しろがねの懇願を受けて致し方無くアシハナという男を探すために三学期の授業の全てを終わらせ、平助を連れていくことにした。
仲町の奴らには公演できる場所を幾つか教えているし、事前に話も付けている。その気概があれば信頼を勝ち取ってサーカスは自由に開演出来るはずだ。
「船と飛行機、どっちだ?」
「糸色家の所有する飛行機だ。尤も乗る者は少なく点検を行っていても飛行したのは五回か六回程度だ。爺や、操縦はお前に任せる」
「お任せ下さいませ、巓様」
私の言葉にお辞儀で応える着物姿の家老は操縦席に乗り込み、私と平助は客室に乗り込んでいく。だが、真の戦いはここからだ。
飛行機も船も車も凡そ全ての乗り物に酔ってしまう呪詛のごとき体質は改善せず、優雅な恋仲の逢瀬を楽しめる事は無いだろう。それに弱った私を見せるのは、どうにも恥ずかしいものである。
「ゔっ」
グンと身体に掛かる不愉快な負荷に顔を歪めつつ、空に昇っていく景色を眺める。昔は自由に飛び回っていたが、今は静かに眺めるのも良いものだ。
「……さて、此処なら二人きりだ」
「言い回しの妖艶さは無くせないのか?」
「お前に恋している限り消えないよ」
「お、おう。そうか」
「この道具の事を聞きたいのだろう。先日は彼是と面倒事を片付けていたから、平助も話を聴くのも遅かった事は覚えている」
ゆっくりと茶色柄のショドウフォンを取り出して、平助に差し出す。私の身体を駆け巡る『火』のモヂカラは妖気を受けて少しばかり変質しているが、侍共の力と遜色無く自由に使いこなせる。
臙脂色に黒羽織を纏うのはその影響だ。
「侍戦隊ね…」
「あの変な鎧男の驚きを見れば分かるだろうが、この力は誰かに見せるつもりはなかった。お前はこんな変なものを使える女は嫌いか?」
そう隣に座っている平助に問いかける。かつては白面の者という秘密を打ち明けず、今度は人とは異なる力も使える事を怒りに任せて見せてしまった。
最悪の事態だ。
「俺は巓を嫌いにはならないよ。初めて出会った日から、この世で一番お前を綺麗だと想っていた。なにより俺はお前に出会うために産まれたんだと思う」
「……そうか、安心した」
ベルトを外して平助に抱きつく。大妖怪だった頃の我が人間に恋心を抱き、あまつさえこうも甘えてしまうなど誰もよそうしなかっただろうな。
「平助、もののついでだが名前を書いてくれ」
「?別に構わないが」
私の願いに平助は素直に応えてくれ。私の指し示す場所に己の名前をハッキリと記した。
「ほらよ」
「クク、よろしく頼むぞ、あ・な・た♥」