「ゔっ、に、二度とタクシーなど乗るものか」
口許を押さえる私を心配する才賀勝と一緒に焼き崩れ、辛うじて面影を残す屋敷の跡地を見上げていたその時、人の気配を感じる。
三人、いや、五人か?
それなりに手練れを集めているようだが、私を狙っている訳ではない。焦燥しきった正義感を感じる。ある種の英雄願望に近い感覚も混ざっている。
成る程、狙いは才賀勝というわけか。
「ちょっと、こわいなあ……」
「何してんだ、アンタら?」
「うわああああああっ!!!?」
「ッ、近くで叫ぶな」
「ははは、悪かったねえ。あたしはここの管理人を任されてるもんでね。っつって今年の春先に起きた火事でみんな燃えちまったけどよォ」
ケラケラと鎌を持って笑う男に少し戸惑う才賀勝の背中を押してやる。お前は自分を知るためにやって来たのだろう?それなら怯えず、竦まず、前を見据えろ。
臆したなら突き進めばいい。
「な、なんで管理してるの?火事になったのに」
「そりゃあ才賀の前の旦那にお給金を先に貰っとるからなァ。ぼーずと嬢ちゃんが、どうしてここに来たんだあ?」
「ぼくは、その養子なんです」
「……なんだって?名前はッ、ぼーずの名前はなんていうんだ!?嬢ちゃんの名前も教えてくれ!」
「才賀、勝です」
そう才賀勝が答えた瞬間、管理人を名乗る男は慌ただしく彼の手を引いて連れていく。その後ろを私は静かに追い掛けながら、イヤな予感を感じていた。
少なくとも、才賀勝の父親は悪人だった。
才賀貞義。一度、糸色家と才賀家の会合に参加したときに見たことがある。自分自身の理想のために何かを成す相手は幾度と無く見ていた。
しかし、あの男は別格だ。
人としての理を失っている。もはや自己陶酔に近しい妄執に囚われた人間の成れの果て。あんな生き物がいるということを人に生まれて初めて知った。
「(……気配が確信に変わったな。才賀勝をここで殺すという意志も感じ取った。おそらく私も目撃者として殺すつもりなのだろうが……)」
そう思いながら管理人の男が暮らす家に入り、袖の中に右手を差し込み、含牙戴角をいつでも抜けるように準備しておく。
私は才賀勝と管理人の話を聞きつつ、歯車の軋む音を聴く。随分と近くまで来ている。だんだんと読めてきた。しろがねに命令を下した相手は才賀貞義。
そして、その情報を得るために才賀勝を利用しようとしている連中がいるというわけだろう。童を殺してでも得なければいけない情報か……。
少し興味が出てきた。