「あの屋敷以来になるな。黒賀平助だ」
「黒賀って、阿紫花のお兄さんの?」
「あたしの従兄弟でさ。お嬢さん」
ピッタリと私の事を後ろから抱き締めてくれるお兄さんの反応にドキドキしていたその時、スンスンと鼻を鳴らして彼のコートや身体を嗅ぐ。
なんだか香水の匂いがします。しかも女の人の臭いもしますし、まさか私にあんなことをしたというのに浮気したんですか?
そう訴えるようにお兄さんを見上げる。
「ソイツ、フランスで雌と交尾してたぞ」
「お兄さん!!」
「ああ、いや、アレは男の性で…」
「巓、流石に可哀想だろ。今のは」
黒賀と名乗った男の人は浮気した阿紫花のお兄さんを肯定しようとした瞬間、髪の毛の中に包み込まれて、何かを貪るような、まるで啜るような、そんな音だけが聴こえて来ました。
「ぐふぅ…」
「フン。浮気は悪だ。命、言い忘れていたがこの平助は私の夫だ。お前も早く十六歳を迎えて、その男と婚姻を結んでしまえば浮気を押さえ込めるぞ」
「こんいん?……巓ちゃんが、お嫁さんに?」
あの結婚を申し込んできた親戚の男の人達を「ムカつく」や「不快」というだけで蹴散らしていた巓ちゃんが、この噛み傷だらけの人と結婚する。
「ふぐっ、よがっだよぉぉ……!」
「泣くな。馬鹿者」
「だって、ずっと巓ちゃんは叔母様と叔父様の二人と完結した世界に生きていたから、ずっとずっと傍にいるのに通じ合えている気がしなかったから……」
そう言って私は巓ちゃんを抱き締める。
「全く私が着た意味がなくなるだろう」
「……ッ、そうだ!鳴海お兄さん達がフランシーヌ人形の破壊に行っているんです!」
「急いでフェイスレス司令に届けなければ」
「
ピタリと私達の足が止まり、巓ちゃんを見る。
「ど、どういうことですか?」
「明治時代にフランシーヌ人形は日本で破壊された。お前達は知らされていなかったのか?」
じゃあ、じゃあ、私達が戦っている
「フェイスレス司令に聞けば分かる」
「キナ臭いですがね」
「巓、マジなのか?」
「嘘は言わない」
不安と恐怖に襲われながらもワンちゃんに案内して貰いながら暗い道を進んでいると血の臭いが濃くなってきて、巓ちゃんの纏う威圧感が増す。
近くに、誰かが居るんだ。
ゆっくりと深呼吸を繰り返す。大丈夫、阿紫花のお兄さんもいるんだから何も怖くない。