命の病室に向かう途中、喫茶店を見付けた。
「……あの時の珈琲の匂いか」
スンと鼻を鳴らして、私はニュートンアップル女学院の制服のまま喫茶店のドアを押して中に入るとコーヒーミルを回し、ゴリゴリと豆を挽く音が聴こえてきた。
「いらっしゃい。二度目の来店だな」
「あの不埒者はいないのか?」
「ツカサならガレージで変身道具とバイクの整備中だが、お嬢さんが来てるって呼んだ方がいいか?」
「いや、呼ばなくて構わない。この前は飲みそびれたからな、美味かったら母にも勧めたい」
「そりゃあ頑張らねえとな」
私の言葉に笑みを浮かべた男(谷ゲンジロウだったか?)は手慣れた動きで珈琲を作っていく。ついでに命に珈琲でも持っていってやろう。
未だに珈琲を飲めないアイツも大人ぶって飲むに違いない。クク、珈琲の苦味に苦しんでいる姿を想像するだけで面白い愚図だ。
「オレの特製ブレンドだ」
コトリとソーサラーと一緒に差し出されたコーヒーカップを見下ろす。豊醇な香りだが、しつこくない。味も苦味や酸味に違和感は無い。
────だが、味はしなかった。
「香りはするのに無味だな」
「ありゃ、また間違えたか?」
「失敗作を提供するな、馬鹿者」
私は呆れながらもコーヒーカップを手に取り、静かに飲んでいると作業着姿の男が階段を降りてきた。しかし、汗臭さとオイルの臭いに顔をしかめる。
最近、
「秋葉巓、来てたのか」
「寄るな。臭い、汚ない」
「酷いヤツだな。おやっさんもそう思うだろ?」
「衛生面で訴えられたら終わりだ。さっさと風呂入って身綺麗にしてこい。悪いな、お嬢さんみたいな可愛い子にあんな臭いのを近付けて」
店主の謝罪を受け入れる。
「お袋さんに宜しくな」
「ああ、次は一緒に来る」
その時にさっきの男は殺す。
平助に会ったときに浮気したと思われたら嫌だからな。それに、アイツの自分は強いと思っている態度が気に食わない。
……同族嫌悪の類いか、これが?
「命、会いに来たぞ」
「巓ちゃん、寄り道してましたね」
「チッ。立地的に見えるか」
「フフ、今度連れていって欲しいです」
「断る。お前の力を狙う糟の掃き溜めに、どうして餌を連れていかないといけない。守りながら戦えなんていう面倒事をさせるつもりか?」
「むう。ただの従姉妹の交流です」
むくれる命に「珈琲豆は貰っている退院したら飲んでみろ。お前でも飲める無味の珈琲だ」と言えば困惑し、私と紙袋を交互に見比べる。