命と私を間違えて襲ってきた人形を粉砕したものの、人形の重さで傾き、揺れた飛行機の影響で私の体調は最良とは言えない状態だ。
「降ろせ、流石に恥ずかしい」
「爺やさんが荷運びしてくれてるんだ。せめてお前を運ばないと申し訳ない気持ちになる」
そう言って私をお姫様抱っこしたまま降ろそうとしない平助の事を見上げつつ、無駄に力強い腕に妖気を失った時の事を思い出して、ドキドキとしてしまう。
私は世界に恐怖をもたらした白面の者だったというのに、こんな生娘のように好いた男の腕の中にいるだけで心臓が早鐘を打っている。
あり得ない、私の方が上の筈だ。
自問自答を繰り返していたとき、何か違和感を感じながらもスンと鼻を鳴らす。───微かだが、命の匂いが残っている。
おそらく、このリゾートに居たのだろう。
「爺や、宿は任せる」
「畏まり致しました。巓様、お気を付けて」
「無論だ。平助、私の指差す方に歩け」
「はいよ。お姫様」
わざとらしく軽口を叩く平助の口に乗り物酔いを緩和するために貰っていた酷い苦味を出す苦団子ををねじり込んだものの、平然とコイツは飴玉を噛み砕いた。
「ちょっと苦いな」
「百に及ぶ薬草を煮詰めて固めた苦団子を食っても平気とはつくづくお前は変な男だな。やはり私が貰ってやる以外に婚姻する術はないぞ」
「お前以外と結婚するつもりはないよ」
「……フン、分かっているなら問題ない」
平助の「お前は絶対に娶る」という言葉に心臓は高鳴り、日本に戻ったら即日婚姻届を提出し、愛する
「とまれ。この宿に命の残り香がある」
「残り香って汗か?」
「いや、アイツは神通力を使える。その力の余波を感じ取るのに私の鼻は冴えているだけだ。尤も我は最後の最後に嗅ぎ違えたがな……」
「たまに出る。その我って中二病なのか?」
「ちゅーにびょー?」
突然、訳の分からない事を言う平助に小首を傾げながら問い返すと「いや、間違えただけだ。糸色家の血筋は特殊だってドクトルに聞いていたわ」と平助は勝手に一人だけで納得している。
しかし、命の匂いの他に別の臭いもする。
だが、命とかなり近くにいたのだろう。アイツの匂いが纏わりついているかのように動く度に混ざりあっているようで非常に不愉快だ。
「ひぐッ!?え、煙太の臭いがする」
あまりにも酷い臭いに鼻を着物の袖で押さえて吸わないようにしていると「ひぐって言ったッ、ぷくくっ」と平助に笑われてしまった。
殺すッ、煙太を吸っていたヤツは絶対に殺す!