命の匂いを頼りに扉を開けると半裸の女と一緒にベッドに寝転んでいるアシハナが煙草を咥えて、草臥れた様に何かを諦めたような虚ろな目をしている。
「チィッ。くたばれ、虫けらが!」
こんなふしだらに女を変える男を好いているだと?命のヤツはおかしくなったのかと思えば背後から駆け寄ってくる足音が聴こえてくる。
私の嫌いな目だ。気に食わない。腹立たしい。
イライラとする目だ。まるで自分が一番不幸であるかのように草臥れた男に近づき、力任せに頬を引っ叩いた瞬間、私の事を唖然と見上げる。
「おじょう、さん?」
「命と私を間違えるな」
「ああ、お嬢さんがよく話していた従姉妹ですかい。こんな場所にやって来て、どうするつもりでさ?日本に帰ったお嬢さんに引き合わせて、あたしを惨たらしく仕置きでもするんで?」
「痴れ者が、お前を呼びに来たのは命のためだ。アレは患った病のせいで後先を考えない馬鹿だ。いつ灯火が消えるのかも分からない身体で、アイツは戦っているというのにウダウダと腐りおって…!」
本当に命はコレに惚れたのか?
そう苛立ちを隠しもせずに睨み付けいると半裸の女が口を開こうとした瞬間、殺気を叩き付けて意識を刈り取る。私とコイツの話し合いに割り込むな、糟が。
「英良の叔父貴、どうしたんだよ」
「…ッ、平助、クッ、ハハハ、まさか黒賀の男が揃いも揃っておんなじ相手を好きになっちまったってことですかい。はあぁ……あたしはハッキリとお嬢さんの父親に言われたんですよ、『もう娘には会わないでくれ。お前みたいな薄汚い殺し屋に娘は渡さない』ってね」
どこか悔いるように溜め息を吐くアシハナの言葉に違和感を感じる。コイツが命の薬を貰いに言っていたとき、才賀善治は病院に来ていた筈だ。
「虫けら、その才賀善治の右手に傷は有ったか」
「傷?…いや、傷は無かったが」
「なら、その才賀善治は偽物だ。右手の傷はアイツにとっての名誉の証だ。お前みたいな糟に隠す理由も何もないのだからな」
「巓、言葉にトゲがありすぎないか?」
「平助はふしだらな女が好きなの?」
「俺は一途な女の子が好きです!」
「ん。それなら私は何も言わない」
チラリとアシハナを見れば煙太を揉み消し、ゆっくりと立ち上がったところで部屋の中に知らない男が不承不承という雰囲気を纏って入ってきた。
「アシハナとテン、ヘースケだな。着いて来い」
「黙れゴミ」
「ごっ、巓さん!?」
「むぐっ。ふぁにをふる!?」
いきなり現れて偉そうにする男に文句を言ったその時、私は力強く平助に身体を押さえ込まれ、口許を塞がれてしまった。
「まあ、難しいことは知りやせんが。お代はいかほどいただけるんで?」
そう言うアシハナの目は虚ろではなかった。