基本妖怪のせいにできる世界に転生したちょっと癖強いサラリーマン(現小学5年生) 作:暇なグリッチ
何故か長くなった…
「大変よ!ケイジ!」
俺が朝、2階から降りてくると、いきなり母さんからそんな事を言われた。
「な、何が?」
「お父さんがこひなた駅に大切な書類を忘れたみたいなの…」
「は?!」
「それを探してお父さんに届けてくれる? 封筒にはお父さんの名前が書いてあるから、駅員さんに言えばすぐにわかるそうよ」
「嘘だろ…! わ、わかった。すぐ行く!」
俺はすぐに玄関に向かい、靴を履いて出ていった。こひなた駅は団々坂のほうだ。突っ走れば全然いけるはず…!
「あっ、お父さん、会議の時間が近いみたいなの!急いでお願いね! でも焦って事故に遭わないよう、車には気をつけてねー!」
「わかってるよ、母さん!!」
――――――――――――――――――
それから少しして、団々坂に着いた。全力でダッシュしたから、時間的にはまだいけるはず…あぁ、クソッ、時間教えてもらえばよかった…!
「そもそも、なんでそんなもの忘れるんだ! 信用問題に繋がるんだぞ?!」
「ケイジ君のお父さんはのんびりしてますからね」
「そうだとしても、そんなもの忘れるか?!」
「とにかく急ぎましょう。あっ、駅が見えましたよ!」
ひたすら走っていると、駅が見えてきた。すぐさま、改札前にいる駅員に話しかける。
「そ、そんなに息を切らしてどうしたんだい? 坊や?」
「ここに書類はありませんか?! 父が忘れたようで…! 名前が書いてあるはずです」
「ああ、お子さんが取りに来るってさっき連絡があったやつか。 この書類で間違いないかな?」
そう言い、駅員さんが封筒を取り出してきたのを受け取り、しっかり確認する。…うん、間違いない。父さんの名前だ。これが書類だろう。
「はい、これです。ありがとうございます。後、家の父さんが迷惑をかけてしまい、すいませんでした…」
「そんな、頭を下げなくたっていいさ。大事な書類が見つかってよかったね」
頭を下げる俺に、そう優しく言ってくれた。もっと感謝したいところだが、時間はない。電車に乗って早く会社まで行こうと、乗車券を買って改札を通った。
「今回はありがとうございました!」
「あぁ、電車の中ではマナーを良くね」
「はい!」
改札を通ると、もう電車が扉を開けて待っており、自分もすかさず乗り込んだ。
「何とか間に合いそうですね」
「あぁ、会社の場所は覚えている。後は全力で突っ走れば余裕を持って間に合うはずだ。全く、子供にこんな事をさせて…」
「にしても、凄い必死ですね。確かに大切ですが、ケイジ君自身がそんなに焦る必要はないと思いますが…」
「あるよ。こういう書類の重要さは身に染みて…いや、なんでもない」
「うぃす?そうですか?」
おっと、俺の転生前の話は秘密だったな。後必要もないし…そんな事を話していると、すぐに桜中央駅に着いた。
「よし、後は届けるだけだ!急ぐぞ!」
「あっ、ケイジ君!待ってください〜!!」
そして人をかき分けながら外に出た。よし、会社は…あそこだな。しっかり目的地を確認した後、階段を下りようとしたその時だった。
「さぁ、早く書類を…んんっ?んんんんっ?!」
「何してるんだ、ウィスパー。早く行くぞ」
「どうもこうも、ウォッチしてみてくださいケイジ君!」
「ウォッチ? …なんだ、これは…!?」
階段を下りた先に、大量の妖怪がいたのだ。ここだけじゃない、辺りを見渡せば、それ以上の数の妖怪が見受けられた。
「なんだこいつらは?!」
「うぃす!これは妖怪わすれん帽です」
「…え、お、おい」
「この妖怪に取り憑かれた者は、忘れっぽくなってしまうのです」
「なぁ、ちょっと…」
「こんなに大量なのは私も…なんです?!今説明してるんですよ!」
「いや、頭の上…」
「…ハテ?何の話でしたっけ?」
「あぁ遅かった…」
ウィスパーの背後から来ていたわすれん帽のことを教えようとしたが、ウィスパー説明に夢中なあまり俺の声が届かず、結局取り憑かれてしまった。全く…
「わすれん帽の話だ」
「え? …そうそう、そうでした!」
俺が教えてやると、どうやら思い出した様子で、再び話し始めた。
「お父さんが大事な書類を忘れてしまったのも、この妖怪の仕業に違いありません」
「あぁ、そうだった! 早く書類を届けるぞ!」
「もう時間がありません、ケイジ君。 わすれん帽に取り憑かれてしまったら、何をしていたのか忘れてしまいます 奴らに捕まらないようにお父さんの会社を目指すのです!」
「わかってる! 任せろ!」
「時間も三分しかありませんよ!早く早く!」
「わかった、三分…三分?!」
あぁクソッ、駄弁ってる暇なんて全くなかった!!もう時間がない、俺のフィジカルを全て使って逃げ切るッ!
