「命、何処に行くつもりだ」
「えと、少し夜風に当たろうと」
「……はあ、連れていってやる」
私の隣のベッドで眠っていた巓ちゃんを起こしてしまい、申し訳ない気持ちになりながらも彼女の髪の毛に包まれ、車椅子に乗せて貰う。
カラカラと小さな音を立てて動く車椅子。車や飛行機、船は酔うのに不思議です。まさか私は自転車やバイクに乗っても大丈夫なのでしょうか!?
「車椅子は動く椅子だ」
「…し、知っていますよ?」
やっぱり、そう簡単に酔いは克服出来ませんね。
小さな声でそんなやり取りを繰り返していると、いつの間にかテラスに到着してしまい、ゆっくりと月明かりに照らされた椅子に巓ちゃんは腰掛け、私のプレゼントした『グルメテーブルかけ』を広げる。
こんな真夜中に食事なんて悪いことなんじゃ?と不安になる私に「馬鹿者、飲み物を呼ぶだけだ。お前は熱した牛乳でいいか?」と私にも訊ねてくれました。
それから熱した牛乳じゃなくてホットミルクです。
たまに巓ちゃんは特定の単語を話すのを嫌う。恥ずかしいのかな?とも思いながらマグカップを受け取り、ふうふうと吐息を吹き掛ける。
「命、日本に帰れ」
「……随分と唐突ですね」
「お前の身体はもう持たない。自分でも分かっているだろうが、心臓は次の戦いには耐えられない」
「フフ、正解です。やっぱり巓ちゃんはすごいですね、私が隠していても簡単に見破っちゃう」
マグカップをテーブルに置き、ひんやりとしたテーブルに身体を預ける。はしたないけど、無理に身体を支えるよりこちらのほうが安静に出来る。
「私は、もうすぐ死にます」
「死ぬだろうな」
「何ですか、泣いて下さいよ」
「愚図め、誰が泣くか」
「巓ちゃんは優しいですねぇ」
どうやったら生きれるのかを何度も考えて、ずっと諦めていたけど。ようやく私が生まれた意味を知ることが出来たんです。この命、この身体、全ては世界のために捧げるために使う。
「巓ちゃん、夢ってある?」
「いきなりなんだ?」
「良いから教えて、お願い」
「…………私は人になりたかった。昔から『そう在れ』と望まれたように振る舞っていた私を止めて、受け入れて貰えた私の望みは既に叶っている。そういう命、お前はどうなんだ?」
「……私は大人になってみたいです。好きな人と結婚して、自分の赤ちゃんを抱っこしてみたい、誰にも頼らずに生活してみたかった」
───ですが、もう叶わない夢だ。
「いつか叶えてやる」
「フフ、その時は期待しています」
次があるのなら、ですけど。