あのガラクタに腹を刺された挙げ句、自分自身の存在意義を失っていた事実を自白したフェイスレスに溜め息を吐きつつ、私は袖の中に手を入れる。
どうせ、命の事だ。
何か役に立つ発明品をこの中に仕舞っているだろうと袖の中を漁り、手に取ったのは何の変哲もない普通のチョコレートだった。
「喰うか?」
「フン。毒入りのチョコレートなんか喰うかよ」
「全くしょうのないヤツだな」
軽くチョコレートを齧って毒など入っていない事を教えてやり、重力が乱れて浮き始める血を避け、私の投げたチョコレートをフェイスレスは手に取り、小さく私と同じ場所を齧った。
「……味がしないね。僕には合わないよ」
「そうだろうな。ソイツは命のために作られた甘さも苦さも殺された。もはや甘味類のチョコレートとは言えない代物だ」
「僕と同じってわけか」
「一緒にするな。少なくともソイツは自分の役目を真っ当にこなしている。未来を示唆された?愛する女を奪われた?そんなもの世界で起こる些細な出来事の一つだ。悔いるなら悔いる。立つなら立つ」
「そんなヤツいるわけないさ」
「いいや、ソイツは本当に居る。私は、その男に一度だけ負けている。憎たらしく思えるほど強く決して折れぬ不屈の
シャガクシャ。
偶然私の事を宿した赤子は成長し、私を産み落とす常闇の感情を与えてくれた。それから二千年以上、あやつに追われていたのだ。
人の身を捨て、妖と成り果てた。
あやつが蒼月潮と出会わなければあやつに負けることはなかった。あやつが糸色妙に出会わなければ愛の強さを得ることはなかった。
悔やみ、妬み、怒り、幾度となく「我の場所を盗るな」と婢妖の
「存外、お前が思うほど悪いモノはいない」
「なんだよ、黙ったかと思えば説教か?」
「お前はちゃんと兄の言葉を聞いたのか。聞いていないのなら、才賀勝のところに言ってみると良い。ひょっとしたら分かるかも知れないぞ」
そう言って私はフェイスレスの手を引いて、才賀勝の元に向かうように急かしてやる。
しかし、それでも動こうとしないフェイスレスに深く溜め息を吐きつつ、黒髪を白髪に変えながら喉を軽く鳴らし、フェイスレスの後ろに立つ。
「
「ッ、……ズルいなぁ…ホント…フランシーヌの声で、お願いされたら断れないじゃないかぁぁぁ…」
ああ、勿論知っているさ。
痛いほど。胸が割けるほど。心が凍えるほど。お前が一瞬感じた喜びも悲しみも全て私が覚えていてやる。だから、行ってみろ。