平助の事を仕置きした翌日。
私の事を探っている男の話を平馬に聴かされ、不審に思いながら男の待っているという喫茶店の扉を開け、カランカランと心地好く鈴の音が鳴る。
「いらっしゃい」
「一名だ。いや、先客の男が居ると聴いてきた」
そう喫茶店のキッチンでガラス製のカップを丁寧に磨いている店主に告げると、奥の席を指差して教えてくれた。全く不用心な店主だ。
偽者とは思わないのか?と思いつつ、店主の指差した向かい合う席に腰掛けた男を見下ろす。端正な顔立ちだが、蠱毒のような気配を放つ男だ。
「よう。待ってたぜ、秋葉巓」
「……楯敷ツカサ、命の次は私か?」
ガラクタ共の降伏を聴けるのかと期待していたのだが、随分と退屈しのぎになりそうな相手だ。少なくとも私の全力を耐えきる力は有している。
「命の事は諦めてねえさ。あの力は本来オレの物になるはずだったんだよ、ちょっとした手違いかイタズラで移動していただけだ」
「フン。無い物ねだりか」
「ソレをお前が言うのかよ、白面の者」
「貴様ッ…!」
髪の毛を伸ばそうとしたその時、右手首に何か重いものが嵌まる感覚────右手首に御鬼輪が嵌まり、ジャラリと首に勾玉と霊気を込めた
チッ、罠に嵌まったのは私の方というわけか。
「そう怖い顔するなってオレは話したいだけだし。おやっさんも子供に酷いことする大人じゃねえよ」
「こいつはサービスの珈琲だ。悪いな、お嬢ちゃんに酷いことするつもりはねえから」
「だまれ、糟が」
「カスってヒデぇな。おじさんには立花ゲンジロウという立派な名前があるんだぞ?まあ、ただのしがない喫茶店のマスターだけど」
そう言うと店主は「たはは、泣けるねえ」と嘯き、珈琲豆を挽き始める。コイツらの目的を知るのが先か、私が抵抗できずに終わるのが先かだな。
「私に何を聴きたい?」
「ちょっとした提案だ。秋葉巓、お前もオレの仲間にならないか?元々最強の怪物だったお前の力を、オレなら取り戻してやれる」
「何かと思えば下らん。私は蒼月潮と糸色妙に敗れた、もはやあの時に白面の者は終わっているのだ。今更人の身を捨てて妖怪に戻るなどするものか」
「ツカサ、オレの言った通りだったろ?」
「流石に予想外だった。敗けを認めるのか」
静かに呟いた楯敷ツカサは「もうお前はラスボスを降りたんだな。誘って悪かった」と言い残して、店主と共に喫茶店ごと消えてしまった。
「待て!この塵は外してっ……!」
この世から消えたか?
「…………御鬼輪と言霊の念珠、私では外せぬか」
平助に頼むか。
そう考えながら鍛練を続けている平助の元に向かい、二つの呪縛を外すように伝える。しかし、平助は御鬼輪のほうは知っているが、言霊の念珠を知らないようだ。
「有り体に言えばコイツは強制命令権だ。もしもお前が『秋葉巓、犬になれ』と言えば私は地面に伏すか、犬の真似事をお前が許可するまで続けることになる」
「……巓が、犬みたいになるのか?」
「ん?ああ、命令すればだがな」
なんだ、その目は?