ようやく鳴海お兄さんが勝ったと安堵したその時、五重塔が傾き、私達は木の床を滑り落ちていく。手を何かに伸ばすも私が掴めるものは近くにない。
「っと。気を付けて下さいよ、お嬢さん」
「あ、阿紫花のお兄さん…」
「アンタはあたしの報酬なんですぜ?」
「は、はい」
次郎丸とお兄さんに抱き締められながらドキドキと痛いほどに高鳴っている心臓を押さえるように手を添え、斜めに傾いたまま動かなくなった塔に、ほうっと息を吐いて壁に降ろして貰う。
巓ちゃんが勝君を守ってくれたけど。しろがねさんの両足が崩れてきた天井に挟まれ、どくどくと血を流しながら宙吊りになってしまっている。
「しろがね!」
「馬鹿野郎ッ、俺を庇いやがったな!?」
「お前など庇っていない!偶然お前にぶつかってしまっただけだ!」
「お二人さん騒ぐより逃げる場所を探してくだせえ。お嬢さんも煙を吸わないようにハンカチかスカーフを口に当ててしゃがんで貰えやすか?」
そう言って二人の口論を止めるお兄さんから少しだけ離れて、巓ちゃんと勝君の傍に寄って「もう大丈夫だからね」と彼を安心させるように話し、壁を破壊して飛び下りることは出来るのかを話し合う三人の声を私達は黙って聴いている。
「次郎丸の
「阿紫花、お前がロープを切らねえ保証はあるのかよ。俺もしろがねもそう思ってる。お前はどうにも信用できねえってな」
「それなら私が一緒に行きます。それなら鳴海お兄さんも大丈夫ですよね?」
「それに、あたしは坊やとお嬢さんを助けるように10億とお嬢さん自身で雇われたんでさ。仕事はしますぜ、兄さん」
「ちっ。なら俺からも頼むぜ、報酬は10円だ!コイツらをきっと助けてくれ、しくじったらぶっ飛ばすぜ」
「まかしてくだせぇ。お嬢さん、あたしに手を」
阿紫花のお兄さんの言葉に頷き、勝君の事を鳴海お兄さん達に任せて飛び上がり、真向かいに生えた木に抱きつき、ロープを急いで巻き付ける。
よし、これなら大丈夫!
そう思って呼び掛けようとした次の瞬間、爆発が起こり、私も知らない人形が勝君を火の中に引きずり込んでいくのが見え、巓ちゃんに助けを求めようと探すも彼女は中庭の地面に倒れていた。
まさか、さっきの爆発で?
「お兄さん、ごめんなさい!」
「こんな高さから飛び降りたら骨折じゃ済みませんぜ!あの髪のお嬢さんが素直に落ちるとは思えねえ。多分、無傷の筈ですから大人しくしてて下さいよ」
諭すように言葉を続けるお兄さんに唇を噛み、何も出来ない自分の不甲斐なさにうつ向きながら、悔しそうにロープを渡ってきたしろがねさんを抱き締め、落ちないように受け止める。
大丈夫、勝君達は生きている。
それから数時間後。
火災を通報して集まってきた消防隊の消火活動が終わる頃には朝を迎えて、鳴海お兄さんは勝君を片腕になるまで、自分が死んでしまうのも構わず、私の「勝君を助けて欲しい」という約束を守り通してくれた。
────けれど。
そのお願いが勝君を傷付けてしまった。