「勝君、行ってらっしゃい」
「お坊っちゃま、お気を付けて」
「う、うん」
小学校の校門前まで見送りに来た私としろがねさんに勝君はどこか恥ずかしそうにしながら入っていき、私達は顔を見合わせて小首を傾げる。
一体、どうしたんだろう。
「しろがねさんも行ってらっしゃい」
「……えぇ、行ってきます。ミコト」
そう言うとしろがねさんは小学校の隣に建つ高校に向かい、私は送迎のための車に乗り込み、勝君としろがねさんと違ってそのまま家へと戻る。
二人は自衛できるとお考えのようですが、お母様の伝で密かに護衛を配備しているそうです。忍者、忍び、そういう人達はまだ残り、現在は糸色に仕えている。
なんともロマンチックなお話である。
「お嬢様、窓の外を見るのは危険です」
「え、ああ、すみません」
四乃森のおじ様の言葉に納得し、姿勢を正して正面のモニターを眺める。ふと窓の外に大きなトランクケースを持った人達が此方を眺めているのが見えた。
しろがねさんの「あるるかん」と同種の物か、あるいは別の方が作ったものを利用しているのか。少しだけ気になって来ました。
「人形遣いの様ですが、どうします」
「四乃森のおじ様にお任せします」
「委細招致。────武装錬金」
「ほえ?」
運転席に座っていたおじ様が助手席に増え、私の左右の席にも現れ、窓の外を見ると他の車や自転車の荷台、バイクの後ろ席、電柱の上にもおじ様が見える。
「御庭番式多重身体術。簡単に言えば分身です」
「分身!」
お母様に四乃森のおじ様は忍者だと聞いていましたが、まさか影分身も使えるなんて想像していなかった。でも、みんな動いていない様にも見える。
どうやっているのかを確かめようと隣に座っている四乃森のおじ様の肩に手を伸ばした瞬間、フワリと霧のようにおじ様の身体は薄れ、消える。
「おじ様、分身は嘘でしょう。カメラの現像みたいにおじ様を立体的に配置しているだけですね。二重身体、いわゆるドッペルゲンガーのように視覚的錯覚を起こす特殊な何かを散布している」
「流石はお嬢様です。ご明察通り、私の持つ武装錬金『ミスティカル・エクスペリエンス』によって私の姿形を投影し、其処に置いているのです」
ミスティカル・エクスペリエンス。
日本語に略すと神秘体験。確かに、このおじ様がいっぱい歩いている光景は神秘体験とも言えるけど。ホラー映画のようにも思えます。
「しかし、ナンバープレートを確認しながら追いかけてきますね。お嬢様、暫く路肩に駐車しますが出ないようにお願いします」
そう言うと四乃森のおじ様は車を停めた。