私の身体を操る糸を掴み、動けない私を蹴り、血を吐く私に笑みを向けるフェイスレスの目は曇り一つ存在しない純粋な瞳をしていました。
まるで、自分は正しいと信じているようです。
「エレオノール、命を返してほしいか?」
「ッ、ミコトを物のように扱うな外道が!」
「オイオイ、最初に裏切ったのは君だろう?それに命は五つか六つ前の罪を代わりに償って貰う義務があるんだ。謂わば当然の結果なのさ!」
「あぐっ」
私の頭を踏みつけて嗤うフェイスレス。彼の間合いに踏み込めば溶解液を振り撒き、私を殺すと分かっているからしろがねさんも動けずに耐えている。
……ごめんなさい、私が油断したせいです。
「しかし、こうして眼鏡を掛けて」
コートの内側から古びた眼鏡を取り出すフェイスレスは顔の腫れた私に眼鏡を付け、ザクリと私の後ろ髪を乱暴に切り取ってしまった。
パラパラと目の前に舞い散る、自分の髪に涙を流しそうになりながらも辛うじて動く左手でフェイスレスの足を掴み、キッと睨み付ける。
「ンフフフ、やっぱり癖毛を除けば糸色景と瓜二つ。おまけに同じ病も患っているとなれば世界中にいる彼女のファンは大いに喜ぶだろうね」
「…………貴方の言いたいこともやりたいことももう止められないんですね」
そう私は理解してしまった。貞義のおじ様はずっと私達に隠していた気持ちをようやく教えてくれた。でも、それはとても悲しい事実ばかりです。
「もう、あなたはちがう、ころばし屋さん!」
私の叫び声に隠れて見守ってくれていたころばし屋さんが『石ころ帽子』を脱ぎ捨て、フェイスレスの目の前に飛び上がると同時に右手の空気砲を構えた。
ドカンッ……!!!
「ぐがっ!?」
大きく後ろに吹き飛ばされ、玉座に座るように倒れたフェイスレスから傷だらけの身体を引きずるように離れ、しろがねさんに受け止めてもらう。
「すまないっ、私は何も出来なかった…!」
「フフ、大丈夫ですよ。それより右腕をお願いできますか?流石にこのままじゃ動かすことも出来ませんから、お願いします」
「わかった。痛くても耐えてくれ」
ハンカチを丸めたものを噛み、ゴキンッ、パキッ、と外されていた関節を無理やり矯正し、嵌め込まれる激痛に涙を流しながら耐える。
もう、二度と油断も慢心もしません。
「いやー、参ったね。まさか伏兵の機巧人形を忍ばせているなんて想定していなかったよ、これはギイかあのチンピラの影響かな?」
「…………ちんぴらって、なんですか?」
「あ?あー、箱入りは困るね」
フェイスレスは呆れたように溜め息を吐き、私達に向かって歩き出した瞬間、しろがねさんに抱き上げられ、私ところばし屋さんは廊下を駆け抜ける。