東京まで帰り、才賀家の命の部屋に中に入る。
「命、帰ってきているなら連絡を寄越せ」
「巓ちゃん?」
ドアを開けた私を見るために振り返った瞬間、眼鏡を掛けた命の姿が糸色景と重なる。全く、私も未練がましく彼女の事を求めている。
いや、彼女の愛を求めていた
不愉快ではないが、愉快でもない。
「また発明品を作っているのか」
「うん。鳴海お兄さんの手助けをするなら、せめて武器になるものを持っておきたいから」
「下らん。もはや相手は人形ではないぞ」
「……分かってますよ、フェイスレスでしょう?」
そう言って私を見上げる命の目は迷いも憂いも悔いも無い純然たる『慈悲』の感情に埋め尽くされている。老いる事を恐怖するガラクタ達に出来ることなど無い。
────あるのは、ただ破壊する意思だけだ。
「命、第三巻だ」
「フフ、やっぱり巓ちゃんだったんですね」
「ちゃん付けは止めろ。人妻だぞ?」
自慢げに指輪を見せる。
「良いなあ……」
その呟きは諦めを孕んでいた。
「許せ。お前もなれる」
「ほんとう?」
「私が嘘を言ったことはあるか?」
「ううん、ないよ」
どこか幼さを感じる言葉遣いにクスリと笑ってしまう。普段は丁寧に喋ることを心掛けているが、本来の命はこうして言葉を交わす。
無理に大人の真似をする必要は無いのに、だ。
「あの男とはまだ連絡しているのか?」
「てるばん?というものを貰いましたから」
てるばん?
私と命は顔を見合わせながら小首を傾げる。初めて聞く言葉だが、何かの用語なのは確かだろう。しかし、なんの用語なのかは分からない。
まあ、今は関係無い事だ。
「加藤鳴海はどうした?」
「しろがねさんのところです。記憶はまだ戻っていないけれど、会えば何か切っ掛けにはなると思うんだけど。巓ちゃんはどう思う?」
「知らん。当人の勝手だろう」
「もうっ」
私に不平不満を言おうとする命の額を指先で弾く。「ひぃん」と鳴く命に、くつくつと笑いながら「お前は自分の事だけ心配していればいい」と告げる。
「むう、どうしたら良いんですか?」
「私はお前の意思を尊重している。本気ならお前の意思を奪って人形のように扱っている」
「……フフ、嘘じゃないんだなあ」
「言っただろう?」
「うん。だから巓ちゃんは安心できるだよ。大好き」
「知っている」