「……傷、残るかなあ?」
「フ、世界最高の名医たる僕が執刀したんだ。傷なんて残るわけがないだろう?」
「命の身体に傷を残すわけないでしょう。残したら私より手際の悪い銀髪君の髪を坊主にしてあげるから、安心しなさい」
手術後の私のメンタルケアや移植手術の副作用の経過を確認しに来てくれたお母様とレッシュさんの会話を聴きながら病室前のドアに張り付いているお父様の入室はいつ許されるのかを問う。
「少なくとも安定するまで無理ね」
「そうですか…」
「アシハナならお見舞い品を置いて言ったぞ」
「本当ですか!?」
レッシュさんの言葉に私は寝転んだまま話すように言われていた身体を持ち上げ、ズキリと痛む胸を押さえながら英良さんが居る場所をレッシュさんに訊ねる。
───すると。レッシュさんは呆れたように溜め息をつき、壁際に用意されていた車椅子を押して、私の方に両腕を伸ばしてきた。
「アシハナはまだロビーに居るだろうが、その身体で無茶する訳にもいかない。僕が連れていくから車椅子で構わないな。マダム、許してくれるかい?」
「娘の恋路を邪魔するほど野暮じゃないわよ」
そう言ってくれたお母様に抱きつき、ゆっくりと車椅子に乗せて貰い、カラカラと回る車輪の音を聴きながら、エレベーターを使い、一階に降りると見慣れたロングコートの後ろ姿が見えた。
英良さん、英良さん!
「アシハナ、何処へ行くつもりだ」
「っと、ギイ先生ですかい。いや、ね…あー、そういうこともするんだな、今日日の医者ってのわ」
「英良さん、その…!」
「タンマ。ちょいと話すには人が多い。ギイ先生、ほんの少しだけ中庭を借りますぜ」
「ああ、良き結末を期待しているよ」
私の乗った車椅子を押してくれる英良さんに嬉しくなる反面、ようやくお見舞いに来てくれたという喜びで不安は消えてしまったはずなのに、もしも断られたらどうしようという恐れがある。
そんなことが頭の中をグルグルと駆け回っている最中、いつの間にか中庭に到着していて、英良さんは私の後ろではなく目の前に膝をついて話を聴く体勢になってくれる。
ゆっくりと深呼吸して、彼を見つめる。
「私、英良さんが好きです。あの森で話したときから、貴方に受け止めてもらったときからずっと大好きです。この気持ち以外に何も渡せないけど。その…」
「お嬢さんは考えすぎですぜ。あたしは殺し屋、金さえもらえりゃ何でもする悪投だ。元々あたしとお嬢さんじゃ住む世界が違うんですよ」
そう言って頭をガリガリと引っ掻いた英良さんは立ち上がって背中を私に向ける。待って、行かないで、どうしたら、良いの?
ころしや、あ、……そう、ですよね。
「英良さんっ!!」
「なんですかい。お嬢さん」
彼に向かって力一杯両手を伸ばす。
「わ、私に貴方の人生を売ってください!」
私はもう貴方にあげるものはないけれど、
「……お代はいかほどいただけるんで?」
「私の、全部をあげます!!」
そう叫ぶ私を優しく抱き上げ、英良さんはニヒルに笑っておでこにキスをしてくれた。
「ソイツは結構、喜んで引き受けやすよ。お嬢さん」
「はいっ、一生お側に居させてくださいね」