「気管が歪んでるわね。誰にやられたの?」
屋敷の玄関先で靴を脱ごうとしていたお母様に向かって差し出された私は『癒やしの力』を受けて、身体中に感じていた痛みが和らぐのを感じながら、窓の外を指差す。
お母様の警護をしていた忍者の人達とお父様によって人形達は破壊されていくものの、唐倶利武者を打倒する事は出来ず、みんな攻めあぐねている。
「あの人ったらを無茶して。命、貴方の選んだ男の人もきっと誰かのために無茶をするわ。それでも絶対に助けて支えるのが良い女よ」
「はいっ。あ、こえがもどってる」
「まだ終わってないわよ」
そう言うとお母様は私の身体を抱き締めるように包み、淡い蛍火色の光が私を覆う。本当の『癒やしの力』があればルシールおばあさんを助けることが出来たのに、どうして私には無いんだろう。
羨ましく思った刹那、窓ガラスを壊して屋敷に入ってきた足軽殺駆の身体に無数の穴が出来た。恐る恐る、お母様の方を見上げると、槍を構えていました。
「私達の家宝は北落師門なんだけど。命は蛮竜にも好かれているから大変ね。それに。貴女、重たいものとか持ったり運んだりするの苦手でしょう?」
「はい」
コクリとお母様の言葉に頷いて、私は北落師門を手に取る。蛮竜より軽くて、ものすごく手に馴染む。いえ、馴染みすぎているのです。
これが、糸色家の家宝────。
そう思っていた次の瞬間、轟音と共に天井を突き破って蛮竜が現れた。お家が、壊れていく。そうショックを受けながらもお母様を見ると深い溜め息を吐いた。
「妙のときもそうだけど。コイツ、顔と雰囲気で担い手を選んでいるわね」
お母様の方が綺麗ですよ?と小首を傾げる私に「そうじゃないわ。コイツは糸色景に似ているから貴女を選んでいるのよ」と教えてくれた。
強くてカッコいいお母様が蛮竜を握り、北落師門を握り、足軽殺駆と唐倶利武者を片手間の作業をするがごとく簡単に倒してしまった。
広範囲に及ぶ攻撃はやはり重要なのかな。
それともお母様だから使えることなのでしょうかと悩みながら考え込んでいるとお父様とお母様の話し合う声が聴こえてきた。
移転。
もっと言えば自宅療養をするために設備を寝室に運び込み、私が危ないことをしないように、しっかりと見張ろうとしているのだと思う。
でも、それはダメです。みんなが戦っているのに私だけ安全なところで過ごすなんてイヤです。ひとりでいるのはイヤなんです。
最後くらい、みんなと一緒に居たいんです。