「で、用件は何だ?」
しろがねを仲町の待つサーカスに帰し、私は黒賀の人間の用意してくれた客室で羽虫と向かい合う。あまりコイツの事は好きになれない。
そも何を考えているのかも分からないのが、一番の原因ではあるけれど。コイツは命に余計な物を送りつけ、アレに負担を掛けている。
殺意を抱くのは仕方ない事だ。
───だが、羽虫のおかげで命の生きる道は見えている。ハッキリとは言えないものの、コイツは未来の出来事を知っているように行動している。
ただ、どうしようもなく不愉快だ。
百年か二百年程度しか生きていない羽虫に我の生を委ねるなど怒りが沸いてくる。いや、それすらも利用して私を動かそうとする男だったか。
優雅に紅茶を嗜む羽虫に髪の毛を向けたその時、しなる鋼鉄の鞭が私の髪を締め上げる。白を基調とした軍服めいた衣服を身に纏い、私の背後に立っていた。
ホムンクルス。
なり損ないの塵が、また増えたのか。
「陣内君、感謝するよ」
「マスターの父君を守るのは当然です」
「うむ、やはり息子は良き友人を得ている」
刹那、イビツな音波が聴こえる。
「催眠術の類いか?私には効かない」
「流石、糸色家の御息女様だな」
そう言うと鋼鉄の鞭は掌大の六角形の金属に変化し、「じんない」と呼ばれた男は静かに客室を出ていく。あの道具も羽虫の関連するものか?
「そう心配しなくて大丈夫だと思うよ。命君と巓君、君達の身に降りかかる最悪は今のように秘密裏に片付けるつもりだ」
「恩を売り付ける気か?」
「その質問の答えはNOだ。糸色君と約束しているんだよ、君の子供達を手助けするとね」
…………嘘は言っていないということは分かる。
しかし、今まで私の傍に来ては面倒事を押し付けていた事実は払拭する事は出来ない。そもお前は何度私に迷惑を掛けていると思っているんだ?
「それで、本当の用件はなんだ?」
「とある道具を返して欲しくてね」
「命の発明品だ。お前に渡すつもりはない」
「元は私の物なんだがねえ」
困ったように笑う羽虫に舌打ちをしながら、思考を読んで道具を投げつける。全く壊れた機械を直すことに意味があるとは思えないけれど。
ゆっくりと私も立ち上がって、命の気配を追うために尾を浮かせてそれに腰掛ける。あまり人に見られるのは好ましくないのだが仕方ない。
「ああ、それと巓君」
「今度はなんだ?」
「平助君と結婚おめでとう」
思わず、キョトンとしてしまった。
いや、そうだったな。そうだ、私と平助はまだ結婚して日は浅く、まだまだやることは多く残っているという事実を思い出した。