阿紫花英良と名乗ってくれたロングコートのお兄さんの操っている懸糸傀儡「グリモルディ」の右腕の中に抱かれ、ものすごい振動と揺れに口を押さえながら銃弾を物ともせず、走り抜けるグリモルディの強度に驚く。
「坊や、お嬢さんをしっかり持ってな!」
「うん!」
私の身体を掴んで落とさないように抱き締めてくれる勝君の身体とグリモルディの腕を掴み、お兄さんが十指を巧みに結い、跳ね、曲げ、弧を描き、美しく人形を操っている姿に思わず、私は見惚れてしまう。
ガラガラと私が足を乗せている戦車や工事現場の重機にも付いている長細いキャタピラが回転回数を引き上げ、階段を破壊しながら昇っていき、壁を突き破った。
カメラやテレビ、見たこともない機械が溢れた部屋に入り、気持ち悪さに吐きそうになりながら、グリモルディの後ろに回って口を押さえる。
「ま、勝…!それにぶっ殺し組のヤツまで」
「兄さん方、あたしらを嵌めようとしたんだ。覚悟ってヤツは良いかい?」
「お兄さんっ、この屋敷のからくりと暴れてる人を止められるでしょ!全部、これはお父さんが僕らを使って悪いことをしようと仕組んだ事なんだ…!」
そう言ってスーツ姿の男の人に駆け寄る勝君。
お兄さんと呼ばれた男の人は悔しそうに顔を歪め、私に気が付いて笑みを深めたその時、パンッ!と乾いた音が響き渡った。
「え?」
「痛ってぇなァ……こんなに痛てえモンがか弱いお嬢さんに当たったらどうする気だったんですかい?」
しかし、彼の撃った銃弾は私に当たることはなかった。大きくて温かい人に包まれたおかげで、私の命を容易く奪える一つの銃弾は当たらなかった。
「あ、ありがとう、ございます」
「何、気にしなさんな。
その言葉に私は顔が熱くなり、私を見下ろす阿紫花英良のお兄さんの顔を見ることが出来ず、イビツで嫌な音が聴こえてきて、ようやく意識が現実に戻る。
慌ててお兄さんを押し退け、勝君に視線を向けるとパンチをした格好のまま動きを止めて、ものすごく怒っている勝君がそこにいた。
「よくも、よくも命さんをうったなぁ!!」
「ご、このクソガキィ…!愛人のガキの癖に180億を独り占めしやがったクズがッ、お前の頼みなんで誰が聴いてやるかよぉ!!お前達、この屋敷にやって来た侵入者を全員殺せ!!」
「なッ、ヤロウ…!」
「しろがね、鳴海兄ちゃん!」
テレビに映る二人に人形を差し向ける光景にお兄さんと勝君が悲痛めいた声を上げたその時、漆黒の中に一滴落とされたような純白が人形達の腕を切り落とした。
『下物の分際で私を殺すだと?笑えもしない冗談を言う暇があるのなら、死ぬまでに命乞いの言葉でも考えておけ。銀の女、白猩々、お前達も弱いなら足掻かず、家で座して待っていろ』
『誰が弱いってェ!?三度目だが口の悪さはどうにかならねえのかチビ!』
『お坊っちゃまを助けるのは私だ!お前に言われて黙って待っているわけがないだろう!』
「だ、だれだ、この女は…」
「秋葉巓。私の従姉妹です」
「糸色ッ、またお前らが出てくるのか!」
忌々しげに私を見つめる男の人が拳銃を突きつけようとした瞬間、勝君と阿紫花英良のパンチが同時に彼に叩き込まれ、今度こそ完全に倒してしまった。
『命、別館の屋上に私は向かう』
「はい。来てくれてありがとう、巓ちゃん」
『様を付けろ、愚図め』
その言葉にしょんぼりとする。