「いやー、参った参った。こんなに慕われて本当に不愉快だよ正二」
「お前が人望無いだけだろう」
「人望なんて幾らでも植え付けることは出来るさ。まあ、糸色なんていう五百年近く世界中の知識を集める集団に関わったことが失敗だったぜ」
そうふざけたように話すフェイスレスもしくはディーン・メーストル、あるいは才賀貞義、もしくは白金という人格の男を睨みつつ、固められた髪を妖気で熱する。
傷んだ分は妖気を栄養分に変えれば問題ない。
しかし、女の髪を何だと思っているんだ。
「巓、お前は下がってろ」
「ふざけるな。私がッ……分かった」
殺意に満ちた眼差しと怒りの感情を纏う平助に驚きながら私は静かに後ろに下がり、男のしろがねと一緒に戦うことを選んだ平助の背中を見据える。
「フェイスレス、お前に潰された指の敵討ちだ」
「ん?あー、ああっ!居たね、僕が実験していたときに運悪く巻き込まれた黒賀の若き天才人形遣い。確かに僕が潰した、あの時は楽しかったなあ……♪︎」
フェイスレスが、ニタリと嗤った。
───刹那、怒りと殺意を纏った平助の半歩ほど踏み込んだ一撃が無造作にフェイスレスの鳩尾を打つ。鈍く重々しい重低音の響き、金属のひしゃげる音だ。
「グッ、まさか生身で金属を砕けるのか!?」
「テメェみたいに外見だけ繕ったヤツと心血注いで鍛えた肉体のどっちが強いのかなんざ見てみりゃ簡単に分かるだろうぜ。なあ、ギイ!」
「全くイノシシマン二号の相手は疲れる。だが、ヘースケの言っていることは正しいだろう。貞義、お前は剣を使う正二に負けたことを忘れたのか?」
そうなのか?と才賀正二に目配せすると頷いた。成る程、あの十字傷の男か、糸色姿に近い強さを持っていたというわけか。
少々惜しいことをした。
動けるときに戦っておけば剣士を相手にした経験を得ることが出来たのだが、まあ、今更考えても仕方ない。今は平助としろがねの戦いを見ていればいい。
「まあ良いさ。僕の勝利は勝を連れて帰る事だ」
「────だ、そうだぞ」
「行かないッ、僕は僕だから!」
私が才賀勝にそう言えばハッキリと自分の意思を話し、フェイスレスの言葉を否定した。やはり、そういう事をさせるのは本人が一番だろう。
「正二、武器はあるか?」
「下段の棚に刀がある」
「才賀、お前が持っておけ」
髪の毛を使って二本の刀を拾い上げ、才賀勝に放り投げる。人形遣いだが、刀も使えば問題ない。相楽左之助も使えるものは何でも使っていたからな。