景を見るだけで、俺は涙が溢れてきた。母に抱かれて町を見た三歳のころの話だ。母は、突然泣き始めたのを外に怯えているのだと思ったらしいけど。

 

 とんでもない。

 こんな平和な光景を見られるなんて、思ってもみなかったから感極まっただけだ。

 頑張った甲斐があった、と心から思った。

 

 なにかの魔法か、神のいたずらか。理由はわからないが、平和な世を見られただけで、転生できてよかったというもの。

 

 おかげで、勇者だったころには考えられないほど、優雅に毎日を過ごしている。

 

「俺は平和に生きる!」

 

 戦いはもうこりごりだ。前世は、この年にはもう剣を握っていたし。

 

「ああ、それが一番だな」

「レイオンには、あんな思いをしてほしくないもの」

 

 思わず口に出して決意したら、二人が反応した。

 母がしみじみと言いながら、俺の頭を撫でる。

 

 転生のことは、誰にも言っていない。子どもが実は生まれ変わりなんて、困惑するだろうし。

 それに、今の俺は二人の息子。前世があろうとなかろうと関係ない。

 勇者なんて、もうやるつもりないわけだし。

 

 ただ、前世の仲間たちがどうしているのかは、ちょっと気になるけど……。

 今はこの平和を堪能しようと思う。

 

 とはいえ。

 世の中なにがあるかわからないし、鍛えておこうかな!

 

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