髪の毛の束を四本に絞って攻撃を開始する巓ちゃんの白い毛先を滑るように扇子を開いて流し、地面を突き刺す髪の毛が拡散して蜘蛛の巣のように私を囲う。
「…ちょっと本気すぎるよ?」
「脱してみろ。命」
その言葉に私は深呼吸を行い、扇子を閉じる。私に出来ることは何でも出来るようになりたい。みんなの役に立てるなら、全てを使いこなす。
「糸色命、参ります」
「クク、来ませい」
クイと大胆不敵に笑みを浮かべて手招きをする巓ちゃんに向かって駆け出す。学校の体操着を着ている分、私の方が機動性は上です。
緩やかに駆け出す私に四方八方・前後左右上を覆う髪の毛の針撃を扇子の起こす風力で往なし、逸らす。私の扇子は発明品『バショー扇』。風力を自由自在に扱え、武器として使えるように改良したものだ。
両の手の扇子をひろげて、しろがねさんや勝君が人形を操るときに行ったように頭上で両の手を交差させ、一気にX字を描くように扇子を振り落とす。
その風は不可視の斬撃として前を穿つ。
「……鎌鼬の要領か?」
「はい、御明察です。私の舞踊は風を操作します」
───故に、こういう使い方も出来る。
『バショー扇』の風力を底上げし、つむじ風を生み出す。手数は億万本の髪を操る巓ちゃんには敵わないけど。それでも一撃の突破力なら負けません。
「かつて風を使う女の妖怪がいた。アレは随分と一人だけの自由を求めていたが。命、お前も長らく不自由に縛られていたな」
「……えぇ、そうですね。それでも甲乙付けがたく幸せと思える殿方に出会うことは出来ました。良くも悪くも私は満足する人生を歩んでいますよ」
「そうか。───ならば、憂いはない」
そう言うと巓ちゃんの髪の毛は元に戻り、静かに笑った。良かった、ちゃんと認めて貰えたんだ。……でも、風を使う女の妖怪とどこであったのかな?
巓ちゃんの言葉に小首を傾げながら、どういう人だったのかを訊ねたい気持ちもあるけど。巓ちゃんのお友達に悪い人はいないから大丈夫ですよね。
「しかし、刀や槍は使わないのか?」
「……重くて持てないんです」
「非力な愚図め」
「うぅ、私だって使えるなら使いますけど。鉄製のものは重くて本当に持てないし、体幹が良くても振り続ける体力も無いんですよ?」
「あれだけ動けるのに難儀な身体だな。いっそのこと私が余計な部位を喰ってやろうか」
たまに「喰ってやろうか」という冗談を言う巓ちゃんに苦笑を向けつつ、彼女の頬を軽く掠めて出来た傷を『癒やしの力』で治してあげる。