ここの作品のモモンガはアンデットですが精神抑制はされません。
「あんたは何を食べるの?」
「俺に食事は必要ない」
「布団は?」
「睡眠も取らん」
「⋯⋯風呂」
「それは必要だな」
「変な奴ね」
霊夢は口をへの字に曲げると腕を組んだ。
変な奴⋯⋯まあ言われてみればそうか。食欲も睡眠欲も無いのに風呂を欲するだなんて。
「ま、食費が浮くからいいわ。私は晩御飯の準備をするから、あなたはその間に風呂を沸かして入っておきなさい。五右衛門風呂だけど、大丈夫かしら?」
「五右衛門風呂の入り方なら昔教えてもらったことがある」
それなら安心だわ。そういうと霊夢は台所に向かい、倉庫から野菜や干し肉などを取り出し始めた。
「じゃがいも、人参、玉ねぎ⋯⋯。案外、普通なんだな」
逆に普通じゃなかったらなんだという話だが、ここは異世界。空飛ぶキャベツや叫ぶマンドラゴラが居てもおかしくは無い。実際妖怪がいるんだし。
「早く行きなさい。私も風呂につかりたいんだから」
「あ、ああ。すまない」
キロッと霊夢が睨んできたのでそそくさとその場を退散する。これじゃあまるで、新人の家政婦に主人が叱咤しているようなものだが不思議と悪い気はしなかった。
「うーん?やっぱり人じゃなくなったからか、風呂の気持ちよさというものが分からないな」
人間時代は仕事の激務から体の汚れを取ると言うよりも、一日の疲れを癒すことに重点を置いてしまっていた風呂だが、骨に湯水が染み込んでもあまり気持ちよくはなかった。
あれだな。某ピースの骨キャラが持ちネタにしていたのも納得できる。たしかに、骨と人の身体は勝手が全く違った。
「しっかし、骨だからと言って湯水が掬えなかったのは盲点だったなあ。結局何も洗わずにつかっちゃったから、後で湯水は入れ替えないと⋯⋯」
湯水に関してだが、普段は知らない内に張られていてそれに浸かっていると霊夢は言っていた。
⋯⋯紫さん、あの口喧嘩も含めてこの子に苦労していらっしゃるんですね。そう察してしまった俺はいち早く風呂場へ向かうと、魔法を使って五右衛門風呂に湯水を張った。
その時、どこからか歓喜の雄叫びが聴こえたのは言うまでもない。
「ま、これからは俺が風呂の準備をするんだし贅沢はしてもいいよな」
⋯⋯⋯もちろんよ!なんて声が聞こえた気もするが、流石に気のせいだろう。人の風呂を覗くなんて、紫さんはそこまで悪趣味じゃないはずだ。
「ちょっとー?いつまで浸かってんの?私も入りたいんだけど」
「あ、ああすまん!少し長風呂をしすぎてしまったな。今出る」
⋯⋯タオルってどれ使ったらいいんだろう?
「はーサッパリした。ま、俺は骨だからそんな感覚はないけどな」
それでも気分というものは大事だ。気分が上がれば心も踊る。もし表情筋があるならば、今の俺はさぞニッコニコだろう。
「む?これは、カレーか。テレビやスマホが無いとはいえ、料理は中々近代的だな」
考えれば考えるほど不思議な場所だ。
外の世界もこういったチグハグさがあったりするのだろうか?
「こんばんは、モモンガ」
「ん?ああ、紫さん。こんばんは。如何なさいましたか?」
「少しばかり話したいことがあってね。霊夢は今風呂に行ったばかりでしょう?」
立ち話もなんだからと相槌ついでに居間に座るようジェスチャーをする。
⋯⋯おかしな話だ。居候して1日も経ってないやつが我が物顔を気取ってるんだから。
「して、話とは?」
「ん〜、そうね。たくさん聞きたいことはあるのだけれど、まずはこちらから」
そういうと紫さんは居住まいを正し、俺をキリッと見定めると深々と頭を下げた。
「昼間のご無礼をお詫びいたします。そして、本人が納得するならば当代博麗の巫女、博麗霊夢の保護者として、彼女の面倒を見てやってはくださいませんか?」
「ん、え、え?すみません、少し話が⋯⋯」
「順を追ってご説明いたします」
そういうと紫さんはポツポツと霊夢について語り始めた。
曰く、博麗の巫女は彼女の年齢を考慮すると荷が重すぎるのだと。
曰く、母親が早逝して以来孤独なのだと。
曰く、独りの時間が長かった為に協調性が無いのだと。
⋯⋯俺と重なる部分があったところは言うまでなかった。
「なので、どうか、どうか。私ではダメなのです。ずっと彼女を支えてくれるパートナーがあの子には⋯!」
「顔を上げてください紫さん。俺は断るなんて一言もいっていませんよ?」
「!!ということは!?」
「はい。その件、承知しました。俺が彼女の面倒をみましょう」
パアァっと紫さんの顔が明るく変わった。
まあ、相性が悪いのか結構苦労してそうなところもあったしなあ。どちらにも恩はあるし、これ機に少しづつでも返せていけるといいのだが。
「そっそれでは!もうすぐ彼女も風呂を上がる頃だと思いますので、私はこれにて。⋯⋯作法等も頼みましたよ?」
「ハッハッハ。任せてください。日本人ならば達者芸ですよ」
再三の感謝と共に紫さんはスキマへと消えていった。苦労人気質はお互い様ということかね。
「⋯⋯誰か来てた?」
「いいや、俺だけだぞ」
「ふーん?」
そしてタイミングよく風呂から上がってきた霊夢。いい頃合いまで寝かせていたのであろうカレーを器に盛り付けると、少々乱暴に居間までやって来てガタンと座った。
「⋯⋯いただきます」
そういうのと同時に彼女がスプーンを握った瞬間、
「ストォォォォッップだ霊夢ウゥゥ!!!」
「ッ!?」
俺は勢いよくたちあがり、右手をかざして彼女を制止する。
「スプーンは握るものじゃない!持つものだっ!!」
「⋯⋯⋯⋯」
シラケた顔の霊夢と激高している様子の骸骨。傍から見ればさぞ滑稽だっただろう。
⋯⋯暴走気味?教育にはこれくらいが丁度だ。
時系列は原作前を想定しています。