「ミコト、怪我はないか!」
無事にしろがねさんの待っていた部屋に帰してもらえたものの、私の想像以上に最悪の展開です。あのフェイスレスは偽者の可能性も有り得る。
正確に言えば見た目と性能は本物です。しかし、あの生き方や在り方は私の感じていた絶対的な自信と美学を感じさせる物はありませんでした。
変なドレスを脱いで、セーラー服に着替える。
僅かに視線を感じて後ろに振り返るとしろがねさんをフランシーヌ人形と思い込んでいるアルレッキーノ達が私の事を黙って見つめていました。
「何か言いたいことがあるんですか?」
「いや、お前は見た目こそ糸色景に似ているが根底は異なる事に気付いていた。かつて私の片目を奪った糸色姿の愛していた女とは思えない」
「糸色姿様は日本剣豪の一人ですよ」
そう言うとアルレッキーノは「では、相楽左之助もその一人か」と訊ねてきた。相楽左之助様は私と巓ちゃんの高祖父様であり、日本交易の礎を築いた人です。
お父様曰く「百を越える武勇伝は全て実話」という物凄い経歴の方で、特に有名なのは『喧嘩屋』としてのお話でしょうね。
テレビの時代劇や歌舞伎の演目になっているなど本当に偉大なご先祖様なんですけど。私は喧嘩なんて一度もしたことがありませんから、よく分からないんです。
「あまりミコトに近付くな」
「しろがねさん、苦しいです」
私の事を抱き締めて守ろうとする彼女の優しさに甘えてしまいそうになるけれど。何も出来ない私を守るのは得策とは言えない。
せめて工具があれば何か作れるけど。
「暫く席を外せ」
「「「はっ」」」
彼女の言葉に従って三人が部屋を出る。
「しろがねさん、大丈夫ですか?」
私の問い掛けに彼女は頷きながらも疲弊していることは目に見えて分かる。ずっと相手をしていたからすごく疲れているのでしょうね。
ゆっくりとベッドに座り、彼女の頭を優しく抱き締めて、膝枕をしてあげる。安心して下さい。絶対に巓ちゃんや英良さん、鳴海お兄さん達が助けに来ます。
「ミコトは暖かいな」
「フフ、しろがねさんもですよ」
大丈夫、大丈夫、と。
私はしろがねさんに言い聞かせてあげながら、ドライバーがあれば直ぐに脱出できるのにと考えずにはいられない。私がしろがねさんを守らないとです。
あのフェイスレスに絶対に渡さない。
この人は私の大事なお姉ちゃんなんです。
この人だけは絶対に鳴海お兄さんのところまで届ける。そうじゃなかったら、本当に何も出来ないダメな女の子になっちゃいます。