基本妖怪のせいにできる世界に転生したちょっと癖強いサラリーマン(現小学5年生) 作:暇なグリッチ
「…本当にこの眠気が飛ぶんだろうな?」
「勿論さ。じゃ、いただきま〜す」
あくびをしながらバクにそう問いかけると、バクは俺から煙のようなものを吸い取った。すると一瞬で先ほどまで俺を襲っていた眠気が消えてしまい、すっかり目が覚めてしまった。
「なるほど…これは凄いな」
「お腹いっぱい…ムニャムニャ…」
するとバクは俺の姿に化けると、ベッドでぐっすり眠ってしまった。
「こいつ…俺の姿してるのに間抜けな顔して寝よって…」
「こんなケイジの顔初めて見た〜、可愛いかも」
「やめろ…」
バクの寝顔を覗き込むユキをこちらに抱えて持ってくる。俺じゃないとはいえ、恥ずかしいんだからやめてくれ…
「まぁまぁ、良かったですねケイジ君。これで夜も自由に行動できますよ! さぁ、ご両親に見つからないうちにそっと出かけましょう」
「あぁ、そうしよう」
そして物音をできるだけ立てないようそっと母さん達の部屋を通り、階段を降りて外に出た。
俺が前世の頃、夜に一人で出歩くようになったのは確か高校生くらいだったはずだから、こういう悪いことするような感覚には慣れない…
「よし、とりあえず見つからずに出られたぞ」
「ではさっそく、銭湯へ向かいましょうか」
「レッツゴー!」
「あ、というかホルさんなどは連れてこなくてよかったんですか?」
「いや、本当はそのつもりだったんだがな。随分幸せそうに寝てるから起こしにくくて…」
「なるほど、ケイジ君も優しいですねぇ…」
「…どうしたの?ケイジ、そんな顔して…」
ユキが俺を見てそう問いかける。…なんだ、この感じは…
「…ウィスパー。なんか、変な感じがする」
「うぃす…?」
「変な感じって…!」
そう言っていると、辺りが突然霧で包まれ始める。あらゆるものが色を失い、夜の街はあっという間に灰色に染まった。
「一体何が…
「アカァァァァァァンッ!!!!」
っ?!」
突然、空から赤い妖怪が降ってきた。あれは…鬼か?!
「け、ケイジ…」
ユキが震えながら俺の服を掴んでくる。俺は彼女を脇に抱き、頭を撫でて宥める。
「大丈夫だ、俺がついてる。…何がどうなってるんだ?」
「鬼が来ているようですね…今は逃げるしかないですよ!」
「わかってる!」
とりあえず物陰に隠れながら周囲を一旦確認する。そこら辺を徘徊しているのは…ヤツの配下か?周りを入念に確認しているところから、恐らくターゲットは俺達…先程までちらほら見えていた人が誰もいない辺り、この現象に巻き込まれているのは俺達だけと見た。
「面倒だな…とりあえず安全そうな所まで逃げるぞ。ユキ、ウィスパー。絶対に俺から離れるな」
「う、うん…」
「うぃす!」
何処もかしこも鬼だらけ。幸い鬼どもは一定のパターンでしか行動しないらしく、隙は案外大きい。移動すること自体はそれほど難しくなさそうだ。
「おい、ウィスパー。何処へ逃げれば良いんだ?」
「それは私にもわかりません…出口が何処にあるかは私にもわかりませんので…」
「そうか…」
今はなんとか逃げられているが、体力はそういつまでも続くわけじゃあない。いずれ限界が来る。いつこの現象が終わるかも分からない以上、あまり動くのは得策では…
「ン?」
「…っ!?」
しまった!?そう考えているうちに、茂みにいる俺たちを鬼が…!?
「いたぞおぉぉぉ…いたぞぉぉぉぉぉぉ!!」
「アァァァカァァァァァンッ!!!!」
「畜生ッ!!」
あの鬼の雄叫びが街に響く。マズい、やはり呼ばれたか…ッ!!
「ケイジッ!」
「こうなっては仕方ない…ッ 逃げるぞ!!」
「は、はいぃぃぃぃ?!」
こうなってしまった以上逃げる他ない。しかしどこへ逃げる?とりあえず何処か隠れられる場所を…!
「あ、こ、この建物は…!?」
「クッ…クソったれ!!なんで開かないんだッ!!」
通りかかったコンビニの中に入ろうとするが、扉はびくともしない。力尽くでも無理か…!
