「はあ、はあっ…けほっ…」
ズルズルと壁に身体を擦るようにもたれ掛かりながら進んでいたとき、銀色の髪、銀色のお髭、黒塗りのサングラスを身に付けた壮年の男性が、フェイスレスがもう見えないぐらい霞む視界の中、私の目の前に現れた。
「随分と無茶を繰り返していた様だね」
「うっ、げほっ、はなし、て…!」
今にも倒れてしまいそうな私の事を優しく抱き締めるように受け止め、ゆっくりとお姫様抱っこをするように太股の後ろに腕を通し、彼は私の事を抱き上げる。
ああ、良かった。
この人は劣化コピーされていた人じゃない、ちゃんと貞義のおじ様としての記憶もフェイスレスとしての記憶も忘れていない本物です。
「この危ないものは預かっておこうか」
「っ、だ、め…ゃっ…」
四次元ポケットを奪おうとするフェイスレスの手をもう残っていない力で阻止しようと掴んだ瞬間、口の中に何かが弾き込まれ、ゴクンと呑み込んでしまった。
「今のは増血剤と君の使っている薬の錠剤だ。普段は液体タイプを使っているみたいだが、血も抜けすぎているからね。そのまま暫く安静にしている事だ」
そう言うと彼は私の事を抱き上げたまま歩き出す。昔と同じ、一定のリズムと安心できる歯車の奏でる心音を聴き、私は倒して止めなくちゃいけない人の腕の中で安心してしまっている。
怖い筈なのに安心してしまう。
「今はゆっくりと休むと良い。僕の目的に君は必要不可欠だからね」
「……けほっ、目的って何なんです?」
私の問い掛けに答えることは無かった。いえ、むしろ何かを楽しんでいるようにも見えるフェイスレスに抱かれたまま廊下を歩んでいたとき、大きな玉座の見える部屋に連れて行かれる。
そこには、しろがねさんがいた。
試作型のあるるかんの残骸に椅子に拘束されて動けない彼女の姿に負けてしまったんだと理解し、私は重く苦しい身体をねじり、石で出来た地面に転がり落ちながら彼女の元へと向かう。
「ミコトっ、血だらけじゃないか!!」
「……すこし、発作を起こしただけですから」
しろがねさんの心配するような言葉に素直に答えつつ、彼女の手足と首の枷を分解し、静かに、それでもハッキリと私達はフェイスレスの事を見つめる。
今の分解をする瞬間、わざと背中を向けたのに彼は私を攻撃することはなかった。それどころか黙って私達の事を見据えている。
やっぱり、何を考えているのか分からないけれど。私はしろがねさんに電光丸と、別の発明品を渡して、扇子を構える。『拳法丸』の効果は切れていて、一歩歩くのも動くのももう辛い。
でも、逃げないといけない。