阿紫花のお兄さんの暮らすホテルに出向き、コンコンコンとドアをノックする。しかし、いっこうに開けて貰える事はなく留守なのだろうかと小首を傾げる。
いえ、もしかしたら何かあったのかもと思い、発明品『通り抜けフープ』を使ってドアを潜り抜け、そのままベッドの方に向かおうとしたその時、腕を掴まれて壁に押さえ込まれてしまう。
「痛っ、痛いですッ…!」
「っと、その声はお嬢さんですかい?」
「は、はい、才賀命です」
コクリと頷くと腕と首を押さえていた手が離れ、恐る恐る後ろに振り返ると腰にバスタオルを一枚巻いただけの阿紫花のお兄さんが佇んでいた。
「い、いやああぁぁーーーーっ!!?」
「ちょ、しずぶへぇっ!?」
バチィンッ!と彼の頬を思いっきりビンタして、吹き飛ばしてしまった。はじっ、初めて男の人の裸(上半身)を見てしまいました。
ど、どうしましょう。どうしましょう。
こ、こういうときは何をすれば良いんでしたっけ?と頭の中がグルグルと回り始めて、どうすれば良いのかが思い出せず、お兄さんに背中を向けて、ペタンとその場にへたり込むような腰が抜けて、座ってしまう。
「イテテ、そりゃあないですぜ」
「ご、ごめんなさいっ、でも男の人の裸なんて初めて見たから…」
「あ、あー、そういや箱入り娘でしたねぇ」
「箱入り…なんでしょうか?」
そう背中越しに訊ねる私に「そうですよ。お嬢さんはこんな悪い、あたしに付いて来ちまうぐらい世間知らずの箱入り娘なんでさ」と言って笑った。
むっ、笑わなくても良いじゃないですか。
「それで?お嬢さん一人だけであたしのところにやって来た理由は何ですかい?」
「お話しです」
「……クッ、ハハハ!お嬢さんは本当に怖い物知らずですぜ。話するために男の部屋に来るなんざ相当の覚悟がいるもんなんですがね」
「そうなんですか?」
私は着替え終わったという阿紫花のお兄さんの言葉を信じて後ろに振り返る。シャツとズボンを履いた姿に安堵の吐息をこぼす。
さっきのは不可抗力だと分かっています。
……それにしても、ホテルに泊まっているのは知っていましたけど。人形も何も置いていない借りていたときから使っていないものばかりですね。
「阿紫花のお兄さんは」
「英良。教えたでしょう?」
「……え、英良さんはあの後無事でしたか?」
「えぇ、それなりに大変でしたが無事ですぜ。なまじっか人形を使いなれてた分、爆発に巻き込まれる前に逃げられましたし。お嬢さんと別れた後も、それなりにジョージと過ごしてましたから」