――――――――――――――――――
「はぁ…はぁ…」
「ケイジ君、凄い逃げっぷりでしたね。カッコいいって、道の子ども達がキラキラした目で見てましたよ!」
「どうでもいい…」
あれからわすれん帽達を掻い潜り、なんとか父さんがいる7階まで辿り着いた。にしてもまさか、会社の中にまでいるとは思わなかった。全く勘弁してほしい…
「ケイジ!」
「父さん! 書類、持ってきたぞ!」
呼吸で肩を上下させながら、父さんに封筒を手渡す。父さんはそれを確認すると、笑顔で頷いた。
「あぁ、これだ。間違いない!」
「よかったですね、これで会議が進められます」
「本当にどうしてこんな大切なものを忘れてきてしまったのか…」
「本当だ、勘弁してくれ。本気で焦っただろ…ここまで休まず全力疾走してきたんだからな」
「ご、ごめんなケイジ…」
「あはは…誰にでもミスはありますよ。 さぁ、いいプレゼンにしましょう」
横にいるメガネの男性は…あれ?
「もしかして、木霊のお父さん…?」
「ん?あぁ、よくわかったね! いつも娘と仲良くしてくれてありがとう」
「あぁいや、そんな…」
そんな事を話していると、もう会議が間もなく始まりそうな時間だった。
「おっと、もう行かないとな。ケイジ、今日は本当にありがとうな。あとで絶対に礼をするよ。気をつけて帰るんだぞ」
「あぁ、父さんも頑張れよ。プレゼン」
俺がそう言うと、父さんは嬉しそうに会議室に入っていった。
「はぁ…間に合ってよかったな」
「わすれん帽のおかげで散々でしたが、無事に書類も届けられてよかったですね さぁ、うちに帰りましょう」
―――――――――――――――
それから翌日。…まぁ、あの後も帰る途中でわすれん帽と一悶着あり、あの行動は友達欲しさにやっていたことと発覚したため、友達になっておいた。やっぱり構ってほしくて悪さをする、というケースが妖怪には多いらしい。確かに懲らしめるのも大事だが、対話するのも必要だな。
そして俺が、父さんに言われた通り外に出ると…
「え? この自転車は…」
「ケイジが大事な書類を届けてくれたおかげで、会議がうまくいったんだ。あのときは助かったよ、ありがとう。この自転車はそのお礼さ」
あぁ、確かに言ってたな。礼はするって…これのことだったのか。
「そういうことか…ありがとう、父さん。大切にするよ」
「よかったですね、ケイジ君。 一生懸命、書類を届けた甲斐があるってものですよ」
「お父さんも子供の頃に自転車を買ってもらったときは嬉しくてなあ。日が暮れるまで乗り回して、おじいちゃんに叱られたもんさ」
「父さん、乗ってみてもいいか?」
「あぁ、勿論。 おお、高さもピッタリだな、乗り心地はどうだ?」
「あぁ、凄くいいよ」
自転車か。前世では社会人になってからは全然乗ってないから、久しぶりの感覚だな…
「せっかくだから、その辺で試し乗りしてきたらどうだ?」
「あぁ、そうするよ」
あぁ、なんだろう…贈り物って、こんなに嬉しいものなんだな。心まで幼くなったかなと思いながら、俺は笑顔を零した。
天野ケイジ
あまり表には見せないが、自転車を貰えてとてもご満悦。こう言ったサプライズをしっかり用意できる父を少し見直した。
ウィスパー
年相応に喜んでいるところが見られてこちらもご満悦。でも自転車使わなくても、そこら辺の自転車よりスピード出てませんでした…?