【完結】からくりと踊り謡う薄命の花   作:SUN'S

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命ちゃん視点に戻ります。




夕焼けの愛 急

地鳴りと騒々しい話し声に気持ち悪さを我慢しながら目を開け、巓ちゃんの髪の毛に包まれていた身体を少しねじって彼女の肩口に頭と腕を持っていく。

 

おんぶをしてもらう格好になりながら視線を騒音の原因に向け、私は困惑してしまう。だって、フェイスレスと勝君が戦っているその先に宇宙服を着せられ、手足を拘束されたしろがねさんがいた。

 

「巓ちゃん、勝君を助けに」

 

「ダメだ。アイツは男になろうとしている」

 

「?」

 

勝君は男の子ですよ?

 

私は巓ちゃんの言葉に小首を傾げながら、フェイスレスをだんだんと追い詰め始める勝君の動きに違和感を覚える、フェイスレスと同じ動き────。

 

まさか、もう身体を奪われている?

 

そう不安に思う私に「よく見ておけ。あれが才賀勝の示した勝ち筋だ」と言い、私の不安や恐れを砕くように勝君の工具がフェイスレスの右腕を「分解」した。

 

「クク、演技のヘタクソな男だ。だが、この先はお前の向かうべき場所だ。殿は務めてやる、しっかりと相手してやることだ」

 

そう言うと私の事を二人の戦う場所の近くに降ろす巓ちゃんの言葉に頷き、静かに目の前で繰り広げられる戦いを見つめる。

 

踏み込んではいけない。

 

二人だけの戦いです。

 

『発射まであと6分────』

 

そのアナウンスが聴こえても私は勝君の大きくなった背中を見つめることしか出来ない。強く、本当に強くなって、しろがねさんを守っているんですね。

 

ロケットに飛び込み、しろがねさんを縛り付ける鎖を「分解」しようとする勝君を殴り飛ばすフェイスレス、彼らに向かって駆け出し、ずっと酷使していた壊れかけの心臓がイビツに鼓動を鳴らす。

 

四次元ポケットに仕舞っていた電池切れの電光丸を抜き、力任せにフェイスレスの事を殴り、勝君としろがねさんを守るように狭い室内で構える。

 

『発射まであと3分────』

 

「私の姉と弟を返しなさい、フェイスレスッ!!」

 

「チッ!最悪のタイミングで来たな、命!」

 

「ミコトさん!」「ミコトっ!」

 

「フフ、ハハハハハッ!さっきの一発は驚いたよ、よくもまあ……いや、よくそんな身体で戦えるものだ。右腕は痛み、身体は打撲や切り傷まみれ、おまけに心臓はいつ止まるかも分からない状態じゃないか」

 

その言葉に後ろの二人が息を飲む。

 

「知っていますよ。ですが、糸色景様は言いました。二兎を追う者は二兎とも取れ、と。私は勝君もしろがねさんも諦めるつもりはありません!」

 

私の大切な家族を貴方には奪わせない。

 

「しろがね、ごめん!」

 

その言葉と共に勝君が彼女の関節を「分解」し、拘束の隙間を縄抜けのように滑り出て、ロケットの外に向かって落ちる。しかし、フェイスレスはしろがねさんの腕を掴み、必死に抵抗を繰り返す。

 

「エレオノールは僕のモノだ!!」

 

「しろがねはモノなんかじゃない!!」

 

「私達の家族を返して貰います!」

 

最後の力を振り絞って、フェイスレスの腕を殴る。

 

「あ、ああああああああああああああっ!!」

 

悲痛めいた慟哭を上げるフェイスレスの事を見下ろしながら、私は彼の隣を抜けて飛び降りようとした瞬間、フェイスレスの残っていた左腕が私の右腕を掴んだ。

 

「せめて、君だけでも…!」

 

「……ねえ、おじ様。私、ずっと途中から気になっていたんです。どうしてウソを吐くんですか?昔、私と遊んでくれていたときはウソなんて吐いていなかったのに」

 

ゴウゴウッと唸るロケットの噴射音を聴きながら、そう私の右腕を掴んだまま私を見上げるフェイスレスの事を見下ろす。

 

「……僕の初恋はフランシーヌだった。彼女の心も身体も欲しかったのに、兄さんが横から奪って行ったんだ。アンジェリーナもそうさ、僕の愛に気付かず日本で結婚していたのさ」

 

「そこまでは知っています」

 

「なら、明治時代の事は知らないだろう?」

 

その言葉に心臓が少し跳ねる。

 

ある日、彼女と出会った(・・・・・・・・・・・)。僕の未来を予知した物語を描く黒真珠のように美しい瞳をした。初めてだったよ、僕の正体に気付かれたのも憐れみを抱き、恐れながらも僕を見つめるあの眼差し」

 

「それが糸色景様との、出会いですね」

 

「そうさ。僕はフランシーヌを忘れて、アンジェリーナを愛していた筈なのに彼女を見たとき、稲妻に打たれたように心臓が高鳴ったんだ。日本の山猿なんて微塵も興味なかった僕の心に彼女は残り続けている」

 

それは、きっと今もなのでしょうね。

 

ですが、二人を狙うのはダメなことです。

 

「…なら、お墓参りに来てくだされば良かったんです。糸色景様はおじ様の行く末を知っていたのでしょう?それなら本心で話していれば良かったんです」

 

「……ああ、そうだね」

 

私の手を掴んでいた力が緩み、静かに出口に近付き、ゆっくりと空に向かって落ちる。フェイスレス……貞義のおじ様は愛憎の渦に呑まれ、壊れてしまったから会う度にイビツさが目立つようになっていたのでしょうね。

 

 

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