黒賀の村。
平助の生まれた村にやって来た私はようやく車という不快な乗り物を出ることができ、吐き気と気持ち悪さを堪えながら男達に案内される。
糸色本家の屋敷より小さいが、それなりに広範囲に拡がった敷地を持つ屋敷の廊下を進んでいる途中、既に変装する先を変えているのか。
臭いはするが、気配の場所が変わった。
「才賀勝はどうする?」
「アレは地下牢で様子を見る」
そう言うと私は大広間に入るように促され、命の誕生会で何度か見たことのある男、才賀正二が謎の液体の中に浸かっているのが見えた。
ホルマリン漬けというやつだったか?と小首を傾げながら、左右に別れて正座をする男達の真ん中を歩き、私は才賀正二を見上げる。
「見ない間に随分と変わったものだ」
「君は変わらず、王の様な振る舞いだな」
「フン、王になるのは飽きている。それに少なからず悪くないと思える相手も出来た。ここ、黒賀の村出身の男だとは言っておこう」
「おお、そうか。巓も遂に恋人ができたのか」
「いや、アレは私の夫だ」
私の言葉に目を見開く才賀正二。
コイツも私が結婚することに驚くタイプかと少しばかり不満に思いながらも液体の中に浮いている才賀正二は、私に命や別の誰かを重ねて見ている。
「糸色景に似ているか?」
「面影はあるが君は君だよ。彼女達は確かに良くしてくれたものだが、此方の事情に巻き込んでしまったのも事実ではある」
実際はゲインという男が機巧人形の知識を盗んだ挙げ句、才賀の作っていた人形にも手を出していたという話だろう。少なくとも、私ら知っている。
しかし、フランシーヌ人形を破壊していた事を告げずにいた理由は別に感じる。それに、この部屋に私の関節を外して倒そうとした男がいる。
どの男かは分からないが、才賀正二の事を狙っているのは事実だろう。守り通すべきか、それとも私は静観し、才賀正二のやりたいようにさせるべきか。
「正二、お前はそれでいいのか?」
「……君は本当に見透かすな。構わない、私が選んだ道は何も間違っていないのだからな」
そう言うと静かに笑う才賀正二に私は呆れたように溜め息を吐き、背中を向けるように水槽に背中を押し当て、背後から攻撃を受ける事を防ぐ。
あのとき、私に攻撃をしてきたのは一人だ。ここまで広い場所なら背後を警戒するのは当然のことだが、一人だけ私に不埒な目を向けている。
全く、私は人妻だぞ。
……糸色景も似たことを言っていたな。クク、ずいぶんと私も人らしくなってきた。いずれ人としての在り方を完璧に行えるだろう。