もっと書きたい⋯⋯
「⋯⋯さすがに杞憂だったか」
突如目の前に現れた謎の妖怪。発言から推測するにおそらく人喰いの類。だというのに、霊夢と魔理沙は臆することなく勝負を受けて返り討ちにした。
「大したこと無かったな!」
「先急ぐわよ」
「⋯⋯実力は申し分なし。精々出来ることはバックアップくらいか」
赤黒く染まった森へと落ちていった妖怪の姿が脳裏に浮かぶ。
妖怪、と言っても霊夢いやそれ以上に幼い見た目をしていたが、さて彼女は無事なのだろうか。
⋯⋯⋯⋯道草を食っている場合ではない。紫さんから信任された以上、勝手な行動は許されないことくらい分かっている。
霊夢たちについて行こう。
『誰かが困っているなら、助けるのは当たり前!!』
「⋯⋯ッ」
ふと、この言葉が頭をよぎった。俺がユグドラシルを駆け出しの頃に助けてくれた、偉大な恩人で友人の言葉。
そうだ。本質を忘れてはいけない。俺が骸骨の化け物でも、子どもを守らなければいけない立場でも、誰かが⋯⋯それが妖怪であったとしても、困っていたら助けるのは『普通のこと』なんだ。
「やっぱり、貴方はそうなのね」
ギョロギョロとした目玉が充満した気味の悪い空間が目の前に出現し、紫さんが現れた。
その口調は怒っているようとも、悲しいようとも取れるような不思議な響きだった。少し機嫌が悪そうではある。
「あっ紫さん⋯⋯すみません」
謝る必要なんてない。人道的なことをして何が悪いのか。
心の中では理解しているが、日本人として生きている悪癖が咄嗟の言動にでてしまった。
「いいのよ。⋯⋯私も霊夢たちのあれはやりすぎだと思ったし、それに博麗の巫女の傍にいる者が血の凍った化け物でも困るわ。当面の間は彼女達の苦戦する敵は出てこないと思うから、あなたの好きにしなさいな」
「感謝します」
紫さんは締めでニコッと目を細めて笑うと隙間の中へ消えていった。
言葉の裏の感情はともかく、許されたということだろう。
⋯⋯さて、ならば行かねばならない。
飛行魔法を解除し、森へと降り立つ。人喰いの妖怪が落ちた場所までは分からないので、探知系魔法を発動して反応のあった場所へと行く。
「ム⋯⋯?生体反応を示す個体が多いようだが、もしかして群れているのか?」
あちゃー、だとするとお節介も甚だしい。という気持ちは心の底に押し込めてホッと安堵の息が出た。仲間が居るのはいいことだ。逆境や失敗をポジティブな体験へと変えてくれる貴重な存在。
今頃、傷口を手当しつつ軽口を叩きあっているのかもしれない。
そんな彼らがいるならば、きっと彼女も⋯⋯⋯⋯
突然、その内の一匹の生体反応が弱まった。
脳の思考が停止し、そしてすぐに一つの考えが頭をよぎる。もしかして、介抱されているのではなくいじめられているのか?と。
いやいやいや、そんなはずはあるまい。もしかしたら傷が予想よりも深くて⋯⋯
突然、森の中に絶叫が響き渡った。子どもかもしれない。老婆かもしれない。ただひとつ言えるのは、弱々しくて悲鳴にも似た女性の声だということ。
え、いや、いやいやいやいや。ちょっと待て。
弱まる生体反応、先程の絶叫。そして女性。頭が動転して状況の整理が追いつかないが、つまりそういうことなのだろう。
薄暗い光に照らされた妖怪の陰は、霊夢よりも小さい幼女だった。力だってそんなに強くなかった。それを痛ぶっているのなら、決して許せない。
カタ、カタと。乾いた音が身体から響く。不思議に思って自分の手に目をやると、無意識の内に握りこぶしを作っていた。そうだ、あの人も許せないことがあるとこうやって癖に出ていた。
「たっちみーさん、貴方から受けた恩をあの子に返させていただきます」
意味の無い独り言。
それでも、呼応するかのように力が溢れ出た。
場所は大体分かっている。ならば最短距離で行くのみ。魔法で身体を強化し、木をなぎ倒して前進する。
「さっきから轟音が⋯⋯って、ハァ!?」
現場に到着するのは30秒もかからなかったように思う。怒りで時間感覚がおかしくなっているだけもしれない。
