私が勝君を抱き締めたまま地面に激突する寸前、ギィッ…!と糸の鳴る音が響き、少しの衝撃と一緒にロングコートのお兄さんの腕の中に落ちていた。
「こいつァ驚いた、あたしに天女が降りてきた」
「へうっ?!」
とんでもないことを言う彼に顔が熱くなるのを感じながらも身体に巻き付いていた糸が消え、今のはなんだったのか?と悩みつつ、ゆっくりと降ろして貰う。
「おじさん!さっき外で鳴海兄ちゃんやしろがねと一緒に戦ってたよね!」
「えぇ、まあ、成り行きでさぁ。だが、あの黒い兄ちゃんに足を折られちまいやしたがね。早々に戦線離脱、ぶっ殺し組の頭目だってのに情けねえが、あたしはもうここで…」
「僕の側についてよ!お金なら、父さんが遺してくれた遺産180億円があるんだ。ほしいだけ言っていいから!」
「ちょっと待ってくだせぇ……つまり」
「そ、そうですよ、勝君。それじゃあ」
「「
木の枝でぶつかって切れた顔を手当てしようとする私の手をすり抜けて、勝君は紙の束を彼に向かって突き出した。バラバラに舞う紙を拾い上げ、私は小さな悲鳴を上げてしまった。
まさか、こうなるように仕向けていたの?この騒動も全て才賀貞義の計画の一部だったなら、勝君に、私の弟を利用して殺しあいをさせようと────。
「────ここに、計画の一部変更を記す。私の弟である義治が糸色家の息女と結婚した。五百年続く大名家にして才賀グループの障害に成り得る可能性を持つ一族だ。だが、その血筋には稀有な特徴と共通点が存在する」
ロングコートのお兄さんが私を見ながら読み上げ始める。勝君もそこまで読んでいなかったのか、私の方を見上げて戸惑ってしまっている。
「『糸色類』は百年前のこの世界の特異点とも言える『糸色景』同様の神通力を所有し、その能力は義治との間に生まれた一人娘にも受け継がれている。神通力?」
「……私は、人の傷を癒せます。この様に…」
怪訝そうに私に視線を向けるロングコートのお兄さんに近付き、彼の添え木と縄を巻き付けた右足に淡く光る蛍火色の手のひらを翳す。
その光景に目を見開くロングコートのお兄さんと、静かに私の行動を見守る勝君、それから周囲の警戒を続けているお兄さんの仲間の視線が私に集まる。
「ハ、ハハ、マジですかい?」
「ゲホッ…ケホッ、ケホッ…!」
動くようになった足に驚くお兄さんは、また紙束を拾って続きを読み始める。自己完結しないように、しっかりと私と勝君に聴こえるように。
「もし、その力を手に入れた場合、巨万の富は当然。この世に存在する奇病も治癒する事は出来るだろう。だが、愛情深い糸色家を取り込む事は難しく、私は勝をエサにすることで逆に取り入ることにした……続きは?チッ、この書きかけでも終わりか」
そう言って私と勝君を見つめるお兄さん。
「……勝君、貴方のお父さんは私の叔父様なんです。子供の頃に遊んで貰って、お洋服もオモチャも色んな物を、沢山の思い出をプレゼントしてくれた人なんです。───だから、私は叔父様の策略に乗ります」
「でもッ、お父さんは命さんを利用するって!」
「利用する?えぇ、結構です!!私が勝君と家族になりたいと願った、この気持ちには嘘も偽りもありません!私は勝君と家族になりたい!!」
フンスと胸を張って、勝君を抱き締める。
「ロングコートのお兄さん」
「あたしは阿紫花英良ですよ、お嬢さん」
「あしはなさん、私にも雇われて下さい」
「……お代はいかほどいただけるんで?」
「私の、全部をあげます」
「ソイツは結構。喜んで引き受けやすよ。お嬢さん」
そう言って「あしはなえいりょう」さんは笑った。
私は負けません。
私は才賀で糸色なんです。お父様とお母様の娘として、勝君のお姉ちゃんてして、絶対にこんな悪いことを考えた叔父様の策略は壊します!!