「はい、はい、分かりました」
入院生活が再開して二週間ほど経過した頃、私は深夜零時を過ぎたときに唐倶利武者の目撃情報を手に入れたという連絡をフウ・クロード・ボワローから受ける。
ゆっくりと受話器を戻して病院の廊下を歩く。
目撃された彼の様子はやはり少し可笑しかったそうだ。真夜中のサーカスの天幕の中、アルレッキーノと最後まで一緒に居たことは知っているけれど。
無事に逃げていると信じていた。
いえ、そう信じたかったというべきですね。おそらく唐倶利武者はフェイスレスによって改造を受けているという最悪の事態を頭の隅に追いやる。
「…………唐倶利武者?」
カラカラと車輪の回る音が聴こえる。
「お命、頂戴致す!」
後ろに振り返ると私の知っている唐倶利武者よりも巨大に変貌し、太郎丸のように改造された二本足の唐倶利武者がいた。車輪の付いた足ではなくヒト型の足だ。
しかし、足裏にホイールを搭載しているらしく、ローラースケートのように唐倶利武者は駆け出してきた。
「ころばし屋さん、彼を倒しあぐぁッ!?」
「お命頂戴致す」
「あがっ、ごぐっ…ぇ゛あッ?!…」
何の躊躇いもなく一切の加減もなく振り抜かれた刀にコインを切り裂かれ、私は首を掴まれる、ミシミシと絞まる首に苦悶の声を上げ、意識が飛びかける。
────死ぬ。首がおれてっ……!
そう思った次の瞬間、私は冷たい床に叩き落とされ、唐倶利武者の身体が真横に傾き、彼の大きな身体に向かって飛来する大きな背中が見えた。
「命っ、怪我はないか!?」
「おどっ、ざま゛……ッ?」
「貴様、私の娘に何をしようとした!」
そう言って私の事を抱き上げてくれたのはお父様だった。どうして、この病院にお父様が?と困惑しながらも安堵してしまう。
「お命頂戴致す」
「貴様、人形か?……命、少し待っていなさい」
スーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイを解いて傷のある右拳に巻き付けるお父様の背中を、ぼんやりと見つめながら「ゼヒュッ…ゼヒュッ…」と気管が歪んでイビツな呼吸音が私の口から聴こえる。
「頂戴致す!」
「噴ッ!!」
唐倶利武者の放つ振り下ろしの刀をお父様はネクタイを巻き付けた右拳によるアッパーカットで柄の部分を殴り潰して唐倶利武者の指を砕く。
ゆっくりと弓なりに右腕が引き絞られる。
「私を誰だと思っている」
───刹那、ミシリと拳が唸った。
「私は才賀善治だ」
ただの大振りのパンチが唐倶利武者の頭部を殴り砕き、見慣れた仮面がひび割れ、唐倶利武者の動きは完全に停止してしまった。
ごめんね、あとで直してあげるから……。
「命、パパに掴まりなさい」
「ばい゛っ」
「ああ、かわいそうに。鈴のような声が」
さっきと違って、また優しいお父様に戻った。
カタカタカタ……!
「ムッ。まだ居るのか!?」
「ぞどへ…ッ」
私は、血を吐きながら外を指差す。
「命、暫く我慢するんだぞ!直ぐに類のところに連れていってやるからな!」