そして、やはりと言うべきか。件の幼女は顔を赤ぼったく腫らして、数人の妖怪からリンチを受けていた。
「ぅ、うぅ⋯⋯ィ、た、⋯⋯ぃ」
目の前の妖怪共をボコボコにしてやりたいが、状況を冷静に判断。妖怪たちに囲まれて地面に伏せている幼女を素早く回収すると治癒魔法を詠唱する。
打撲痕、切り傷は回復したものの意識は戻らず。打撲痕に関しては弾幕ごっこによるものもあったが、それを抜きにしてもよほど激しい暴行を受けたようだった。
「お前、何をするんだ!!」
「一つ聞きたい。なぜお前たちはこの子をいじめた」
「は、はあ?そりゃ、まあ⋯⋯色々あるんだよ」
「その色々な事情について聞いているんだ」
困惑の色が隠しきれない様子の彼らは、一斉に顔を見合せて言葉に詰まった。
「逆に聞きたいんだが、あんたは誰だよ?なんで俺たちの事情に首を突っ込むんだ」
「お前たちに語る名はない。誰かが困っているなら、助けるのは当たり前だ。お前たちはこの子から何かされたのか?」
「だから色々つってんだが、⋯⋯元々、気に食わなかったんだ!!俺たちの縄張りにいつもふよふよと入ってきやがって、注意してもワハーとか適当に流されるだけで!!だから、やってやったんだよ!灸を据えてんの、邪魔すんなガイコツ!!!!」
「⋯⋯聞くだけ無駄だったか」
頭に血が上ってリーダー格の妖怪が殴りかかってきたので、正当防衛として一発キツめに鳩尾あたりを殴ってやった。
「ぅ、ううおおおお!?」
怒りに支配されてこの場での禁忌を犯すほど馬鹿でもないので、手加減をしたもののリーダー格のそれは木々をなぎ倒しながらはるか後方へと吹き飛んでいった。
「ば、バケモノ⋯⋯!!」
「どうなってやがんだよ⋯⋯⋯!」
残された者たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
先程の一発で怒りは収まったし、まあこのくらいでいいだろう。話を聞く限り幼女にも非はあったように思うが、それでもあの報復はやりすぎだ。
「あ、えと。たっ、助けて⋯くれたの?」
眠たげでか細い声が響いた。
後ろを振り向くと、辺りをびくびく見渡しながら震えて座っている子ども。⋯⋯これが妖怪だと紹介されて信じるものは何人いるのか。少なくとも俺は見破れそうになかった。
「友だちだったのか?」
「ま、まさか⋯⋯!!えと、お礼言わないと、だよね?あありがとう。あの⋯⋯その、「モモンガだ」⋯⋯モモンガさん」
「どういたしまして」
互いに距離を取って見つめ合う気まずい空気が流れる。うーん。助けたはいいものの。という感じだよな。あの人みたいに決めゼリフを言って退場しようか?いやでもそれは違う気がするし⋯⋯
とりあえず幼女の目の前まで歩くと身を屈めて目線を合わせる。そうするだけで子どもは安心して話しかけやすくなるとかなんとか。かつてのギルメンの受け売りの知識だ。
「君の名前は?」
「る、るーみあ。好きな食べ物はお肉」
「そうか。ここは危険だ。すぐに親御さんの元に帰った方がいい」
「親⋯⋯いない」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
なるほど。これが人の家庭事情に踏み込んではいけない理由か。申し訳ないが、そんな重いことを言われて上手い返しをするコミュ能力なんて持ち合わせていない。
帰りなさい。という一言だけで済ませるべきだった。
「あ、なら友だちは⋯⋯いないか。すまない」
「⋯⋯うん」
あああああぁぁ!!やらかした、やらかしてしまった。
それ絶対言ってはいけないやつ!なのについ言ってしまった。あまりにもノンデリだし、こんな子相手に言う自分が恥ずかしすぎる。
逃げよう。この子の傷は治ったし、もういいだろう。
「あ、あのッ!!」
「む?」
それは、ただの思いつき。本能的な直感。
自分と似た者のような気がしただけ。そう後に彼女は語った。
「友だち、なってくれますか?」
「⋯⋯ああ、喜んで」
彼女と仲良くなった今でも、この時のノンデリ発言は擦られ続けている。