こうしている間にもヤツの足音がドンドン近づいてくる。
「ケイジ君!あっちの路地裏にいったん隠れましょう!」
「わかった!!」
ウィスパーが指を差した、コンビニの後ろにある路地裏まで駆け込み、身を潜める。
「アカン…アカン…アカン…」
足音が近い、ヤツがここを闊歩している。
「け、ケイジ…私…」
「大丈夫だって言ってるだろ。お前には手出しさせない…俺がいるから大丈夫だ。落ち着け」
横を見ると、ユキが今にも泣き出しそうな顔でこちらを見ていた。ただ宥めることしかできない自分の無力さに反吐が出そうだ。
「…足音が聞こえない、行ったか?」
「…そのようですね。今のうちに行きましょう」
「で、でも何処に…?」
「とりあえず、学校を目指す」
あそこはここなら近いし、身を潜められる物も多いはずだ。路地裏から出て、周りを見ながら慎重に学校を目指す。辺りはまだ鬼が彷徨いている。ここで油断すれば…ッ?!
「アァカァァァァァンッ!!!」
「ひぃぃぃぃ?!」
「何、だと…!?」
こいつッ、建物の上から飛び降りてきた?!見失ったんじゃあない、おびき寄せるためだったんだ…ッ!!
「頭まで回るのか…! だが学校はもう目の前!!逃げ切るぞ!!」
「は、はい?!」
「う、うん! きゃっ?!」
だが走り出したその瞬間、ユキがうっかり躓いてその場にコケてしまった。
「ユキさん!」
「しまった…!」
「アカァァァァァァンッ!!」
そしてコケて動けなくなってしまったユキに、その巨大な金棒が振り下ろされる。マズい、間に合わない…ッ!
「ユキッ!!」
そして、その金棒は…
俺に、叩きつけられた。
「…!」
「ケイジ君!!」
「アカン…アカン…アカァァァァァァッ…アカッ?」
…だが、この瞬間、赤鬼は違和感を感じた。
―――潰したはずなのに、手応えがない。
そして、そう思った瞬間。金棒がゆっくりと持ち上げられ始めた
「アカッ…!?」
「ぐ、ぬぬ…アァァァッ…!!」
「ケイジ?!/ケイジ君?!」
だが、ヤツもただでは終わらない。さらに力を強め、俺の顔がみるみる歪む。
「ケイジ!!
「何もするなッ!!」
っ?!」
「…ごめんな、こんな、怖い思いさせて…俺がもっと強ければ…」
天野ケイジが嫌いなこと、その8
誰かが俺のために泣くこと。
自らの不甲斐なさが全て悪いのに、何故その分の涙を誰かが流さなければならないのか。
悔しい、苦しい、悲しい。
だがそんな負の力が、俺を突き動かした。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!!」
「アカッ?!」
ヤツの金棒に、下からひたすらラッシュを叩き込む。最初はびくともしない。だが、確実に金棒を上へ上へと押し上げていっていた。
「ア、アカァ…!?」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!!」
ヤツもさらに力を強め、俺を叩き潰そうとする。
しかし止まらない、むしろドンドン勢いは加速していく。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!!」
普段なら、こんな芸当は不可能だ。力の差があまりにもありすぎる。だが、今だけは違った。
"これ以上、あいつに怖い思いをさせてたまるかッ!!"
その心だけが、その覚悟だけが今の俺を突き動かすッ!!
思い知れッ!!俺の"覚悟"をッ!!
「オラァァァァァァァーッ!!!!」
「アカァァァァッ?!」
ヤツの金棒を、殴り飛ばした。
「今だ!!行くぞ!」
「は、はい!!」
「うん!!」
直ぐ様立ち上がり、学校の前まで走る。ここからどうする…と考えていると、ミツマタノヅチにとどめを刺したあの妖怪が現れた。
「お前は、あの時の…! いや、そんな話はいいか。ともかくあの時はありがとう。お前がいなければ危なかった。感謝する」
「礼はいい。ケイジ、お前のことをずっと見ていた。助かりたけりゃその扉に入るんだ、もとの時間に戻れる」
彼がそう言うと、緑の炎と共に黄金の襖が現れる。これが出口か。
「それと、勘違いするなよ。あの時助けたのはただの気まぐれだ。次があると思うな」
「…その次がないよう、今必死に鍛えてるところだ。皆でな」
「…ふっ。じゃあなケイジ!」
「あぁ、じゃあな」
そんな短い会話を交わした後、黄金の襖を開け、脱出した。
トラウマってよぉ、何のためにある分かるか?
その一度恐れたことをぶっ飛ばすまで、絶対に忘れてやらないようにあるんだよォーッ!!
コメント、評価、お気に入りのほどよろしくお願いします!バンバン伸びてて嬉しいんだなぁ!!