阿紫花のお兄さん……英良さんと手を繋いで歩きたいけれど。彼の負担になりたくなくて、一緒に並んで歩くことが精一杯です。
「お嬢さん、何処に行くつもりですかい?」
「私の借りた工房です」
彼の問いかけに答えると同時に大きな倉庫を見上げる。お父様にお願いして譲って頂いた使われていない工場に入り、今まで作ってきた発明品の試作品を厳重に管理している場所を通り抜ける。
ただ、ここに英良さんを案内した理由は別件です。ワイヤーで吊るしている全長3mを優に越える巨大な機巧人形の一体であり、英良さんに譲った次郎丸の後継機だ。
「こいつは、弁慶丸!?」
弁慶丸。
次郎丸と同じく黒賀の里に伝わっている伝説の機巧人形の一体であり、初期型の太郎丸はバランスに特化した鎧武者。中期型の次郎丸は機動性に秀でていた忍者。そして、後期型の弁慶丸はパワーに秀でている。
「えぇ、機動性に秀でていた次郎丸では次の戦いは厳しいと考えました。貴方の腕前なら確実に操ることは出来ます、どうか此方も受け取って下さい」
そう言って弁慶丸の体躯に合わせて作った旅行鞄を英良さんに差し出す。───すると。少し、戸惑いながらも彼は弁慶丸を受け取ってくれた。
ああ、良かったです。
これで彼が死ぬかも知れないような危機を防ぐ事は出来ます。巓ちゃんは自然体のまま過ごしているけど、私は何かしていないと不安になる。
「しかし、本当にあたしなコイツを譲ってもらうにしても『しろがね』の兄さんらは良いんですかい?」
「彼らは各々の人形を改良しているそうなので、私が勝手に仕上げたものを使ってくれるとは思えませんし。それに次郎丸も酷使していましたから、メンテナンスをしないといけないのですから」
私の言葉に納得してくれた英良さんは次郎丸を納めた旅行鞄を一時的に返却してくれ。私は弁慶丸の操作を始める英良さんから離れ、沢山の敵と戦ってくれた次郎丸のメンテナンスを開始する。
正直、このまま寝かせてあげるのがベストなのでしょうが、まだ戦えるという意志を感じる。人形は人を映す鏡とは言いますけど。
本当に意志を持ったらすごいですね。
……べつに
「お嬢さん、七つ道具に変なのが」
「なにかダメでしたか?」
後ろに振り返ると大太刀と棍棒を構える弁慶丸がいた。
こわいですね。